急性期から慢性期までエキスパートを育てる
世界で一番の循環器内科を目指して
―昨年10月に42歳の若さで教授に就任。約5カ月が経過しました。
熊本大学を卒業してから、主に臨床で研さんを積んできました。特に循環器領域では急性心筋梗塞や循環器の救急医療を中心に患者さんに向き合ってきました。教授会でどのような評価をしていただいたかはわかりませんが、基本的には、大学病院において循環器救急を中心とした臨床を活性化させることを期待されていると思います。
―臨床系で最年少の教授として、教室をどうかじ取りしますか。
初代の泰江弘文元教授、第2代小川久雄前教授が築かれた、臨床研究および臨床の伝統があります。まずは、それをどのように受け継ぎ、発展させるかということを考えなければなりませんし、それに尽きるとも思います。
それぞれが協力しながら伝統を守り、次の世代に伝えていきたいというのが医局員全体の思いで、そういう意味では良い船出になっているという感触はあります。
先代、先々代から続く当教室の特長として、とにかく患者さんを診て、現在可能な限り最善の治療を提供するという理念があります。
また、患者さん一人ひとりと真摯(しんし)に向き合う中でぶつかる、まだ解決できない臨床的課題を研究にフィードバックしています。「懸命に患者さんに対応する中で湧いてくる臨床的疑問が研究のシーズ(種)だ」というのが、先代教授の口癖でしたから、それが当教室の伝統といえるかもしれません。
教室には約20人の大学院生が所属しており、入ったばかりの5人のレジデント、さらに寄付講座も含めたスタッフが約25人在籍しています。
―臨床経験が豊富ですが、これから求められる医師像をどう考えますか。
熊本県は全国平均以上に高齢化していますから、ほとんどの患者さんに循環器疾患の併存があります。地域医療に目を向けると、あらゆる医療機関でたくさんの循環器内科医が求められています。
一方で、TAVI(経カテーテル大動脈弁留置術)やPCI(冠動脈インターベンション)、アブレーション治療などの、高度先進医療としての循環器内科も必要とされています。
地域医療と高度先進医療の両方へ目配りを怠るわけにはいきませんが、特に最先端医療を活性化させることは大学としての大事な使命だと考えています。
もっとも、ジレンマもあります。若い循環器内科医はどうしても高度医療に目がいきがちですが、地域医療の重要さについても考えてほしいのです。高度先進医療を教育しつつ、高度先進医療を施した患者さんのその後、例えばどのような内服治療が有効かにまで思いが至る循環器内科医を育てなければなりません。目指しているのは長期的フォローができる循環器内科医の養成です。
大学には派遣機能が求められていますが、入局者が減って派遣機能が落ちているという危惧があります。
私たち大学医学部には地域医療を守るという使命がありますので、県下隅々まで患者さんを治療するための医師を派遣するという意味では、「派遣機能を落としている場合ではない」と強く自分自身に言い聞かせています。
そのためには結局、医局員や同門会員を増やすことが必要になりますし、そのためには後期研修医に入局してもらわなければなりません。しかし、初期研修を終えようという方に、「長期的展望に立って地域医療を支えよう」と語ってもなかなか実感がわかないでしょう。彼らが急性期の高度医療に魅力を感じるのは、自分もそうでしたから当然だと思います。
そうすると、熊本大学が中心となって高度先進医療を活性化させるのはもちろんですが、そこに意欲あふれる若手後期研修医を集約することで、結果的には県内地域医療を支える人材を育てることにつながると考えています。
―大学に所属されたのは2009年と、かなり遅かったのですね。
先進医療や高度医療について学びたいという思いは医学生時代からありましたし、高度医療を提供できる医師になりたいという思いもずっとありましたが、大学で教官の職に就くとは実はまったく考えていませんでした。
ただ、基幹病院で医療チームをマネジメントしたいという思いはずっと持ち続けていました。それが若い医師を育てたいという思いに昇華したのかもしれません。
高度医療を提供しつつ、患者さんへのアフターフォローもきちんとできる医師に、自分自身がなりたかったので、同じ思いを持った若手医師を育てたいですね。
今でも高度医療を提供する医療チームをマネジメントしたいという思いは変わらないので、その過程で有望な若手を育てることができると考えています。
―医師の育成について、かなり強い思いを持っていると感じました。
急性期から慢性期までを診ることができる医師を育てたいということが、まずは第一の目標です。臨床と教育に関して、熊本県は伝統的に循環器救急が盛んですので、たくさんの基幹病院があります。なにも大学だけにこだわって育てる必要はないと思いますし、たくさんの救急症例数をもつ基幹病院と協力して医師を育て、診療を活性化させたいと思います。
教室運営に関しては研究をもっと活性化させて、県内医療を変えるのみならず、国内全域、さらにその先にある世界の医療に一石を投じる研究を、これまで同様に追究していきます。
留学中にも実感しましたが、熊本ほど大学から基幹病院、そしてかかりつけ医までのネットワークが構築されている地域は少ないと思うのです。せっかくのネットワークですので、これをいかして臨床研究を発展させる「熊本モデル」をさらに強化し、活性化させたいです。
熊本大学の同門で県の循環器医療が成り立っているので、この思いは共通であり、これこそが財産だと実感しています。