地域の泌尿器科診療の中核施設として
手厚い教育体制で患者に寄り添う医師を育成
◎定評ある診療実績他県からの来院者も
当科は泌尿器科領域の疾患にオールラウンドに対応することを目標に、診療をしています。泌尿器科領域のほとんどをカバーし、泌尿器科がんはもちろん他大学ではあまり対応しない小児疾患や婦人科疾患(Female Urology)領域や神経障害に伴う腎・尿路の問題に対しても治療を提供しています。このため、腸管利用の尿路再建術等の特殊な手術を受けることを目的に、他県からお見えになる患者さんもいます。
泌尿器科がんの治療においては、がんの根治性と臓器機能温存を目標に診療を行っています。これには、ダビンチを用いたロボット支援手術が威力を発揮します。ダビンチを用いたロボット支援手術は当科の特長で、県内では当大学病院と県立佐賀県医療センター好生館で運用中です。ロボット支援手術で唯一保険診療ができるのが泌尿器科の前立腺がんと腎がんですので、泌尿器科はロボット手術の恩恵を受けていると言えます。
学生も、ロボット支援技術にかなり興味を持っています。毎週の手術実習で3D用グラスをかけて見学してもらうと、臓器の詳細な様子や隣接臓器との関係までがはっきりわかって好評ですので、非常に効果的な教育システムであることも実感しています。
◎充実した教育システム
地方の大学は入局者が減る傾向が続いています。今後はわれわれ大学人が魅力ある診療や教育、研究を提示できるのかが問われてくるでしょう。
当教室では学生および研修医への教育をしっかりとプランニングしていることも特長と言えます。泌尿器科的に重要な疾患や手技、診断技術、治療計画など、重要項目を最初にあげて、到達してほしい基準も示し、それをもとに研修医と指導医が習得度をチェックしています。また、それが一方通行にならないように、逆に研修医の先生からわれわれを評価してもらう逆評価システムも取り入れています。
さらに研修期間が半分進むと指導医を必ず交代して疾患の偏りがないように配慮します。知識などの偏りを防ぐために、研修期間中は指導医と私でダブルチェックできる体制を取り、不足があれば後半の研修期間で補うようなシステムも敷いています。
◎主体的な学びの場へ
われわれ泌尿器科は外科系ですので手術が治療の半数以上を占めます。必然的に実習も手術に関係するものが多くなりますので、手術中は術者以外にドクターのナビゲーターをつけています。
ナビゲーターは、学生に対する観光ガイドのような役割で手術を実況中継して、学生の理解を助けます。手術の解説にとどまらずその場で学生とディスカッションすることで、学生は受け身の教育ではなく主体的に学ぶことができるのです。
この場面で自分ならどう判断するのか、この状況にどう立ち向かうのかという判断まで求められるバーチャル体験を導入した教育プログラムですので、学生にも好評です。
もう一つ、患者さんが納得するわかりやすい説明ができるのかのトレーニングも、泌尿器科の実習期間中に組み込んでいます。泌尿器科学の理解習得に加え、それを要約して、いかにわかりやすく説明できるかのトレーニングです。
しっかりと理解して習熟すれば自信が持てます。それがないと一方的に患者さんに説明をして、患者さんがわかっていないのに「はい終わり」なんて対応をしがちです。そこに不信感が生まれます。
◎排泄ケアへの取り組み
また、泌尿器科は排泄(はいせつ)・排尿管理が重要になりますので、「みんなの排泄ケアネット」というウェブサイトをNPOで運営しています。
実は、医学部や看護学部では「排泄学」をきちんと教えていないんです。「排泄」というプライバシーにも関わるナイーブな問題であるにも関わらず、今までは伝統的かつ経験的なケアが行われてきました。これが正しい対応の場合もありますし、まったく間違ったケアの場合もあります。今後、超高齢社会において、エビデンスに基づく排泄ケアが望まれますので、ウェブサイトで正しい情報を発信しているのです。
高齢者になって、脳出血や脳梗塞などで後遺症が残ったときに排泄をどうするのか。おむつがベストなことも当然ありますが、それまでバリバリ仕事をしていた方が突然おむつをされると生きる力が失われて無気力になることも多いんです。
最近問題になっているのが、排泄マネジメントができていないためにうつ状態になって、寝たきりになるということです。そうなると認知症もどんどん進んでいきますからね。
高度経済成長期を支えてきた人生の先輩の方々ですので、きちんと排泄をマネジメントして尊厳ある素晴らしい老後を迎えてほしい。そういう思いから、一定のエビデンスレベルの情報をウェブで発信しています。
たとえば佐賀県のトイレマップを紹介しているんですが、ここではトイレの中も公開しているんですね。そうすると車イスでも入れるかどうかわかりますし、老健施設に入所している方が、ちょっと散歩に行きたいという時でも、前もってトイレの場所がわかっていれば安心でしょう。
また、おむつの値段ってけっこう高いんです。以前に私が調べたケースでは、100人入所している老健施設の場合、入居者の約7割がおむつ管理でした。そうすると、1日に数回はおむつ交換しますので、年間にその一つの施設でおむつ代が700万円近く費用がかかります。つまり、うまく排泄ケアができると介護費用のコストダウンにもつながるということです。ウェブサイトでは各市町村のおむつ補助に関する情報も提供しています。
もちろん、おむつをとらないほうがいい場合もあります。ただ、車イス生活になってトイレに行けないからおむつを使うというように、安易に決めてほしくないですね。
車イスの方でも自力でトイレへ移乗する方法も動画で示していますので、こういった点でもお役に立てると思います。