つながりで作る鹿児島の未来
高田病院が交通局跡地に移転を決定―キラメキテラス
―鹿児島市交通局跡地に高田病院が移転します。
髙田昌実理事長(以下、理事長)
昨年、交通局跡地利用のコンペがあり、鹿児島県内最大の総合商社である南国殖産を幹事会社とするわれわれのグループ(共同事業体)が、跡地開発権を得ることができました。2万4500㎡で、落札額は92億5000万円です。
開発のコンセプトは「健康を中心に置いた町づくり」です。「キラメキテラス」と名付けた複合施設を造る予定で、その施設の一つとして高田病院が移転します。
共同事業体には南国殖産と玉昌会のほかに鹿児島市内有数の急性期病院である今給黎(いまきいれ)総合病院も参加しており、同院も高田病院と隣接する場所に移転します。
慢性期、回復期を担当する高田病院と急性期病院が隣接することによって、それぞれの病院機能をこれまで以上に発揮することができますので、キラメキテラスのいわばセールスポイントにもなります。転院しやすくなりますので、入院日数を短縮することもできるでしょうね。
まだコンセプト段階ですが、キラメキテラスには二つの病院に加えてホテルや温浴施設、スポーツクラブと分譲マンションなどの施設を建設する予定です。
市は今年3月に土地を引き渡す方針で、「30年後の鹿児島が笑顔あふれる町であるように」という共同事業体の理念を実現するために、行政と民間、そして地域住民が共に町作りを進めていくことになるでしょう。
一つの例として、滞在型ホテルを新設して観光マーケットと雇用を拡大することや、遠隔地からの医療ツーリズムを促進することなどが計画されています。
―キラメキテラスは災害への備えもコンセプトの一つですね。
理事長
跡地利用にあたっては、鹿児島市行政も被災時の拠点としての役割を期待しており、当初からキラメキテラスを設計するコンセプトの一つでした。
鹿児島県内で対策が必要な災害として想定されているのは、主に桜島の噴火と南海トラフ地震による津波災害です。
太平洋側で起きるとされる南海トラフ地震では、宮崎県沿岸に約20 メートルの津波が来ることが予測されています。
鹿児島県には大隅半島と薩摩半島に挟まれた錦江湾という奥まった湾があります。津波が錦江湾に入ると、薩摩半島の南端である指宿市には4.5m、鹿児島市内には3.6mの津波が来るとされています。行政としても効果的な対策の必要性を感じているのでしょう。
―具体的な備えは。
理事長
建物を結ぶ空中回廊の名前が「キラメキテラス」なんです。5mの津波にも対応できるように、地上高6mに災害時の避難場所にもなるテラスを造ります。
飯伏真一施設管理部長(以下、部長)
) 災害時には病院自体が被災しないことが重要になります。新築される高田病院では耐震構造を採用し、鹿児島市の耐震基準である地域係数0.8を上回る耐震性を確保する計画です。
敷地内には、太陽発電などで電力や温水を賄うエネルギーセンター(仮称)が建てられる予定です。災害で電力が途絶えた場合にはすぐに電源ラインをエネルギーセンターに切り替えられるように要望を出しており、最低でも3日間の電力を確保する計画です。
萩原隆二院長
熊本地震でも問題になりましたが、医療機関としては医療用の水(医水)の確保が不可欠です。とくに当院は透析療法を提供していますので、医水用の井戸はぜひ設置したいですね。
理事長
キラメキテラスを中心とする半径2km圏内には、鹿児島市立病院などの高度急性期病院が集まっています。平時にはそれらの病院からの早期受け入れ機能を強化すると同時に、災害時の連携も考えなければなりません。
鹿児島市立病院は災害拠点病院ですので、そこでトリアージが終わった方を受け入れるなどの連携が考えられます。災害に強い病院を作りますので、多様な運用ができるでしょう。
―熊本地震では玉昌会として積極的に支援に入りました。
部長
玉昌会は災害時の被災地支援のために、NPO法人災害福祉広域支援ネットワーク、通称「サンダーバード」という全国組織に加盟しており、2年前に鹿児島支部を設立しました。支部があるのは九州では鹿児島だけです。
熊本地震が発生した翌日から鹿児島支部として熊本に職員を送り、約2週間、玉昌会としての介護支援や被災情報収集、物品配送をしました。
全国のサンダーバード支部から支援の人員や物資が集まりますので、支部活動として現地に災害本部を設置し、集めた情報をもとに支援の受け入れ先を決定し、物資も配布しました。介護職員やケアマネジャー、リハビリ職員、事務職員が延べ約40人、長い職員では1カ月程度常駐しています。
サンダーバードは被災時に支部同士が助け合うことが特長で、もし鹿児島が被災すれば助けてくれますし、東日本大震災の時も各地の支部が支援しました。
理事長
医療と介護は一体として考えるべきだと思います。医療に関してはDMATなどが中心になって動きますが、被災地にはけがをした方ばかりではなく、介護を必要とされる方もいます。私たちはそちらのサポートのためにサンダーバードに加盟しました。
こういった面は見過ごされがちで、派手さはないのですが必要とされる方にとっては一日でも欠かすことのできない支援なのです。
今回の移転のテーマは災害対策ではなく、町づくりです。しかし、どちらもベースになるのは地域住民のつながりであり、地域包括ケアシステムのような概念ですべての市民がつながることです。そしてこれこそが災害への最大の備えとなるでしょう。