心療内科の魅力を伝えたい
2000年に内科学講座から独立して開設された関西医科大学心療内科学講座。福永幹彦・2代目教授に講座の特徴などについて話を聞いた。
―特徴は。
初代中井吉英教授の跡を継いで、2009年に2代目教授となり、7年目となります。
現在、国内医学部の心療内科講座は心身医学講座という名称がほとんどだと思います。しかし、本学で"心療内科学講座"となっているのは、初代中井教授が、内科学を中心にした講座であることを明確にしたものだと思います。
私は、医学部卒業後、内科の医師として勤務し、国内の心身医学や心療内科の草分け的存在である九州大学に国内留学。その後は、本学に戻り心療内科、総合診療科に携わっています。
当講座で扱っている疾患は入院、外来ともに慢性疼痛や消化器その他の内科疾患の機能性障害で、身体症状をともなった疾患が中心となります(図参照)。具体的な病名で言うと、消化器では、潰瘍性大腸炎やクローン病。また、膠原病などです。
また、当講座で扱う疾患の大きな特徴は、心理面、社会面からの影響を受けやすいものだということです。
潰瘍性大腸炎やクローン病はもちろん、膠原病など免疫系の病気もストレスが深く関与していると考えられています。
最近では、がんの患者さんの診療も増加しています。これまでは、がんの末期に緩和医療として、心療内科が関わることが多かったのですが、がんと診断された時から外科などと一緒に患者さんを診ていきます。そうすることで、患者さんも精神的に安定し、がんの治療にスムーズに取り組むことができます。めまいなど、耳鼻科の病気も扱っていますが、これらも心理面が関わっていることが多くあります。
―精神科と混同されることもあるそうですね。
大学病院の場合は、精神科もあるので、間違われることはあまりありません。しかし、少し前までは、身体症状があって心療内科に紹介されてくると「私は心の問題はない、こんなところにくる必要はない」と憤慨する方も少なくありませんでした。
心療内科という言葉で心理療法を連想されるのでしょう。また、開業心療内科の先生の大半が精神科を基盤に持っておられ、精神科と連ねて標榜されていることも誤解のもとになっているかと思います。このため、当講座では初診の際に身体症状やその症状で患者さんが困っていることを、詳細に、そして丁寧に聞くように指導し、実際にそうしています。
そして次に大切にしているのが、身体診察です。最近、紹介患者さんの有症状部位を触診すると、「これまで、一度も触ってもらったことがない」と述べられることがしばしばあります。触ってもらったということだけで安心する患者さんもいるほどです。症状のある部位を触って確認するということは、医学的診断の意味でも心理的な側面からも極めて大きな意味を持っています。その一方で、初診では心理的問題には、あまり踏みこみません。心理的な問題は身体症状に大きく影響しますが、まずは身体症状にフォーカスすることで、心療内科の姿勢を示し、患者さんとの信頼関係を築きます。
―課題は。
それを語る前に、2008年、過敏性腸症候群の患者さんへのある研究結果がブリティッシュメディカルジャーナルで発表され、大変興味深かったので紹介します。
その研究では、①何もしない、②効果の見込まれない針治療6回、③効果の見込まれない針治療6回プラス最初1回だけの医師による丁寧な面接。この①〜③を実施後に、症状がよくなったかどうかを患者さんに尋ねたところ①でも30%が良くなったと答え、②で45%、③では、65%が良くなったと答えたというのです。
私たち医者は、もっとコミュニケーションの意味や力について、深く学び理解する必要があると思います。
最近では医療費の高騰が社会問題になっていますが、経済面にばかり目を向けると、医療が本来担うべき人間的な役割が失われ、結果的に医療経済的にも効率が下がるのではないかと危惧しています。
なかでも、心身医学のような、人が人を癒やすという医療のあり方は効率が悪いものだと言われかねません。しかし、患者さんの訴えに真剣に耳を傾けるなど、簡単には測ることのできない医療行為の意味や価値を示すことが、今の時代だからこそ必要なのかもしれません。