一般財団法人 日本尊厳死協会 理事 白井 正夫
高齢者が対象の23価肺炎球菌ワクチンを自主接種したのは4年前だった。うろ覚えなのだが、有効期間は5年間と聞いているから2回目があと1年と近づいている。私が住む横浜市は公費助成で自己負担は1回3千円だが、年度の接種該当者は年齢で細かく区分けされており、私の場合、次回も全額自己負担になるのがしゃくの種である。
といっても、肺炎予防接種の話になるのは最近、肺炎がもとで親友を亡くしたからだ。亡くなる1か月前には電話で話し、「じゃあ、そのうち」が別れとなったから、肺炎の怖さを思い知らされた。
がんや心疾患で終末期を迎え、あるいは老衰のため体力が低下した高齢者が細菌感染などで肺炎を発症する事例が増えているという。
「治療控える」も 死因急増の肺炎で
肺炎は、日本人の死因でも悪性新生物、心疾患に次いで3位を占め(2015年度人口動態調査)、年間12万3000人が亡くなっている。脳血管疾患と入れ替わって3位に浮上したのが2012年度だから、上昇ぶりは近年の出来事である。高齢者の寝たきりやサルコペニア(筋力低下)による誤嚥(ごえん)性肺炎の問題とも関係があるといわれている。
いま、超高齢社会と深くかかわるこの病気について、日本呼吸器学会(加入医師1万2千人)の「肺炎診療・新ガイドライン」が待たれている。学会は今春、ガイドライン改訂案を公表してパブリックコメントを募集、年明けには医師に配布するとしている。
現行ガイドラインは「治療方針には患者の背景を考慮することが重要」とされていたが、新ガイドライン案は一歩踏み込んだ。終末期や老衰で肺炎を起こした場合「患者本人が希望したら、人工呼吸器の装着や抗生物質の投与など積極的な治療を行わず、痛みを取り除く緩和ケアを優先させる選択肢を認める」とした。「治療を控える」選択を認めるのは初めてである。
苦しみ、葛藤から 呼吸器学会の新指針
体力の衰えた高齢者が肺炎を起こすと、再発を繰り返し、せき込み、高熱、呼吸困難、意識低下などが続き、繰り返し苦しむことが多い。呼吸管理のため人工呼吸器を装着しても、家族と話ができないまま亡くなる場合も多いと聞く。
終末期、老衰、肺炎がもたらす苦しみというチャートのなかで、「個人の意思尊重」「QOL優先」の治療が選択できるのは患者には有益である。
学会のガイドライン検討委員会委員長を務めた河野茂・長崎大学副学長が語っている。「どこまで治療すべきかは患者、家族、医療者それぞれに葛藤がある。患者にとってどのような選択肢が望ましいのかを一緒に考えるきっかけになれば」(NHKニュースより= 10月20日放送)。
メディアが「高齢者の肺炎患者が増えて、呼吸器内科のベッドからあふれ、不足する人工呼吸器はレンタルでしのぐ」という実情も伝えている。病院事情はともかく、医学会ガイドラインで「患者の本人意思尊重」の原則がまた一つ形になることを待ちたい。
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