生まれてくる生命のために
―総合周産期母子医療センターには、宮崎県内の周産期医療の中心、最後の砦(とりで)としての役割が期待されています。
私たち周産期母子医療センターの職員は、ハイリスクの母体や新生児の治療にあたっています。新生児の場合、手術が必要だと判断すれば担当の外科と緊密に連携するなど、言葉を話すことができない赤ちゃんの側に立ってさまざまな治療方針をナビゲートすることになります。
当センターでの年間分娩数は約300例、新生児の入院は年間150人から160人くらいで推移しており、数だけでみると、それほど大きな施設ではありません。
というのも、宮崎県の周産期医療体制は整備されており、県内を四つの地区(北部、中央部、南部、西部)に分けて、七つの周産期センター(北部:県立延岡病院、中央部:宮崎大学病院、県立宮崎病院、宮崎市郡医師会病院、古賀総合病院、南部:県立日南病院、西部:都城いるからです。
各地域の周産期センターが中程度リスクの分娩や新生児医療を担当しているため、大学病院は三次医療に集中することができます。逆にいうと大学病院で担当する赤ちゃんや妊婦さんたちというのはかなりのリスクを抱えているということになります。
たとえば隣県の鹿児島県では、鹿児島市立病院という大きな成育医療センターがあり、そこに鹿児島県内全域から重症のお子さんが入院してきます。ですからNICU(新生児集中治療室)が36床(総数80床)と病床数が非常に多いのですが、宮崎大学はNICUが9床(総数21床)しかないので、その限られたベッド数でやりくりしなければならないというしばりはあります。
県内に七つの周産期医療センターを置くこのシステムが他県に比べて優れているかどうかという評価はさておき、病床数が少ない分、他の2次施設と連携を密に取る必要があります。もし、リスクが低い状態にむしろ10年前なら難しかったかもしれない赤ちゃんを救うことができるようになってきた分、増えている、というのが実感です。
―医師として働くなかで、性別で不利を感じたことはありますか
49歳になりましたが、これまで自分のことを「女性」医師と意識せずに仕事を続けてきました。仕事が好きで、とにかくがむしゃらにやってきたので、女性を意識するひまがなかったということでしょう。
11月のアメリカ大統領選挙で、民主党候補のヒラリー・クリントンさんが、女性がキャリアを構築する際に障壁となる「ガラスの天井」を破ると宣言していました。でも、私自身のことでいえばあまり天井を感じることなくのびのびと働くことができました。非常にありがたい環境だったと思います。
宮崎医科大学(現宮崎大学医学部)の同期入学100人のうち、約20人が女性でした。当時、私たちの学年は「女性が多いね」と言われたんですが、最近は医学部に入る女性も増えています。宮崎大学医学部でも、入学者の半分が女性になっているようです。
―医師になろうと思ったきっかけは。
高校1年生の時点では教師になるつもりでした。でも、2年生に進級して進路を決める段階になると、担任の先生がふと「医学部を受験してみないか」とおっしゃったんです。最初はびっくりしたのですが、人助けができるのならそれもいいのかなと思い始めたんです。医学部に受かりそうなのであればやってみようかな、と。
女性が働くということについても、母が教員として働いていましたので、一生仕事をしたいというのは比較的幼いころから頭にあったと思います。
医師になって25年経ちました。結婚はしていませんが「結婚しない」と決めていたわけではありません。もともと25歳くらいで結婚して、子どもは2人くらいで...なんて夢見ていた時期もあったんですが、現実的には24、25歳の頃は研修医ですから家にもなかなか帰れない生活を続けていたわけです。
一生懸命仕事を覚えているうちにだんだん仕事におもしろさを感じるようになって、そうすると患者さんのために何かできないか、どうしたら良くなるだろうかなどと考え始めて、あまり自分のプライベートのことを考える余裕がなかったですね。
不思議と後悔はしていません。もし、もう一度自分の人生があったとしても、同じような道を選ぶのではないかと思います。
本当に、自分自身がすごく幸せだと思います。好きな仕事ができて、それで生活していけるという幸せ。ある程度経験を積むと臨床以外に研究もできるようになりますが、それが患者さんへフィードバックできると思うと、さらにやりがいがあります。
―ワークライフバランスを重視したいという考え方もあります。
いろんな仕事の仕方や考え方があっていいと思いますし、家庭あっての仕事、というのも真実だと思います。
後輩の女性医師から私生活と仕事の両立に悩んでいるという相談をされたとして、私はやはり「仕事を辞めないでほしい」と答えると思います。
たとえば出産、育児でいったんは中断したとしても帰ってきてほしいですし、私たちもそれが実現できるようにサポートしたい。
産婦人科の医局にも子どもさんがいる女性医師が何人かいますが、ちゃんと復帰していますし、可能な時は当直までしてもらっています。彼女たちが休まなければならないときに、いやな顔をせずに休ませてあげることが、復帰支援の制度を整えることと同じくらいかそれ以上に、大事なことなのかもしれません。
―医師は女性の仕事としてお勧めですか。
結局は、患者さんのために働くことができるか、「患者さんファースト」を徹底できるかどうかがすべてで、性別は関係ないと思います。
そういったモチベーションを持続できるのであればとてもやりがいのある仕事ですし、もしそれが無いのであれば、男性だろうが女性であろうが臨床医になるべきではない。その一点に尽きるのではないでしょうか。
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