法改正求め署名活動 福岡・患者遺族
若年性認知症患者に関わる障害厚生年金の受給資格改正を請願する署名活動が、各地に広がりを見せている。
中心となって活動するのは若年性認知症の夫を介護した経験を持つ、越智須美子さん( 64)=福岡市=。「働き盛りの人が罹患する若年性認知症には、深刻な生活苦など特有の問題がある。同じ思いをほかの人たちにさせないためにも、法改正を進めてほしい」と話している。
現行の法律では、障害厚生年金の受給を受けるためには、在職期間中に「初診日」があることが要件。しかし、越智さんによると、若年性認知症の患者の場合、退職後に医療機関を受診し、診断されるケースが多いという。
越智さんの夫、俊二さん(2009年に死去)は、1994年、47歳で物忘れなどの症状が始まった。しかし「疲労によるもので、受診が必要だとは思わなかった」と越智さん。職場では物忘れによるトラブルなども生じていたが、俊二さんから家族に相談がなかったこともあり、実態を把握できなかったという。
結局、俊二さんは52歳で退職。54歳で初めて受診、診断に至った。症状が出てから診断されるまで7年が経過していた。
俊二さんは、32年間、営業職として会社に勤務していた。退職前に受診していたら受け取れるはずだった障害厚生年金月額約20万円は受給できず、家計は、越智さんがリサイクルショップの経営などで支えた。
2008年に発表された実態調査(若年性認知症の実態と対応の基盤研究に関する研究)によると、18歳〜64歳人口における人口10万人当たりの若年性認知症数は、男性が57.9人、女性は37.6人。患者本人が家計を支えてきたケースが多く就労困難となった後、家族が経済的な問題を抱えることも多い。
認知症介護研究・研修大府センター(愛知県大府市)による「若年性認知症生活実態調査」(2014年)によると、発症時に仕事に就いていた人の66.1%が自ら退職。7.7%が解雇されていた。発症前と同じ職場で勤務している人はわずか1.8%。
本人が認知症になってから収入が減ったという家庭は6割を超え、家計が「とても苦しい」「やや苦しい」と答えた人は40.2%になった。
調査を実施した認知症介護研究・研修大府センターの小長谷陽子研究部部長(医師)は、「健康保険による傷病手当金などの制度はあっても、当事者に情報が伝わっていない」とし、「制度について企業の人事担当者に伝えるなどのアプローチも必要」と指摘。
男性は、物忘れなどの症状があっても相談しない傾向があるとして、「産業医への相談や電話相談などを活用し、早期受診につなげてほしい」と話した。
法改正を求める署名は2015年の開始以降、7万8322人(4月19日現在)分が集まった。目標は年内に10万人分。その後、衆議院議長、参議院議長宛に、署名を提出する計画だ。
用紙は越智さんのブログ(http://himawari1015.cocolognifty.com/)から入手可能。問い合わせは越智さん(TEL:080-6463-5849)へ。