健康長寿を支えるために
―医療法人美﨑会が運営する病院とサービス付き高齢者向け住宅、さらに関連の社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームと、三つの施設が半径100m以内にあります。その利点について、両法人の理事長の立場から聞かせてください。
「国分中央病院」、「メディカーサ国分中央(サ高住)」、「ソ・ウェルこくぶちゅうおう(特養)」、この三つの施設には役割分担が求められます。コスト面を優先すれば、同じ建物の中に三つの機能を共存させることができるかもしれませんが、患者さんや入所者の方々には各施設で提供する医療・介護に対する明確なイメージがあります。外部の方には分かりにくいかもしれませんが、慢性期医療、高齢者医療の中にはひとまとめにはできない部分があるのです。
たとえば、特養の中で看護師が慌ただしく動いていたり、人工呼吸器が鳴り響いていたりといった状況はありえない。そのような類いの医療を担うのは病院で、特養の役割は要介護者の入浴、排せつ、食事の介助など療養上のお世話をすることです。
また、サ高住は入所者の身の回りの世話をしたり、レクリエーションなどで楽しい時間を提供したりすることが役割になります。それぞれの施設に合った満足度の高い医療・介護を提供するには、同じ建物内では限界があるのではないかと思います。
一方で、これからはサ高住であっても、特養でみているような重介護の人、ひいては重篤な人をみなくてはならない時代が来るのではないかとも考えています。介護ユーザーから今まで以上の医療・介護の質を求められるということです。
そうした現場のニーズに応えるには日頃から準備や訓練をしておかなくてはいけません。国分中央病院、メディカーサ国分中央、ソ・ウェルこくぶちゅうおう、この3施設の連携を密にしていくことがますます重要になってくると思います。
そのためには、病院の職員は介護の知識を、介護施設の職員は医療の知識をつけなければなりません。それぞれの職員がお互いの施設に出向いて説明会をし、サポートし合うことで、患者さん、入所者の方々に医療から介護までのサービスを総合的に提供できます。そうした意味でも三つの施設が徒歩圏内にあることはとても重要なのです。
当院に入院された患者さんには、できるだけ早く元気になって退院していただきたいと思っています。自宅や施設に帰られた患者さんの具合が再び悪くなったら、当院から訪問診療をする。必要があれば入院していただく。なるべく在宅に近いかたちで生活を送っていただきたいですね。
寝たきりで褥瘡(じょくそう)が悪化したり、食事もできないような状態にはなったりはしてほしくない。患者さんを寝たきりの状態にしたまま診るのではなく、健康で長生きできるようにサポートすることが、本来の病院が担う役割ではないでしょうか。
―どの施設も食事にも工夫をしていらっしゃいますね。
高齢の患者さんにとって栄養状態というのは非常に重要ですので、食事についてはこれまでグループ全体で力を入れてきました。「美﨑会で喜んで食事をしよう!」をコンセプトに、残存歯が少ない方や義歯が合わない方でも無理なく食べられる食事を「美喜食(みきしょく)」と名付けて提供しています。
素材の形をできるだけ崩さないようにして、本来の形に近い状態で食べられるよう調理することが重要です。「魚を食べている」「ニンジンを食べている」と認識することが患者さんにとっての自信につながるからです。
―グループ全体でワークライフバランスも積極的に推進していらっしゃいます。
質の高い医療の実践には、現場で働く職員たちが満足感を持って仕事ができる環境づくりが必要です。
たとえば、国分中央病院では、職員の仕事と子育ての両立支援に積極的に取り組んでおり、2011年には鹿児島県の「かごしま子育て応援企業」にも登録しました。産前産後休暇、育児短時間勤務制度を設けているほか、託児所も完備。子育て中の職員には負担の少ない部署への異動や夜勤のない勤務形態への変更といった配慮もしています。
看護師の有給休暇取得率も向上しています。個人差はありますが80〜95%と、これほど取得率が高い病院は珍しいのではないでしょうか。残業もほとんどありません。
こうした取り組みが認められ、2015年、厚生労働省より「子育てサポート企業」として認定されました。これからも働きやすい環境整備に努めたいと考えています。
一方で、働く人の意識改革も重要だと思います。私が考えるワークライフバランスとは、ただ単に労働時間を短縮することではありません。残業をなくしたり、勤務日数を減らしたりした分、効率よく仕事をこなす方法を自分なりに考えて実践しなければならない。プライベートで自由な時間が増えた分、自分の意識や能力を向上させるために使い、それを仕事に生かす。それが本当の意味でのワークライフバランスだと思います。
―国分中央病院が、今年創設40周年を迎えます。
40周年だからといって特別な企画は今のところまだ考えていませんが、2018年に第26回日本慢性期医療学会が鹿児島で開かれます。私が学会長を務めさせていただきますので、当面はその準備に力を注いでいきたいですね。
今後も医療システムはめまぐるしく変化していくと思います。5年先、10年先の計画を立てることは難しい。しかし、患者さんとそのご家族を守ることがわれわれ医療者の使命です。これからも患者さんのため、そして職員のために、世の中で何が起きても病院の運営を維持できる基盤づくりに力を尽くしていきたいと思います。