同じ思いをしている親子に
熊本市の会社役員、黒田哲平さん(37)が、子ども向けの保湿液「ままこふれ 保湿ジェル」を開発した。
アトピー性皮膚炎がある子どもの父親ならではの視点を生かし、配合する材料や分量、使い心地などに配慮。ママのコフレ(宝箱)と名付けた商品には、「自分たちと同じ思いをしている親子に使ってほしい」という願いが詰まっている。
黒田さんの本職は理化学機器販売商社「陽光理研」(熊本市)の専務取締役。1981年に父親が創業した同社で、実験器具や研究機器を大学などに販売してきた。
「いつか自社独自の商品を」という思いを抱いていた2014年11月、熊本市主催の産学連携のための相談会「事業化マッチングのためのラウンドテーブル」に参加。そこで、熊本など九州の一部で自生するラン藻類「スイゼンジノリ」からとれる超分子多糖体(サクラン)の研究に取り組む有馬英俊・熊本大学薬学部教授と出会った。
「ヒアルロン酸の6倍高い吸水性」「抗炎症効果が報告されている」...。サクランについて語る有馬教授の言葉に、胸が躍った。
◎目指したい「食べられるようなジェル」
そのころ、長女のアトピーに悩まされていた黒田さん。かゆみで夜も起きる、かきつづける、肌のきめが乱れる...。何軒もの皮膚科に通ってもなかなか改善しない状態に、夫婦で「何とかしてあげたい」と話し合っていた時期だった。
サクランの話は、黒田さんを突き動かした。「これを使えば、娘のようにアトピーや乾燥肌の子にも安心して使える保湿剤ができるかもしれない」。すぐに化粧品製造に詳しい知人や、もともと取引があった化粧品を製造する企業に相談。支援してもらえることになった。
コンセプトは、「食べられるような保湿ジェル」。鉱物油、界面活性剤、合成香料、エタノール、防腐剤、合成着色料はすべて不使用。小さな子どもが使う製品だからこそ、サクラン以外の材料も厳選した。
知人が作ってくれた試作品を、長女に使って様子をみる。それを1年近く続けた。「子どもはべたべたするのを嫌がるのでべたつきは出したくない。でも、保湿力は高めたい」。油分を追加するための材料選びは難航。最終的に馬油にたどりつき、2016年秋、完成した。
「ままこふれ」の成分は、シイタケ、シロキクラゲ、カワラヨモギなどからとれたものも使用。販売名にはママの宝箱という意味のほかに、"ママ"と"子"が"触れ"合うきっかけになれば、という願いも込めている。
◎アンケートでも好評
昨年秋、補助金を受けて1000個製造。1カ月分200ml入りを、幼い子どもがいる知人、乾燥肌などで悩む人に配った。回答が集まり始めたアンケートでは、75%が「購入して使いたい」と答えている。
4月末にはウェブサイトと調剤薬局での販売を開始。将来的には、違うサイズの製品を出したり、原料の配合量を変えた商品を出したりと、さまざまな展開を考えている。
「娘はこの保湿ジェルを使い始めて状態が安定している。自分自身が経験しているのが財産で強み。使った人に『これを使ってよかった』と言ってもらえるものを作り、口コミで広げていってもらえたら」と話している。
● 問い合わせ先/株式会社 陽光理研
● 電話/096-338-7711 ● URL / https://mamacoffret.com/