新病院から最善最新のがん治療を提供
大阪府立成人病センターは2017年3月、大阪国際がんセンターとして、新たなスタートを切った。年間約8千人と、西日本一のがん患者を受け入れる同センター。今後の戦略について、松浦成昭総長に聞いた。
◎国際がんセンターに込めた思い
大阪国際がんセンターの前身となる成人病センターは、1959(昭和34)年にがん、脳卒中や心疾患などの成人病治療に取り組むために開設されました。
開設当初から診療に加えて、生活習慣病の予防対策や検診にも力を入れていましたが、府内に国立循環器病センターが開設されたことや、1990年代以降のがん患者の著しい増加によって、当院の役割も、がんに特化する方向に変わってきました。
当院は大阪府の、都道府県がん診療連携拠点病院(各都道府県に1つ設置)で、府内の16の地域がん診療連携拠点病院、47の府がん診療拠点病院を統括しています。
私は直接、各拠点病院を訪問し、治療や患者さんに対する支援体制などについて意見交換をしながら、それぞれに努力を求めることで大阪全体のがん医療のレベルを上げたいと思っています。
当センターが新築移転という、新たなスタートを切るタイミングで、がんセンターと名乗ったのは、がんの専門医療施設としてこの地で運営をしようという決意を示すことにほかなりません。
また、国際と名付けたのは、国際的なレベルの診療や研究を目指すという意味もあります。外国人の患者さんも増加していますので、グローバルな意識を持つセンターを目指したいとの思いも込めました。
◎三つの役割
センターには、「病院」「研究所」「がん対策センター」の三つの機能があります。
病院では、現時点での最新で最善の医療を提供しなければなりません。研究所では現在の医療をさらに良くし、少しでも治療成績の向上につながる研究をします。
がん対策センターは、1962(昭和37)年に立ち上げられました。がんの集計や分析を担当しており、このような部門を持つ病院は国内にほとんどありません。
患者さん一人ひとりが、どのような治療を受け、治療成績はどうだったのか、治療の目安となる5年生存率はどうなのかといったデータを集め、それをもとに、治療法が妥当だったのかを評価します。
登録業務には診療情報管理士があたっています。データは当院のがんに対しての、治療の客観的な評価や、がん検診の評価のため必要不可欠なものですし、将来の医療政策を作る判断材料にもなっています。
これまで延べ120万人分もの膨大なデータが蓄積されています。大阪府が、早くからこのような部門を独立させて作った先見の明には、医療者として感心します。
◎新病院の環境と体制
当院のベッド数は500床。入院患者数は、2015年度のDPC統計で、がん研究会有明病院、国立がん研究センター中央病院、静岡県立静岡がんセンターに次いで国内で4番目となりました。
新しい病院では、できるだけ多くの患者さんをスムーズに受け入れられるよう工夫をしています。
新病院は、地上13階、地下2階、延床面積は約68,000㎡。旧センターより、約10,000㎡増えました。
手術室は、9室から12室に増やし、各部屋をこれまでの1.5倍から2倍程度の広い造りとしました。
最近は、手術支援ロボットの「ダビンチ」をはじめ、手術の機材が多様化し、広いスペースが必要になっています。これまで少し手狭だった手術室の問題も緩和されたと思います。
外来化学療法室も、20床から34床に増床。放射線治療装置「リニアック」は2台から3台に増設。将来的には、5台が稼働できるようにしています。
隣接地には来年3月の開設を目指して、重粒子センターを建設中です。重粒子線治療ができる施設は国内で6番目になります。
これまでハード面の問題で患者さんを待たせてしまうこともありましたが、新しい施設になり、大幅に改善したと考えています。
今回の移転は、センターの理念である「患者の視点に立脚した高度ながん医療の提供と開発」を改めて見直し、職員の意識を高めるための良いきっかけにもなったと思います。
◎変化するがん治療
日本で、一生のうちでがんにかかる人は2人に1人。その多くが治療後もがんサバイバーとして生活をしています。がんの治療成績を示す指標となる5年生存率は今は7割ほどと推測されており、かつてがんが「不治の病」と言われたころに比べると大幅に改善しています。
これに伴い、がん治療の中身もできるだけ患者さんの負担が少ない低侵襲な方法で、外来を中心にした治療へと変化しています。今後は、働きながら治療する患者さんへの配慮から、治療する時間帯も見直します。
患者さんの精神的サポート充実のための実証実験にも着手しました。笑うことによって、どの程度ストレス解消やがん治療への効果があるのか、免疫機能やストレスの状態などを調査します。
5月から8月まで、2週間おき、8回にわたり、「わろてまえ劇場」と題し、がんの患者さん70人に院内講堂で落語や漫才などを聞いてもらい、聞かなかった人と比較します。
早ければ年内に結果を出し、国際ジャーナルなどで発表したいと考えています。
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