九州大学大学院医学研究院 脳神経外科 飯原 弘二 教授

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心・脳血管病を克服し超高齢社会を支える
第4回日本心血管脳卒中学会学術集会へむけて

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―6月2日から福岡市で開かれる、第4回日本心血管脳卒中学会学術集会の学会長に就任されました。

 この学会は、以前は頸部(けいぶ)脳血管治療研究会という、頸動脈狭窄(きょうさく)の治療に特化した学会でした。より広く循環器疾患に関連した脳卒中を対象に含むようになり、4回目の学術集会を開催することになりました。

 今回の学会では多彩なトピックスを用意しています。例えば新規経口抗凝固薬に関しての話題で、数年前から出始めている、ワルファリンに替わる新薬の話。さらに新たな疾患概念としての潜因性脳卒中もテーマの一つですね。これまで脳卒中でも通常の検査では原因がわからないものがありましたが、画像診断が進歩した現在、それをどのように診断し、克服するのか、これは大きなテーマになると思います。

 次に、超急性期の脳卒中に対するカテーテル治療も大きなトピックスです。これは数年前に次々と脳血管内治療の有効性に関する新しいエビデンスが出て、急性期脳梗塞の血管内治療が標準治療になっています。

 すでに一定の良好な成績が報告されていて、従来のt-PA静注療法に加えて、ステント型、吸引型の血栓回収用機器を駆使すると治療成績が非常によくなることがわかってきました。

 ただし、血管内治療は国内すべての地域で提供できる治療ではありません。今後はどのように全国に普及させるかという大事な局面に入りました。

 t-PA静注療法もそうですが、血栓回収療法についても時間との戦いです。急性心筋梗塞は病院に到着してから冠動脈で風船(バルーン)を膨らませるまで2.5時間くらいですが、t-PA静注療法も発症してから4・5時間、血管内治療なら6時間以内に治療する必要があります。

 この、「いかに早く治療できるか」という問題は医療現場だけでは解決できません。今回の学会では急性期再開通療法のシンポジウム、心血管と脳卒中の救急体制適格化に向けた特別企画も組んでいます。

 それに関連して、総務省消防庁の統計によると国内で年間500万件の救急車が「出場」していますが、その内訳を調べて、脳卒中についてどれだけ病院に搬送されたのか、あるいはどのような治療成績だったのかということを数値化している最中です。

 これまで蓄積した全国の脳卒中情報に全国の救急情報を統合する研究であり、現在パイロット研究が進行中で、6月の学会ではその一端を発表できると思います。

 今後はおそらく心筋梗塞についても同じ調査をすることになるでしょう。心臓病と脳卒中で、患者さんが倒れてから急性期病院を退院するまでのすべてのデータが一本化されると、救急医療体制を考える議論にも大きな影響を与えるでしょう。

―全国の脳卒中治療について、地域格差の問題も調査中ですね。

 2010年から、脳卒中治療体制の地域格差について、厚生労働省の研究班の代表として調査(J-ASPECT研究)を進めており、地域格差を可視化する試みを続けています。

 脳卒中を発症した場合、患者さんのほとんどが近くの病院に運ばれることになります。同じ税金を払っているにも関わらず医療面の充実に地域格差があるとすれば、本来はおかしいですよね。

 まずは議論の前提となる現状を調べています。このデータと救急体制調査を統合する作業も同時に進めていて、すでに72%ほどが終了しています。

 具体的には、患者さんの年齢や性別、どこの病院に搬送されたかという救急隊の情報、これは消防庁が全国のデータを持っていますので、それとDPCデータをドッキングさせて抽出しています。

 医療に関してはさまざまな政策課題が出てきますが、どの部分を改善すべきなのかという具体的アクションを起こすには、問題点を具体的に把握しなければなりません。

 この研究が始まるまでも多くの多施設共同研究がありましたが、そういう研究に参加する病院というのは概して「エリート」病院なのです。しかし、ハード面が充実していて意識も高い病院というのは必ずしも全国の病院の現状を反映したものではありません。

 全国の医療充実度を可視化しようということで始めた研究で、私はこの研究で出た成果を「リアルワールド」と呼んでいます。この研究成果のエビデンスについてもシンポジウムの初日で発表します。

―脳卒中センターの整備についてはどう考えますか。

 現在、脳卒中と循環器病に関する対策基本法の制定に向けた動きが活発になっており、日本脳卒中学会では昨年12月16日に「脳卒中と循環器病克服5カ年計画」をプレスリリースしました。

 この中で私が執筆に関係した医療体制の充実と登録事業の推進という項目でも掲げているのが、脳卒中センターの整備です。

 私たちの研究班でDPC情報を使って比較してみると、脳卒中センターとしての機能評価が高い地域と低い地域で、脳卒中の死亡率が26%も違うという結果が出ています。この状況を放置していいのでしょうか。

 私は包括的脳卒中センターの整備に向けた脳卒中救急に関する研究を約6年続けていますが、その中で出てきたのが、包括的な血管内治療をする、より高次な脳卒中治療施設を地域の中で、整備しようという提言です。

 がんの場合、がん対策基本法が制定されてからがんの拠点病院が整備され、患者さんがそこに集中して質の高い治療ができるようになりました。脳卒中治療に関しても同じことで、地域によって医療格差が存在するのであれば、それを是正すべきです。それに向けた脳卒中治療体制構築のベースとなるデータができつつあります。

 将来的には救急車の中でも投与可能な神経保護薬などの開発や、病院前診断の制度向上にまで課題が広がると思います。これができるようになると、治療までの時間が目覚ましく短縮されます。法の整備や社会的なコンセンサスの醸成などが必要でしょう。

 今は全国の救急隊へのアンケート調査を進めていて、終えた段階で脳卒中治療体制の構築プロジェクトの一定の成果が報告できると思います。

 社会的整備をするのは、結局は法律で進めることになりますが、法律を作るためにはきちんとしたバックグラウンドが必要で、こういった話も今回の学会の目玉の一つになると考えています。

九州大学大学院医学研究院 脳神経外科
福岡市東区馬出3-1-1
TEL:092-641-1151(代表)
http://www.ns.med.kyushu-u.ac.jp/

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