兵庫県立尼崎総合医療センター 藤原 久義 院長

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先進の救急体制
ER型救命救急センターで地域医療を支える

【ふじわら・ひさよし】 静岡県立清水東高校卒業 1970 京都大学医学部卒業 京都大学医学部附属病院臨床研修医 1978 京都大学医学博士 京都大学医学部第三内科助手 1985 京都大学医学部第三内科講師1994 岐阜大学大学院医学研究科再生医科学・循環病態学・呼吸病態学第二内科教授2006 兵庫県立尼崎病院院長 2007 兵庫県立東洋医学研究所所長 2011 兵庫県立尼崎病院・塚口病院院長 2015 兵庫県立尼崎総合医療センター院長

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―非常に新しい、近代的な病院建物です。

 2015年7月の新病院開院から、1年半が経過しました。

 当院は兵庫県立尼崎病院(500床、DPCⅡ群)と県立塚口病院(400床)が統合され、170床ダウンサイズして730床の高度急性期・高度専門・先端医療を担う総合医療センターとして再編された病院です。この統合再編の経緯は12年ほど前までさかのぼります。

 当時の県行政は二つの県立病院を機能で使い分けようと考えていました。成人の診療は尼崎病院で、塚口病院は小児や産婦人科をメインに診療するという方針です。

 この兵庫県の病院再編の動きとは別に、当時は「聖域なき構造改革」と呼ばれていた、いわゆる「小泉改革」が医療界にも影響を及ぼし始めていました。診療報酬の引き下げなどで赤字病院が増え、廃業する病院が多くなったのが象徴的です。

 小泉改革は「官から民へ」が基本方針ですから、医療においては私立病院がメインで、私立にできない分野を公立病院が補うという考え方でした。これは日本の医療の中軸が伝統的に公立病院であるという現実を無視しています。その結果、公立病院は赤字となり、医療崩壊が現実になりました。そこで、公立病院の統合再編の動きが活発になったわけです。

 こういった動きを受けた兵庫県は、もう一度病院機能を再編するため、国の地域医療再生基金30億円を使って両病院の統合再編へ動き出したわけです。

―異なる特色を持つ二つの病院が統合されたことで、どのような特長を持った病院になったのでしょう。

 730床の内、救命救急センター54床(EICU14床)、CCU・CHCU・CICU26床、PICU8床、NICU・GCU28床などの重症系病床145床と、ロボット・ハイブリットなどを持つ19手術室、IMARTを2台持つという高度急性期・高度専門・先端医療を担う病院になりました。

 とくに救急医療に関しては新しい考え方を取り入れています。

 私は専門が循環器内科ということもあり、長年、日本の救急医療体制を根本的に改善すべきだと考えていました。

 日本の現状は、救急の「入口」が、軽症を診る1次救急施設、中等・重症の2次救急施設、最重症を診る3次救急施設(救急救命センター)と、三つの施設に分けられています。

 このシステムは、患者の病態の突然の変化に対し、軽症か、中等症・重症か、最重症かを患者自身か救急隊が判断できることを前提にしています。しかし、患者さんが自身の病気の程度を判断できるわけがありません。意識がなければ3次として対応するのは当然ですが、救急隊も医師も、一度も診たことのない患者さんが軽症なのか入院が必要なのか、問診のみでわかるはずがないのです。

 初療医が適切な問診・診察の上、血液検査やCTなどの検査を行い、さらに必要なら当直している臓器別の専門医と相談し、初めて軽症で帰宅、中等症・重症で救急病棟入院、最重症で、ICU・HCU入院、緊急手術が必要という判断ができるわけです。これが救急医療の「出口」になります。不幸なことに、わが国の現状は救急医療の入口と出口を勘違いしているのです。これができるのはER型救急救命センターを持つ総合病院となります。

 かねてから私は欧米で一般的なER型の救命救急センターの構想を持っていました。当院の救命救急センターの特長は、「ER総合診療科」を中心に全病院をあげて初療を強化した診療体制を敷いていることで、軽症・重症を問わず、救急患者を受け入れています。

 ところで、国は総合診療医を増やす方針ですが、総合診療医に関する議論で救急に関連することが出ないのが不思議でなりません。なぜなら、救急の中心が初療だとしたら、それができるのは総合診療医だからです。

 たとえば腹痛の診断は消化器・循環器・腎臓・産婦人科・泌尿器科・整形外科・皮膚科などさまざまな診療科が関係する可能性があるので、臓器別専門医が初療を行うのは無理があります。

 また、わが国の救急医は3次救急、それもCPA(冠疾患集中治療室)、外傷や熱の処置などを救急として育てていますので、1次や2次の内科疾患が多い救急の現場の対応は苦手です。初療は総合診療科こそ対応可能です。そして初療を総合診療科が行えば、どんな大病院でも歓迎されます。

 「救急は医療の原点であり、初療こそが救急の肝である」という認識、これは災害医療でも同じですが、この認識をむしろ若い医師は持っていると思います。将来的にはここで初療技術を身に付けた医師が地域で活躍するという形が理想ですね。

 本院の救命救急センターの医療圏は阪神地区全域(大阪市と神戸市の間)の175万人に加え、大阪府西部、西淀川区周辺の計40万人をカバーしています。現在、救急車は1日に約30台を受け入れており、年間では1万台を優に越えます。一つの施設としての受け入れ台数は国内でもかなり多い部類に入るでしょう。救急車を使わない救急患者さんも含めると1日平均で60人ほど救急患者が来院します。

―マグネットホスピタルを目指すというお考えもお持ちです。

 マグネットとは磁石のことで、患者さんや医療者を引き付ける病院、とくに医療者について、「ぜひこの病院で勉強したい」と思っていただけるような病院に成長したいのです。

 さらに、たくさんの医療者を引き付けるということは、その方たちを教育した後に地域の医療機関に送り出すということであり、地域医療を充実させる役割も意識しています。

 現在、医師が約320人在籍し、看護師も約1150人います。看護師が集まるかどうかは新病院スタートにあたっての不安要素の一つだったのですが、予想以上の人気でした。研修医も1学年の定員24人(小児科・産婦人科枠4人)に対し約60人の応募があり、2倍以上の競争率をくぐりぬけた優秀な研修医が学んでいます。

―今後にあえて課題をあげるとすれば。

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 課題は山のようにあります。当院の最大の課題は病院全体のマネジメントです。建物・設備、人的量はかなり整備されてきましたが、質や各部門の連携などの運営の面で大きな課題があります。

 これは病院統合の弊害なのでしょうが、職員の間に「私は尼崎病院出身、あなたは塚口病院出身」といった、出身母体による色分けが残っているように感じます。そういったギャップを解消して各部署間の連携をもっとスムーズにしたいですね。

 また、いまだに病院完結型医療の考えを持っている職員が多いので、開業医・医師会・地域の病院・介護・行政が一体となって互いの役割分担を自覚し、協力して患者さんを支える地域完結型医療を徹底する必要があります。

 昨年の病床稼働率は97 %と高く、平日は満床ですが、在院日数は退院当日も入れて11.5日ですので、さらに短縮が必要です。地域包括型医療システムの中で私たちの病院の立ち位置は、政策医療(5疾病・5事業・感染・難病)を中心に、高度急性期、高度専門・先端医療を担うことです。国の医療方針全体と協調し、きたるべき2025年問題に責任を持つ地域完結型医療を提供できる病院を作りあげたいと思います。

兵庫県立尼崎総合医療センター
兵庫県尼崎市東難波町2-17-77
TEL:06-6480-7000(代表)
https://agmc.hyogo.jp


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