ハード面を整備、地域の急性期医療を支える
関西医科大学総合医療センターは、昨年5月の本館新築を機に関西医科大学附属滝井病院から改称。新たなスタートを切った。岩坂壽二病院長に、特徴などを聞いた。
◎リエゾン精神医療
私たちは旧滝井病院時代からリエゾン精神医療に力を入れています。リエゾン精神医療は、各診療科の医師と精神科医が協力して、患者さんの精神的な不安や苦悩、うつ状態をとり除くことを目的としています。
リエゾンチームには精神科医のほか、精神科認定看護師も在籍していて各病棟を回診しています。また救命救急センターには2人の精神科医が常駐しています。
救命救急センターには自殺未遂をした人がたくさん運ばれてきます。そこで昨年「大阪府自殺未遂者支援センター」(通称Iris=アイリス)を院内に設置しました。アイリスでは自殺未遂をした方の精神面のケアをしています。
アイリスという花には、花言葉で「優しい心」「あなたを大切にします」という意味があります。「命をレスキュー、命をサポート」を合言葉に、患者さんの悩みの解決に向けて、必要な支援をしているのです。
◎最先端の手術室
私たちは大阪市北東部エリアの急性期医療を担っています。年間約2500台の救急車を受け入れ、その内の約1500人が入院されます。「断らない救急」を心がけていて応需率は、ほぼ100%です。
新館には11の手術室があり、回収廊下型手術室を採用しています。回収廊下型手術室は、手術室の外周に非清潔器材回収専用の廊下を設けているのが特徴です。清潔器材と非清潔器材の動線を区別することで医療安全の向上が期待できるのです。
関西地区で初の輻射熱式空調システムを、まず眼科専用手術室に整備しました。このシステムの導入により手術室を最適な温度、湿度に保つことが可能になりました。患者さん、医療者双方のストレス軽減につながると思っています。
また今春には、救命救急センター内にIVR/CT(ハイブリッド手術室)を整備。患者さんを移動させることなくCT検査、カテーテル治療、緊急手術をすることができるようになります。
◎プライバシーに配慮
産婦人科外来と乳腺外来は他の患者さんから中が見えないような造りにしていて、できるだけ患者さんのプライバシーに配慮するように心がけています。
また患者さんの利便性と費用負担軽減のために外来調剤を院内処方に切り替えました。医師と薬剤師が直接対話することで、より患者さんに寄り添った治療ができるようになったと思います。
現在では、院内処方が80%を占めるまでになりました。
◎ホスピタルガーデン
現在、旧本館建物の解体工事が進んでいます。来年春、その跡地に国際規格のサッカー場と同じくらいの面積のホスピタルガーデンが完成します。
患者さんや市民の方の憩いの場として利用していただけたらと考えています。また当院は災害拠点病院ですので、災害時の避難場所に使っていただけたらとも考えています。
◎災害救助訓練を実施
2月2日、解体工事中の旧本館で災害救助訓練を実施しました。解体工事中の建物での訓練は全国的にも珍しいと思います。
訓練は負傷者の数や位置、けがの程度を事前に知らせない「ブラインド方式」を採用。解体工事中の建物が地震で倒壊し、作業員30人が建物内に取り残されたという想定で訓練を実施しました。
地元の消防隊と当院のDMATが参加。レスキュー隊が壁を破壊して、負傷者を助けだすという実践的な訓練ができたのも、解体中の建物を利用したからこそだと思います。
◎基本を身につけてほしい
当院は手術支援ロボット「ダビンチ」を導入していません。また今後も導入予定はありません。それは若いころからロボット手術ばかりをしていると基本の手術手技が向上しないと考えるからです。
基本的な手術がきちんとできなければロボットがない病院に行ったときに困ってしまうでしょう。外科医には基本である手術手技をしっかりと身につけてもらいたいのです。
◎人を好きであれ
高校で成績優秀な生徒が、自分の適正を考えずに安易に医学部を選択する風潮があります。しかし私はそれを疑問に思っています。医師は人を相手にする職業ですので、最低限「人が好き」な人に医師になってもらいたいですね。
人間が嫌いなら基礎研究に進めばという人がいます。でも、それは間違っています。人が好きじゃないといい研究はできません。山中伸弥・京都大学教授がノーベル賞を受賞したのも人間が好きだからです。人を助けたいという熱い思いが根底にないと、いい研究はできません。
医療訴訟の原因の大半は医師と患者さんとのコミュニケーション不足が原因です。知識、技術の前に「人が好き」であることが医師には求められるのです。