記者職は休日返上で昼夜の別なく動き回る体力勝負の職種で、意外なほど体育会系が多い。文学青年のような繊細なタイプには耐えられないのかもしれない。
いわゆる旧来型の「男の職場」だが、マスコミ関係は女性の志望者も多く、デスク(課長級)として働く女性記者も増えてきた。
某大手新聞社の人事担当者によると、「記者職志望者に一次試験としてペーパーテストを課しているが、点数の高い順に100人選ぶとすると、60人は女性になってしまう」のだという。
その新聞社の記者は圧倒的に男性が多いので、要するに男性にげたを履かせて女性との実力差を埋めているというわけだ。
男性より体力がない、妊娠・出産で仕事を休む、辞める可能性がある...女性を採用するリスクを考えたら当然ではないか。人事担当者(男性)はそう言いたげだった。
テストの点数だけが実力だとは思わないが、少なくとも「男のほうがタフで使いやすい」という理屈は時代遅れで、国際的に通用しなくなっている。
そのひとつの証左が、世界経済フォーラム(WEF)が毎年発表しているジェンダー・ギャップ指数(世界各国の男女平等度、社会進出における男女格差を指す指標)だ。今年日本は144カ国中111位だった。
同じアジアのインド( 87位)や中国( 99位)と比べても、低さが際立つ。当然、主要7カ国中最下位だ。ちなみに昨年は101位だった。
医療現場におけるジェンダー・ギャップはどうだろうか。もともと看護職に女性は多いし、医師を志望する女性も増えている。バランスよりもむしろ、子育てのしやすさや就労継続のしやすさなどの「働き方」こそ検証すべき分野だろう。
今回の特集のために取材した印象では、大学病院を中心に女性が働き続けるための環境整備が進んでいるように感じた。
女性が働きやすい環境とはつまり、男性も含めたすべての職員が働きやすい環境だ。九州大学のきらめきプロジェクトは対象を女性に限定せず、出産や育児、介護に加え自身の病気などで離職する医師や歯科医師の働く環境を改善しようとする試みだ。
鳥取大学医学部附属病院のワークライフバランス支援センターは、医療職に限らずすべての職員の就労に関する相談を受け付ける。
記事にはできなかったが、広島大学産婦人科教室では、産休・育児中の女性医師について女性医師を保護するため労働条件を細かく設定している。
大学病院が先鞭(せんべん)をつけ、関連病院を中心に女性の就労継続支援策が広がっていくことが期待されるが、その際に基準となるのは実際に働く女性たちの率直な要望だ。
特に育児まっただなかの女性(あるいは男性)にとって、フレキシブルな勤務体制が可能かどうかはまさに死活問題だ。「勤務時間が不確定なので保育園のお迎えが不安」という言葉は、働く母親の悩みを凝縮しているように思える。子どものために、「休むべきときに休める」体制づくりも必要だ。
さらに、「介護が必要となれば、女性が辞めることがほとんど」など、これからさらに顕在化するであろう問題についても、より実効的な対策が必要になるだろう。医学部入学者の3分の1が女性という時代において、当事者の声を努めて拾い上げて支援策にいかすことは、ほぼ義務に等しい。
一方、どれだけ女性の就労継続支援を充実させたとしても、仕事そのものに魅力がなければ効果を発揮しないことは言うまでもない。「この仕事を続けたい、辞めたくない」と思わせる仕事に出合うことこそ、最高の就労継続支援なのだ。責任ある地位につき、権限を持って主体的に取り組む仕事ほど、面白いものはない。
宮崎大学医学部の児玉由紀准教授は、「もし次の人生があるとしても、同じ道を選びたい」と、プライベートよりもむしろ仕事に打ち込んできた自身の人生を誇らしげに振り返る。情熱を傾けるに値する仕事に出合えたこと、それはかくも幸せなことなのだ。