受診率向上のために
宮崎大学消化器血液内科(第二内科)は、1975(昭和50)年に内科学第二講座として開講。2006(平成18)年の臨床系講座の再編に伴い内科学講座消化器血液学分野と改称され、消化器および血液・腫瘍の診療、教育、研究を担っている。
同講座で肝疾患治療を担っている永田賢治准教授に肝疾患治療への取り組みなどを聞いた。
―宮崎大学での肝疾患治療の取り組みを教えてください。
日本人の肝臓がんの原因のほとんどをウイルス性肝炎が占めています。そのなかでも、とりわけC型肝炎が原因となることが多いのが現状です。
しかし近年、新しい抗ウイルス薬が登場して飛躍的に治療成績が向上しました。この新薬を3カ月間服用すれば、ほとんどの場合、入院しなくても完治が可能となったのです。また医療費助成制度を使うと月1、2万円程度の治療費で済み、経済的な負担が少ないのも特徴です。
新しい抗ウイルス薬が登場する以前は、インターフェロンを用いていました。
しかし、インターフェロンは副作用が強く、費用が高額で、治療効果も新薬に比べると落ちるなどのデメリットがあります。
新薬を用いたC型肝炎治療をすることで肝硬変や肝臓がんへの進展を食い止めることができます。また肝臓がんの予防の意味においても積極的に新薬を用いたウイルス性肝炎治療に取り組んでいます。
―肝臓がんの治療法は。
まず血液検査やCT、MRIなどの画像診断をして、腫瘍の状況を評価します。その後、外科や放射線科と相談して治療方針を決定するのです。
ラジオ波焼灼術が最適だと判断すれば、内科が担当しますし、切除の方がいいということになれば外科に連絡して手術をしてもらいます。また定期的に外科、内科、放射線科による合同カンファレンスで、肝臓がんの最新治療についての勉強会をしています。
―ウイルスが原因ではない肝臓がんも増えてきているそうですね。
宮崎の人は焼酎が大好きで、たくさん飲みます。そうはいっても肝炎で1番多いのはウイルス性肝炎です。もちろんアルコール性肝炎から肝硬変に至るケースもあります。ただそこから肝臓がんに進行するケースは少ないですね。
宮崎の人は車移動が多く、あまり歩きません。運動不足から糖尿病を発症し、脂肪肝へ、やがては肝臓がんになる人が多いのです。そういう方たちをスクリーニング検査で早期発見していかなければなりません。
ウイルスの有無を調べるにはウイルスマーカーを調べる必要があります。しかしウイルスマーカーは一般健診の項目には入っていないことが多く、自分がウイルス性肝炎にかかっているかどうかにすら気付いていない患者さんが実に多いのです。
―地域の医療機関との連携も大事ですね。
肝臓は沈黙の臓器と呼ばれています。自覚症状が出にくいのが特徴で、必然的に他の臓器の疾患と比べ、病院に行ったり検診を受けたりする人の割合が低くなってしまいます。
なるべく多くの人に肝炎検診を受けていただく必要があります。もし検診で陽性になった人には、放置せずに肝臓の専門医を受診するよう勧めてほしいと市町村の肝炎検診担当者にはお話ししています。
現在、宮崎県と当大学が連携して肝炎医療コーディネーターの養成をしています。対象は看護師、保健師、薬剤師など。同コーディネーターは県民の方への肝炎ウイルス検査の受検勧奨や、キャリアや患者の方に対する医療機関への受診案内や治療のアドバイスなどをしています。
そのほか県民への啓発活動としては、昨年11月にウイルス性肝炎、脂肪肝、肝臓がんなどをテーマにした公開講座を宮崎市民文化ホールで開催しました。
―教室では臨床と研究の両立を目指しているそうですね。
最近、大学院に進む若い医師が減ってきました。しかし、臨床とは違う角度から病気のこと、肝臓のことを研究することで知識が、より深まると思うのです。医師人生の何年間かは、研究生活を送るのも悪くはないと思いますよ。
もちろん臨床は大事だと思います。しかし病気の本質を理解していないと良い治療はできないと思うのです。
―教室の魅力を教えて下さい。
私たち消化器グループは、主に肝臓病のグループと消化管のグループで構成されています。消化器全般を診る総合内科医の養成とともに、患者さんを全人的に診られる医師の養成を心がけています。
入局した先生には腹部エコーや内視鏡検査などの消化器の基本検査や消化器の一般的疾患を一通り学んでもらい、消化器病学会専門医を取得できる研修を組んでいます。
内科ですが、ラジオ波焼灼術など外科的な治療にも関わることができますし、幅広いフィールドが広がっているのも、この教室の魅力ではないでしょうか。
九州のC型肝炎の患者数が東日本に比べて多いことも関係しているのかもしれませんが、宮崎県の肝臓がんによる死亡率は全国平均よりやや高めです。
宮崎は肝臓専門医が他県に比べて少なく、治療レベルも遅れていると言わざるをえません。県内でも宮崎市周辺は肝臓に限らず、専門医が充実しています。しかし県北部や県南部では先進的な医療が提供できていないのです。
背景には医師の地域偏在があります。しかし、これは私がいくら頑張っても一朝一夕に解決できる問題ではありません。だから、せめて肝臓領域だけは、医療レベルを上げていきたいと思っているのです。