個性を生かし、いきがいを創出
医療法人陽善会は法人内に精神科、内科を標榜する坂之上病院のほか、グループホームや地域活動支援センター、就労継続支援事業所、自立訓練施設などを備えている。
地域の精神科医療を支えている同法人の小城卓郎理事長に話を聞いた。
◎豆腐製造・販売
医療法人陽善会の関連施設である就労継続支援A型事業所「いっぽいっぽ」では患者さんの就労支援の一環として一昨年から豆腐の製造を開始しました。昨年9月1日からは坂之上病院から車で5分ほどの場所に豆腐販売所「豆富家ようぜん」をオープン。もともと倉庫だった建物を従業員(利用者)と職員が一緒になって壁を塗ったり棚を作ったりして店舗にしたのです。
以前、「いっぽいっぽ」の従業員のみんなはコンクリート部品を造る作業をしていました。その時もやりがいを持って作業に取り組んでいたと思います。ただ実際に自分たちがつくった商品をお客さんに食べていただけるというのは感動の度合いが違うと思うのです。
従業員のみんなには豆腐の製造・販売を通じて、働くことの楽しさ、やりがいを感じてほしいと思っています。
豆腐づくりを始めてからというもの、以前と比べ、従業員のみんなの表情が見違えるように明るくなりました。
店舗をおとずれるときには身だしなみを整えるようになりましたし、お客さんが来た時の対応もしっかりしています。商品が売り切れになったことを教えると、みんなすごくうれしそうな表情になります。この取り組みを始めて本当に良かったと思いますね。
◎個性を尊重
豆腐製造は、職員も従業員も初めての取り組みです。工場では職員、従業員相互が意見を出し合うようにしていて、従業員のみんなには、上から言われたことに従うだけでなく、「こうやったらいいのでは」と自分たちの意見を述べてもらうようにしています。自分の意見が採用されれば自信につながると思うのです。
それぞれの個性を最大限に生かすことのできる場を提供するのが私たちの役目なのです。
◎開かれた病院
厚生労働省は、精神科に長期入院する患者を2020年度末までに全国で最大3万9千人減らすという目標を掲げています。この目標を達成するには精神科医療が入院治療よりも地域生活を主体としたものへと大転換を遂げる必要があります。
当法人では、坂之上病院を退院された患者さんの社会復帰を支援する場として20年以上前からグループホームや地域活動支援センターを整備してきました。さらに、ここ10年の間に社会参加の場の拡大を目的として自立訓練施設や就労支援事業所を立ち上げました。
現在の精神科医療に望まれる体制づくりを先取りしたわけですが、今後はこの流れをもっと加速させなければなりません。そのためにも、これまで以上に地域のみなさま方にこれからの精神科医療の在り方についてご理解いただき、これまで同様ご協力が得られるよう努めていきます。
当法人では毎年バザーや夏祭りなどのイベントを開催しており、地域のみなさまに当法人の取り組みを知っていただけるよう働きかけています。昨年の夏祭りでは「いっぽいっぽ」で製造した豆腐加工品の実演販売を行い大盛況でした。当日は地域のお子さんたちに準備していた150個ほどのおもちゃも、あっという間になくなるほどにぎわいました。
近年、若い世代を中心に、精神科病院を気軽におとずれてくださる方々が増えているように感じます。今後は地域に開かれた病院を目指すだけでなく、みなさんが個性を生かし生きがいを見いだすチャンスを創出できるような地域づくりにも邁進(まいしん)していきます。
これからの精神科医療は厳しい状況にあると言われて久しいですが、患者さんにとってもわれわれにとってもこれは大きなチャンスです。開かれた未来に向けて驀進(ばくしん)していきます。
■豆腐工場
大豆を石臼で挽いて、かまどでじっくり炊くという昔ながらの製法を採用しているのは、全国的に珍しいとのこと。
最高級の九州産大豆を使用し、にがりは地元鹿児島県産。薪火でじっくりと炊き上げた消泡剤不使用の豆乳を使用してスイーツも製造しているそうだ。
職業指導員の今村俊明さんによると「豆腐は生き物」だという。「昨日と今日の豆腐の出来ばえの違いを感じて『明日はもっとおいしい豆腐をつくろう』と思うことが、従業員の生きがいにつながるのでは」と語る。
■自立(生活)訓練施設「生活サポートコパン」
午前と午後、約1時間のプログラムを組み、利用者に音楽、園芸、絵画、写真、パソコンなど日常生活に必要な技術を身につけるための訓練をしている。
医療法人 陽善会 坂之上病院
鹿児島市光山2-31-76
TEL:099-261-6602
http://youzenkai.or.jp