入院前の支援部門設置で職員の負担を軽減
2014年に地方独立行政法人化するなど、変革が進む広島市立広島市民病院。「病院づくりは、ほぼイメージどおりに進んでいる」という荒木康之病院長は、どのような仕組みを取り入れたのか。
―近年の変化について。
高度急性期病院としての体制確立を目指し、ここ数年間で、さまざまな改革を進めてきました。
私が院長に就任した2012年はDPCⅡ群に認定され、手術支援ロボット「ダビンチ」を導入。
ロボット支援腹腔鏡下前立腺摘除術の年間の平均件数は約140件。全国的にも上位の実績です。ロボット手術の臨床見学の認定施設でもあります。
2013年は、2011年に一部稼働していた救急医療コントロール機能(救急患者を一時的に受け入れ、初期診療の上で連携する医療機関に転院する機能)を本格的にスタート。救急病棟14床を整備しました。
2014年4月、当院の運営は広島市から地方独立行政法人広島市立病院機構に移行しました。
市が定める職員定数などの制約から離れ、人材の確保も柔軟にできるようになりました。地方独立行政法人化のメリットの一つです。
2015年には、ハイブリッド手術室1室を含めて手術室4室を増設。計16室となりました。
設備面は最新のMRI、リニアックに更新。TAVI(経カテーテル的大動脈弁置換術)の実施施設にも認定されています。
当院は心臓血管外科、循環器内科が強みです。ハイブリッド手術室の強化、TAVIの認定は、当院の長所を伸ばしていく意味で、非常に大きなポイントだったととらえています。
―地域連携の考え方は。
当院を含めて地域の医療機関がそれぞれの役割を果たしていくためには、連携が欠かせません。
高度急性期病院の当院での治療後、近隣の開業医、中規模・小規模病院へ転院する。前方連携、後方連携のさらなる円滑化が必要でしょう。
患者さんにとっての理想は病院完結型かもしれません。実際、「なぜ転院しなければならないのか」という声があるのも事実です。
一方で、当院が担う役割、機能について、ご理解いただける患者さんも増えていると感じます。
「地域が一体となって医療に取り組んでいる」という仕組みを広く発信していくのも、私たちの務めだと考えています。
患者さんの満足度を高める上で今後の中心となるのは、2015年8月に開設した「入院支援室」だと思います。
当院の医療支援センターには、2002年に開設した地域医療連携室をはじめ、退院支援室、在宅支援室、がん診療相談室、生活・福祉総合相談室、医療安全対策室、情報管理室があります。
入院支援室は8番目に誕生した部署で、現在は主に看護師がブースに常駐して対応しています。
入院に関する各種の説明や、病歴や持参薬のチェック、手術前の口腔ケアなどをご案内します。
毎月、およそ500人の患者さんが入院支援室を経由して入院しています。これは全入院患者数の3割程度。乳腺外科、婦人科など、12診療科の患者さんが対象です。
今年度内には、現状の6ブースから16ブースへの拡張工事を終える予定です。職員が確保できれば、来年度には全入院患者に対応できる予定です。
利用したみなさんは「不安や疑問が解消できた」「じっくりと話を聞いてもらえてよかった」と、好意的に受け止めてくださっているようです。
―入院支援室の効果は。
入院支援室の設置を企画した狙いは患者さんの満足度向上と、看護師の負担軽減です。
多くの患者さんは10日前後の在院日数で、どんどん入院し、退院していきます。
在院日数が長くても短くても、看護師の仕事の内容は変わりません。診療密度が高いほど、効率化が求められ、やるべき仕事量も増えます。
しかも、高度急性期病院で受け入れる患者さんは合併症を抱えるなど、ハイリスクな方が多い。しっかりとケアするためには、看護師の負担を軽減する工夫が必要だと考えたのです。
病歴のチェックや、入院に関する説明が済んでいれば、病棟の看護師がその業務に時間を割く必要はなくなります。
そのぶん、患者さんのベッドサイドに行ける時間を増やせるわけです。時間外労働の削減などの効果も期待できるでしょう。
看護師の負担が軽減されると、間接的に医師の負担軽減にもつながります。その先は手厚い医療、看護というメリットとして患者さんに還元されるに違いありません。
この5月から、入院支援室のスタッフに薬剤師も加わっています。持参薬の確認も精度が高まりますし、診察医からの薬の相談なども、ここで受けることができます。かねてから、院内では薬剤師外来を開設したいという声がありましたので、その足掛かりになればとも思っています。
来年度の入院支援室の拡張時には、栄養士の配置もイメージしています。また、術前の口腔ケアの部分も力を入れていくつもりです。
最終的には周術期外来の機能を持たせたいと思っています。麻酔科の医師や看護師による、術前の説明を受けられる場に発展させていきます。
仕組みを変えずに「高度なことだけをやりなさい」といっても、職員の負担だけが膨らみます。無理をすればできるかもしれないが、長期的に安定した医療を提供できなければ意味がない。
多職種が協力すれば、安全に高度なことができるはずです。入院支援室が、その土台となればと思っています。
―人材の育成は。
私は副院長時代に研修医の教育を担当していたこともあって、「研修医が集まってくれる病院でありたい」と思い続けています。今年度は13人の初期臨床研修医を採用しました。
当院の救急科はER型で、救急車を年間約7000台受け入れ、約2万5000人が徒歩で来院されます。
「救急に参加したい」という研修医のニーズに応えていくことが、当院の医療レベルを引き上げることにもつながると実感しています。
1、2年次生の研修医には、ウオークインの患者さんの診療を担当してもらっています。2年次生が1年次生を指導することで、より勉強に励むようになりますし、それまでの経験や知識が整理されます。
1年次生にとっては「ここまでできないといけない」という見本になり、いい研修の場になっているようです。
リスク管理は大切だが、そればかりだと能力は伸びない。相談できる人がそばにいながらも、「自分が担当した患者さんに責任を持つ」経験を与えることが大切なのだろうと思います。
地方独立行政法人 広島市立病院機構 広島市立広島市民病院
広島市中区基町7-33
TEL:082-221-2291
http://www.city-hosp.naka.hiroshima.jp/