兄弟がそろい新しい共立病院へ
(前列左から)赤須巖理事長、赤須崇理事・久留米大学名誉教授・共立病院神経病態研究所所長、赤須誠介護老人保健施設東海園事務長(後列左から)赤須郁太郎院長、赤須晃治副院長、赤須玄医師、赤須陽一郎共立病院事務長
―病院の成り立ちを聞かせてください。
私の祖父にあたる赤須廉典が、1945(昭和20)年に当院の前身である赤須病院を開院。終戦間もないころですから、とにかく患者さんが多くて忙しかったと聞いています。
1950(同25)年の医療法人設立にあたり、祖父は兄弟に助けを求めました。7人の兄弟の中には、ドクターや放射線技師になった者がいたのです。
実家を継いだ1人を除く、6人の兄弟で始めたのがこの病院です。共に力を合わせて地域に尽くしたいとの思いから「共立病院」と名付けたそうです。内科、外科、産婦人科の3科でのスタートでした。
現在、内科、外科、整形外科、皮膚科、小児科、放射線科、リハビリテーション科、臨床検査科があり、法人内に介護老人保健施設もあります。理事長を務める赤須巖は廉典の長男で私の父。その長男が私で、3代目というわけです。
―強みは。
私の専門は消化器で、特に肝臓がんの治療に力を入れています。
特徴は、私の母校である久留米大学で発展したMCN(Microwave Coagulo-Necrotic therapy:マイクロ波凝固療法)を取り入れていることです。
MCNは細い針を肝臓に刺し、マイクロ波の熱によってがんを焼灼(しゃく)する方法です。切除に比べて腹部を大きく切開する必要がありませんので、患者さんの負担が軽減されます。ご高齢の方や、症状が重い方にも用いることが可能です。
患者さんの状態に合わせて、開胸せずに針を刺してラジオ波でがんを焼灼するRFA(radiofrequencyablation: ラジオ波焼灼療法)も選択します。
2002年から2015年にかけて収集した当院のデータでは、肝臓がんの患者さんの5年生存率は52.3%、10年生存率は24.2%。
参考として、国立がん研究センターの5年生存率は32.2%、10年生存率は15.3%(2016年1月発表)です。
―独自のアプローチは。
もっと成績を伸ばすには、手術以外にも、もう一工夫が必要だと感じていました。
そこで私が考えたのは、「MCNやRFAで治療した患者さんのC型肝炎ウイルスを駆除したらどうなるのか?」ということでした。
2005年から、手術と抗ウイルス剤を組み合わせた治療に着手。結果、2005年以降に当院で肝臓がんの手術を受けた人の5年生存率は72.7%、10年生存率は43.3%と、数値は明らかに向上しています。
インターフェロンの投与では副作用が課題でしたが、近年の新たな治療薬の登場によって、それもずいぶん緩和されました。外科と内科の領域を横断するこのアプローチは、非常に誇れる取り組みではないかと思います。
手術をした後、がんが再発する、しないというのは、個々の患者さんしだいというのが現実です。
特に肝臓がんは再発の可能性が高いと言われていますから、低侵襲の手術によって「次に備える」ことが大事だと思うのです。
私が重視しているのは、10回、15回と手術を重ね、治療を続けながら長生きしてもらうこと。MCNやRFAといった負担が軽い手術は、半年先、1年先の次の手術を見すえた戦略というわけです。
外科は目に見えるもの、手先の感覚などを第一にトレーニングを積み重ねるのが一般的です。
その意味では、超音波エコーで位置を確認しながら腫瘍を焼くMCNは、これまでとは異なるスキル、いわば職人技が求められます。簡単に修得できるものではありませんから、まだ広く普及するには至っていません。
私としては、MCNがもっと他の医療機関にも広まってほしいと願っています。ですから職人技にとどめておくのではなく、今後は取り入れやすい手法の確立、土壌づくりにも乗り出したいと考えています。
―地域への思いは。
私は2002年に延岡へ帰ってきてから、「当院が地域の核になっているかどうか」を常に問い続けてきました。私が諦めたら患者さんは助からない。それを肝に銘じ、なんとしてでも地域で完結できる医療を届けようと心がけています。
この15年間に、10回、15回と、私が何度も手術を担当した患者さんも少なくありません。
ずっと接していると、患者さんのご家族のことや、交友関係などが、本当に詳しく分かります。地域のみなさんがどんな暮らしをしているのか、延岡市のあちこちの様子が見えてくるのです。
特に、患者さんから「知り合いから先生のことを聞いて来ました」といった言葉をかけてもらうと、「信頼してもらえている」と感じると同時に、「私も地域の一員になったのだな」とうれしくなります。今後も、より地域にとけ込んでいきたいと思っています。
私は一貫して現場主義。院内に院長室はありません。いつも手術室にいて、できるだけ、みんなと一緒に食事を取り、話し合って今後のスケジュールを組みます。
現場にいないと、本当のことは分からないと思うのです。例えば職員の報告書を読んでも、そこに書かれている文章はあくまで報告用のもの。本当の思いや理由は書かれていないことも多い。問題がどこにあるのかが把握できなければ、改善できません。
ですから、なるべく現場の雰囲気を感じて、本音を聞き取ろうと努力しています。
―今後の動きについて。
4月、久留米大学医学部外科学講座講師として心臓血管外科分野にいた弟の晃治が戻り、副院長に就任しました。2015年には三男の玄(消化器外科)が戻っており、これで私の兄弟がそろったことになります。
副院長は総合診療科の中心として、内科、外科、乳幼児から高齢者まで、幅広く診療します。心臓血管外科の最前線から、次のステージとして、地域医療を選んだのです。私たちとしても心強いですし、当人も期待に応えようと、強い思いを持っています。
いわゆる親族経営で、私たちほどうまくいっている病院は他にないのではないかと自負しています。
それは地域に尽くしていくという理念が、開院時から一貫しているから。同じ目的のために生きているからです。
2019年に、病院を新築移転します。時代に則した病院にすることはもちろん、これからの30年、40年後に私たちの子どもたちが地域医療を担っていくことも念頭に置いた病院を目指します。
地域包括ケア病床を増やすなど、より高齢化社会に対応できる機能を充実させます。同時にグループホームや訪問看護も強化し、私たちが最後まで地域の方々をサポートする体制を築きたいと思います。
もう一つ、移転は自然災害への対策でもあります。南海トラフ地震発生のシミュレーションによると、15m級の津波が押し寄せた場合、現時点では地域の医療機関は軒並み大きな打撃を受けます。
高台に移転することで、当院が唯一、津波の被害を免れることになります。災害時の拠点病院としての責務を果たすためにも、しっかりと計画を進めていかねばならないと、気を引き締めています。
医療法人伸和会 共立病院
宮崎県延岡市中川原町3-42
TEL:0982-33-3268
http://www.nobeoka-kyoritu.or.jp