高度ながん医療で地域に貢献
◎「だんじり」に象徴される土地柄
府外の人が「岸和田」と聞き、まず思い出すのは「だんじり祭り」かもしれません。毎年、マスコミで大きく報じられているので、知らない人が少ない祭りの一つだと言えるでしょう。
だんじり祭りのイメージが強いからでしょうか。岸和田は気性の荒い人が多い町だと思われがちです。たしかにそういう面は否定できません。しかし、私はむしろ裏表のない、さっぱりした熱い心の人が多い町だと思っています。
医療に関しては、納得のいかない部分があると、ズバズバと聞いてきますが、いったん納得すると、しっかり治療を受けてくれる人ばかりです。
私は和歌山県出身で大学は京都大学です。こちらに来るまでは、縁がなかった土地ですが、岸和田の人たちは患者さんも職員も潔い性格なので、とても仕事がしやすいですね。
◎圏外搬送不要の病院協力
当院がある泉州2次医療圏の人口は、およそ90万人。面積は大阪府の約4分の1を占めています。医療圏内には大学病院や大規模病院が存在せず、300〜400床の中規模病院が多いのが特徴です。
大阪北部の医療圏と比較すると当医療圏の医療レベルは高いとは言えないかもしれません。向上のためには一つの病院だけが、がんばっても限界があります。各病院が協力し、役割分担していくことが必要だと考えています。そのことを各病院もよく理解していて、病院間の協力体制がスムーズに取れていると感じます。
その一例をあげましょう。当医療圏の救急車の圏外搬送割合は、ここ数年間10%を切っています。救急の病院間協力の体制が整っている証拠です。
いわゆるたらい回しで圏外の病院に行く患者さんを出さないように、吐下血、脳卒中、四肢外傷に関しては最終受け入れ当番病院をつくっています。原則、近くの病院に運びますが、万が一そこで断られた場合、絶対に受け入れる病院を輪番で定めているのです。
◎大規模病院に負けないがん医療
当院は国指定のがん診療連携拠点病院です。
大阪府内の病院を見渡すと500以上の病院中、2016年7月の時点で、病院内にPET―CTがある病院は29、緩和ケア病棟入院料届出受理施設(以下:緩和ケア病棟)がある病院は15です。PET―CTと緩和ケア病棟の両方がある病院は当院を含めて3病院しかありません。
当院には大規模病院に引けをとらないがん医療を提供する体制が整っていると思います。
◎連携強化で急性期病院を維持
私たちの病院は、基本方針に高度・専門医療と救急医療の充実を掲げています。2014年に病床機能報告が始まったのを受け、当院でも将来、どんな病院になるべきかを検討しました。その結果、従来通り、高度急性期病床を主体とした急性期病院であり続けようとの結論に達したのです。
急性期病棟の一部を地域包括ケア病棟や回復期病棟に変更するのではなく、泉州地域全体を一つの医療体と考え、病病連携・病診連携をさらに進めていくつもりです。
◎良質な医療を
公立病院なので、財政事情は決して良いとは言えません。しかし必要な人的投資、設備投資は惜しんでいません。こういう投資が市議会で認められるということは市民のみなさんからの信頼が厚いからだと思っています。今後も地域住民のために良質な医療を提供し続けたいですね。
泉州2次医療圏の21病院を対象に、患者さんがどこの病院に入院しているかを疾患群別に調査したデータがあります。
それによると耳鼻咽喉科系疾患と呼吸器疾患は当院がトップ。そのほかの疾患に関してもおおむね5位以内です。幅広く、レベルの高い医療を実践できていることが数字にも出ていて誇らしい気持ちになりますね。
◎キャリアアップと復職をサポート
医師のキャリアサポートとして、国内だけでなく国際学会に参加する場合も援助をしています。さらに医師には勉強し続けてほしいとの思いから論文発表1編につき最高7万円までの奨励金を支給。また後期研修医対象に最長3カ月の国内留学制度を設けています。
女性医師支援としては部分育児休業制度を設けています。お子さんが小学校を卒業するまで、1日に2時間まで時短勤務できる制度です。例えば1時間遅く出勤し、1時間早く帰るといったことも可能です。また院内保育所、学童保育、病児保育なども完備しています。
◎真実はベッドサイドにあり!
目指す病院像について職員に常々言っていることがあります。「年功序列にとらわれず、流した汗だけ報われるフェアな病院運営」「各スタッフが本来の業務に専念できる環境」「メリハリのある勤務」「自由に意見を言うことができ、変化を嫌がらない風土」です。
前例がなければ作ればいいし、無理なのでしない、ではなく、何ができるかを常に考えてもらいたいと思っています。私たちがハッピーでなければ患者さんをハッピーにするお手伝いはできません。楽しく働ける病院にしようと思っています。
当院では毎年キャッチフレーズを定めています。院長になった最初の年のキャッチフレーズは「チャレンジなきところに未来なし」。昨年は「小さな奇跡の生まれる病院にしよう」でした。
今年のキャッチフレーズは「真実はベッドサイドにあり!」。医療者は患者さんに接してなんぼの職業です。常に患者さんのもとにいてほしい、それを意識してほしいとの思いから、このキャッチフレーズにしました。
◎外科医の生きざま
これまでの医師人生で影響を受けた人はたくさんいます。そのなかでも印象深かった方が外科医になりたての頃に勤務した滋賀県立成人病センターの先輩で、その後、ある大学の教授になった先生です。
その先生は自身ががんを患い手術を受けましたが、その後、何度も再発。その度に手術を繰り返しました。先生は「自分は外科医だ。手術で取れるかぎりはできるだけとってほしい」とおっしゃったそうです。
その判断が、はたして医学的に正しかったかどうかは分かりませんが、外科医の生きざまというものを学んだ気がしますね。