耳鼻咽喉科領域での県内完結型高度医療を提供する
―どのような特長をもつ教室ですか。
琉球大学のある沖縄県の特徴として、まず、まわりを海に囲まれた大小の島からなる県だということがあげられます。
したがって、県内唯一の大学医学部が置かれた琉球大学の使命は、県内の最高の医療機関になることです。
たとえば九州内であれば県境を越えて行き来することが困難なくできるため、県内にある大学病院ですべて完結する必要は、あまりありません。
しかし、沖縄県においてはそう簡単に他県まで出向いて治療を受けるということができませんので、琉球大学に求められる医療の質も必然的に高くなるのです。
われわれ耳鼻咽喉科が県民の期待に応えるために必要なのは、高度な医療を提供できるように分野ごとの専門家を大学にそろえ、県内各地に質の高い医師を配置することです。
地域にそれぞれ開業医の先生方がたくさんいらっしゃいますが、開業医のみなさんをバックアップするために、その地域の病院に大学から医師を派遣しています。
まずは開業医の先生が一次的な検査を行い、治療が可能であれば地域の病院で対応し、それが難しいのであれば大学に送ってもらう体制を敷いています。通常の紹介体制ではありますが、医療機関間により緊密な関係性を築くことで、県内にもれなく高度な医療をいき渡らせることができます。
もちろん、開業医の先生が「大学で治療すべきだ」と判断された場合は直接大学に紹介してもらうこともできます。琉球大学耳鼻咽喉科の方針として、紹介された患者さんはすべて受け入れることにしており、制限は特に設けていません。
たとえば大きな病院などでは患者さんが予約してから診療するまで2週間近くかかることもよくあります。当科では原則としてそのようなことはなく、予約がなくても患者さんが来院されたその日に専門医の診察を受けることができるようになっています。1日の外来人数制限も設けていません。
―亜熱帯環境にある沖縄県特有の耳鼻科疾患はありますか。
漁業などで潜水する方が多いため慢性中耳炎が多いですね。さらに、沖縄県で多い耳鼻咽喉科の病気としては頭頸部がんがあります。これは非常に多く、罹患率は全国平均の1・5倍ほどです。頭頸部がんの治療体制をどう整えるかというのは今後の課題です。
まったく耳が聞こえない方について、手術で聞こえを取り戻すことにも取り組んでいます。人工内耳を使ったこの手術ができるのは県内で当科だけであり、さらに九州沖縄地域でも最初に取り入れました。人工内耳の分野は日進月歩であり、常に新しい技術を患者さんへ還元できるように診療にあたっています。
幼児難聴治療にはとくに力を入れています。まず、産まれてすぐに産婦人科で検査(新生児聴覚スクリーニング)をします。そこで再検査が必要とされた場合には近隣病院で再度検査をし、さらに詳しい検査が必要とされれば、大学で詳細に調べます。
これら新生児聴覚スクリーニングシステムは、診断後の治療までスムーズに移行できる体制を構築しています。
耳鼻咽喉科は耳(聞こえ)などのQOLを扱う診療科ですので、治療に関してもできるだけ低侵襲で、かつ十分な治療効果を出せるような治療法を選択しており、鼻の疾患や頭頸部がんについては内視鏡を使った手術を行っています。
嚥下(えんげ)障害に対応することも当科の重要な役割です。高齢者が増えてくるとさまざまな理由で食物を飲み込めなくなる方が多くなりますので、当科で嚥下障害を克服していただき、その後の人生を豊かなものにしていただきたいですね。
―滋賀県の出身である先生が沖縄県に赴任されて約10年になります。
滋賀医科大学を卒業して、しばらくは関西の病院を中心に勤務していましたが、福岡記念病院(福岡市)の耳鼻咽喉科部長を経て、2006年に琉球大学に赴任しました。
琉球大学に応募した最大の理由は、沖縄に豊かな自然があることでした。じっくり腰を据えて臨床や研究、教育に取り組むには最適の環境だと感じたんです。
琉球大学医学部附属病院は医療を県内で完結するために、どちらかといえば臨床に重きが置かれていますが、臨床はそれだけで独立しているわけではありません。新しい治療を提供する、あるいは積極的に高度医療を提供するためにはそのバックボーンとなるべき研究が必要です。当然、臨床を裏付けるための直接的研究も行っています。
現在、教室にはドクターが20人、言語聴覚士と臨床検査技師を合わせて6人が所属しています。
沖縄県には基本的に季節性アレルギー鼻炎、いわゆる花粉症の患者さんがいません。本土では2月に花粉症が始まるところもあると思いますが、スギやヒノキの育ちにくい沖縄では花粉症が出ないんです。そのかわり、ということもないんですが、通年性のアレルギー性鼻炎は多いですね。
これは住環境が影響していて、台風対策で丈夫なコンクリート製住宅を建てていることが多いので、ほこりやダニによるアレルギーの方が多くいます。
もう一つ、これは沖縄ならではといっていいと思いますが、唄を歌う方がかなり多くいらっしゃいます。沖縄は独自の文化が発達した芸能の島なんです。だから唄を歌う方にとっては音声も非常に重要なQOLということになります。
加齢による声の変化や声の病気で困っている方もいますので、そういった悩みに関する治療も積極的に行っています。
また、当教室では年間2万人以上に対する健診を実施しています。小学校、中学校などの健診事業にも積極的に参加しており、県の事業で離島巡回診療にも参加して疾患の早期発見やさまざまな医療相談を実施するなどしています。
目下、最大の悩みは人員が少ないことですね。県内全域の耳鼻咽喉科医師は100人ほどで、全国平均よりまだ少ない状態が続いています。たくさんの領域を全部網羅しようとするとそれなりに人手が必要です。耳鼻咽喉科は小児から老人までを対象にQOL向上に寄与できますから、高齢社会を迎え魅力的な診療科です。初期研修の多い県内でもっとアピールして、仲間を増やしていきたいと思います。
琉球大学大学院医学研究科 耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座
沖縄県中頭郡西原町上原207
TEL:098-895-3331(代表)
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