神戸大学大学院医学研究科精神医学分野 曽良 一郎 教授

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脳科学のリテラシーを持った人材を育てたい

【そら・いちろう】 徳島県立城南高校卒業 1982 岡山大学医学部卒業同附属病院精神神経科 1986 同大学院医学研究科(神経精神医学専攻)博士課程修了 高見病院(精神神経科) 1988 国立療養所山陽荘病院(神経科てんかんセンター) 1989 財団法人慈圭病院(精神科)1991 米国アリゾナ大学医学部薬理学教室客員研究員 1993 米国国立衛生研究所(NIH)付属薬物依存研究所分子神経生物学研究部門客員研究員・室長 1999 東京都精神医学総合研究所分子精神医学研究部門部門長 2002 東北大学大学院医学系研究科精神・神経生物学分野教授 2013 神戸大学大学院医学研究科精神医学分野教授

 神戸大学の精神医学教室は1950(昭和25)年に開設。児童から高齢者、急性期から慢性期までの幅広い精神疾患に対応している。

 5代目の曽良一郎教授に今後の展望などを聞いた。

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◎認知機能改善が課題

 統合失調症での幻覚、妄想、攻撃などの症状は抗精神病薬を使って治療することが可能になってきました。

 ただ、自立・就労のために必要な情報処理能力、注意力、記憶力、集中力、理解力、問題解決能力などの認知機能障害は抗精神病薬では対応できません。

 認知機能障害は、統合失調症だけでなく、双極性障害(躁うつ病)など、ほかの精神疾患でも起こることが報告されています。

 私は東北大学の教授をしていた10年ほど前から、この統合失調症における認知機能障害の新薬を開発するための指標となる、包括的認知機能評価テストバッテリー(MATRICS ConsensusCognition Battery; MCCB)の日本語版の開発プロジェクトに関わりました。

 認知機能障害の改善のための新薬開発は今後、チャレンジしていかなければならない大きな課題ですね。

◎身体疾患と精神疾患、対応の違い

 精神疾患の診断には世界的にDSM(米国の精神障害の診断と統計マニュアル)が用いられています。

 DSMでは病気の症状をチェック項目に当てはめて診断を下します。しかし、それは必ずしも病態を反映していません。

 DSMを使って病名を付けることで治療方針を決め、薬を選べるというメリットがあります。しかし患者さんの脳内にどんな変化が起こっているかまでは、DSMの病名だけでは残念ながら分からないのです。

 身体疾患であれば検査の数値や画像が診断の助けになります。でも多くの精神疾患の場合、そうしたバイオマーカーを基にした診断が今のところできません。

 精神科では患者さんの生い立ち、家庭背景などを考慮した診療も必要です。家庭環境や経済状況に恵まれている人は、家族からのサポートが受けられ、治療を継続しやすい状況にあります。しかし、必ずしもそんな人ばかりではありません。そうではない人に治療を継続してもらうためには、医師一人ではなく看護師やメディカルスタッフの力を借りたチーム医療が求められるのです。

◎活躍のフィールド

 かつての産業医は労働者の身体の健康管理が主な仕事でした。しかし現在ではメンタルヘルスが占める割合が高まってきています。

 近年は司法精神鑑定の需要も高まっています。また今年からは交通違反をした75歳以上のドライバーに対する認知機能検査が義務付けられました。

 昔はがん患者さんに精神科医が積極的に関わることはありませんでした。しかし現在は、がん診療連携拠点病院内の緩和ケアチームに精神科医を在籍させることが求められています。

 精神科はみなさんが思っている以上に活躍のフィールドが広いのです。カバーしなければならない範囲はとても広いのですが、それをカバーできるだけの精神科医が不足していることが大きな問題ですね。

◎精神科の魅力

 診療科の中には体力が必要な科や、手術となれば高い集中力を要し、年齢を重ねるとしんどくなってくる科もあります。だから近年は、精神科医に転向する他科の医師が増えてきています。

 精神科医は患者さんを全人的に診なければなりません。前述したように症状だけでなく、その方が置かれた家庭環境、社会環境が病気の予後に深く関係してくるのです。

 全人的な診療をするには、ある程度、人生経験が必要かもしれません。

 年齢を経て、さまざまな経験をするごとに成長できるのが精神科の奥深さであり、魅力だと思いますね。

◎脳科学の進歩

 MRIなどの脳機能画像検査の進歩で、脳の各部位の働きと精神症状の関係が少しずつ分かり始めてきました。しかし、未だその脳科学の進歩が精神科の臨床に十分に反映されてはいません。しかし、近い将来、応用できるバイオマーカーが使えるようになることが考えられます。 当教室では脳科学のリテラシーを持った精神科医を育てていきたいと考えています。

◎深刻なネット依存

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 基礎研究で薬物依存についての研究をしています。幸いにして日本ではハードなドラッグや覚せい剤の依存症患者は、海外に比べて少ないのが現状です。しかし、欧米では深刻な社会問題となっています。

 日本で最近問題となっているのは向精神薬(抗不安薬、睡眠薬)などへの依存です。これらの薬は節度のある使い方さえすれば、依存性も低く、さほど問題ではありません。

 しかし服用量が増え、長期間使用すると依存になってしまいます。

 薬物やアルコールなどの依存は物質依存です。一方、ギャンブル、セックス、インターネットなどへの依存を「非物質依存」と言います。

 これらの依存者のうち、病院に来て診療を受けるのはごく一部にとどまっています。診療に来られない潜在患者は、とても多いことが予測されているのです。

 インターネットのオンラインゲームはとても依存性が高いと言われています。ネット依存患者が寝食を忘れてゲームをした結果、死亡した例が海外で報告されています。

 オンラインゲームの中でも特に依存性が高いのが、マルチプレーロールプレイングゲームです。これはネット上のプレーヤーと協力して敵を倒し、成長していくシステムのゲームです。

 従来のオフラインのロールプレイングゲームは、一度クリアしたら、もう一度プレーしようとする人は、あまりいません。一方、オンラインのロールプレイングゲームは、参加者によって毎回シチュエーションが異なります。そこにはまってしまう嗜癖性の極めて強いゲームなのです。

 スマートフォンの普及により、特に若い人たちの間でソーシャルネットワークサービスに多くの時間を費やす人が増えてきました。これも一種の依存症だと言えるかもしれません。

 精神疾患の定義は日常生活に支障をきたすことです。そこまでに至るケースもありますが、そうなる手前の人が多いと予想され、まだ実態を十分につかめていないのが現状です。

 ネット依存などの非物質依存者は、今後も減るどころか増える一方でしょう。非物質依存対策に取り組むことも今後の大学の使命だと感じています。

神戸大学大学院 医学研究科 精神医学分野
神戸市中央区楠町7-5-1
TEL:078-382-5111(代表)
http://www.med.kobe-u.ac.jp/psyneu/


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