地域包括ケアのさらなる推進を
法人内に病院、クリニック、各種福祉施設を備える社会医療法人関愛会。地域包括ケアを推進している同法人の増永義則理事長に話を聞いた。
◎質の高い地域包括ケアの提供
社会医療法人関愛会は、大分市の佐賀関と坂ノ市、さらに豊後大野市に、それぞれ病院、診療所を構えています。これらの地域に共通するのは住民の高齢化です。とりわけ佐賀関地域の高齢化率は50%を超えています 。その子ども世代である若い人たちは、大分市中心部で暮らし、その親世代の人たちが、ここ佐賀関の地に残っているのです。
独居世帯、老老世帯が多い地域では、地域包括ケア、とりわけ生活全般をサポートする取り組みが必要です。生活習慣病、整形外科的領域への対応が求められますし、合併症がある人も多いので、幅広い領域を診る総合診療医的な対応も必要です。
仮に私たちが、この地域で強みを打ち出すために最先端の医療をしようとします。しかし、そこにニーズがあるかを考えると、はなはだ疑問です。
地域の医療需要を鑑みると、必然的に医療と介護を一体として提供しないと、われわれも経営が成り立たないし、地域のみなさんの生活も成り立たないでしょう。
私たちは法人内に病院やクリニック、数多くの施設などを備えているので、法人内での連携を、これまで以上に密にして、より質の高い、きめ細かな地域包括ケアを提供していきたいとの思いがあります。
退院して自宅に戻られた後、その方が普通に生活できるかどうかが重要です。高齢者が転倒すると、寝たきりになる可能性が高く、著しくADL(日常生活動作)を損なってしまうおそれがあります。そこで、私たちは独居世帯や老老介護の世帯には訪問看護などの対応をとっています。
また地域の婦人会、老人会に保健師やセラピストなどが出向いて、介護予防教室なども開いています。
◎地域の医療と介護を担う
佐賀関病院は1次救急を担っており、24時間、365日「断らない救急」の体制が整っています。
しかし、近年は地域の人口減少に伴い、救急車による搬送件数そのものが減ってきています。多い時は、1日1台平均で受け入れていましたが、現在は1台を切ってしまいました。しかし、われわれは地域の医療と介護を担っているという誇りを胸に日々の業務に励んでいます。
◎接遇で丁寧な対応
病院で接遇に関する満足度調査や待ち時間調査をすると、多くの患者さんに満足していただいています。しかし、1割程度の人からは、おしかりの声を受けてしまいます。お待たせせず、かつ丁寧な診療を心がけていきたいですね。
◎急性期病床の削減
政府は2025年時点で、重症患者を集中治療する高度急性期病床を12万床、通常の救急医療を担う急性期の病床は40万床と、それぞれ3割ほどの病床を減らす方針です。一方、回復期病床は37万床と3倍に増やす方針で、入院患者が早期に自宅に復帰できるようにしています。
そのような状況下、専門に特化した病院であれば、今後も患者さんは増えるかもしれません。しかし強みのない病院は、淘汰(とうた)される時代が到来すると予想されます。
私たちの強みは地域包括ケアです。この強みを生かし、これから生き残りを図っていかなければなりません。
◎暗中模索の中で
政府は10年先のことを考えて医療政策を進めていますが、この地域は、全国平均より早く高齢化が進み、10年後の日本を先取りしているとも言えます。前例があれば、それを踏襲すればよいのでしょうが、それができません。暗中模索の中、難しいかじ取りを強いられている状況です。
◎人口減のなかで
佐賀関地域の住民は仕事をリタイアした70歳以上の人がほとんどです。仮に、それよりも若い世代の人たちが、この地域に移住してきても仕事はあまりなく、生活ができないでしょう。
ただ年間を通して寒暖差が少なく過ごしやすい場所だと思うので、定年してリタイアした人にとっては良い環境なのかもしれません。
◎スペシャリストを志してほしい
これから医師を志す若い人には好きな道を見つけて、その道を究めてほしいと思います。若いうちは地域医療を考えるよりも、海外留学をするとかノーベル賞を取るとか、この部分では誰にも負けないというスペシャリストを志してもらいたいですね。それには"GRIT (やり抜く力)"を身につけて、努力することが大切です。
もし地域医療を志すのであれば、先頭に立ってやるくらいの心意気を持ってほしいものです。