徳島大学病院糖尿病対策センター 船木 真理 センター長・特任教授

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徳島県の糖尿病対策と糖尿病対策センターの取り組み

【ふなき・まこと】 灘高校卒業 1991 東京大学医学部医学科卒業 1993 東京大学大学院医学系研究科博士課程内科学専攻 1997 東京大学大学院より医学博士取得 朝日生命成人病研究所糖尿病代謝内科主任研究員 2000 米国University ofPennsylvania, Postdoctoral Researcher留学2002 米国University of Pennsylvania, ResearchAssociate 2005 徳島大学医学部非常勤講師2006 University of Pennsylvania, ResearchAssistant Professor就任 2007 徳島大学病院糖尿病対策センター センター長・教授 2008University of Pennsylvania, Adjunct Facaulty2010 徳島大学病院糖尿病対策センター センター長・特任教授に名称変更

 1993年から「糖尿病死亡率全国ワースト1」という状況が続いていた徳島県は2005年、「緊急事態宣言」を出し、県をあげて原因究明と解決に向けた取り組みを開始した。少しずつ改善の兆しをみせる徳島県の現状について、徳島大学内に設置された「糖尿病対策センター」のセンター長である船木真理特任教授に聞いた。

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◎徳島県における重層化した糖尿病対策の取り組み

 糖尿病そのものは治る病気ではないので、治療を根気よく続けていく必要があります。しかし、健診やその他の病気で受診した際、糖尿病であることを指摘されても、すぐに治療を始めなかったり、治療を始めても途中で中断したりするという問題があります。

 糖尿病は重症化しないと自覚症状がないため、治療を開始し継続する動機のつかない患者さんが多いのです。

 しかし、症状が出てきたときには糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害、動脈硬化性疾患などの合併症も進行しているので、早期治療が不可欠です。

 徳島県では複数の団体が互いに連携しつつ役割分担を行い、糖尿病対策に取り組んでいます。

 徳島県においては、糖尿病の有病率が高くなる高齢者が多いことに加え、若年層の肥満者も多い地域で、いわゆる「メタボ型糖尿病」も一つの大きな課題です。このような状況に対処するためには、まずは生活習慣を見直すことが必要です。

 徳島県が行っている県民健康栄養調査(2003年)によると、県民の一日当たりの歩数は男性が6474歩、女性が5944歩と、全国平均(男性:7503歩、女性:6762歩)と比べて1000歩ほど少ない状態でした。そこで徳島県医師会糖尿病対策班は「プラス1000歩運動」という啓発活動を開始し、その一環として、現在も毎日の歩数を記録することができる「プラス1000歩ダイアリー」という小冊子を作成して県内の医療機関で無料配布をしています。

 毎日の歩数をダイアリーに添付されているチェックシートに記入し、プラス1000歩の日が88日間になったら、そのシートを徳島県医師会に送ると、抽選でプレゼントがもらえるというものです。利用者も少しずつ増えていて、県民の意識も変わってきたようで、最近の県民健康栄養調査(2012年)では歩数が男女とも全国平均並みになっています。

 長期に渡る糖尿病療養において専門医のいる医療機関と普段から患者に接する地域の医療機関との連携が不可欠です。そこで徳島大学先端酵素学研究所糖尿病臨床・研究開発センターの松久宗英センター長・特任教授らが開発を進めているのがICT(通信情報技術)を基盤とした糖尿病地域連携システムです。

 これは従来の紙ベースでの連携をさらに発展させ、ICTを活用したクラウド型連携システムを構築し、医療情報としてレセプト病名、処方内容、処置内容、検査結果などを用いて、共通画面で患者の情報を共有できるというものです。

 また糖尿病の食事療法として栄養のバランスを保ちつつ過食をなくすことは非常に大切です。そのためには栄養指導を受けていただく必要がありますが、医師や管理栄養士のリソース不足から、日々の食生活の改善に至るほど十分に行うことが困難な状況にあります。

 ICTを活用したクラウド型連携システムでは、遠隔の栄養指導も開発中で、栄養指導を受ける機会が拡大すると考えられます。

 システムの実用化には長期に渡り安定して運用する仕組みづくりが欠かせません。また遠隔栄養指導の実施には保険点数化も必要です。現在、松久センター長が企業と共同研究を行いつつ、システムの実用化事業を進めています。

◎糖尿病対策センターの役割

 糖尿病対策センターの主な役割は、県民を対象とした疫学調査です。久留米大学バイオ統計センターの米本孝二講師と一緒に、糖尿病やメタボリック症候群の発症および重症化の過程とその原因を探るコホート研究を、約1400人の方にご協力いただいて継続しています。

 最近では、この研究で蓄積されたデータの解析により、将来メタボリック症候群になるリスクを判定する検査方法を作りました。基準値は血液中の総アディポネクチン(脂肪細胞で作られるホルモン)量が、男性で9.9㎍/ ml以上、女性で9.1㎍/ml以上です。

 このアディポネクチンが基準未満の数値になるということはメタボ発症に向かって、内臓脂肪の異常が始まっているということを意味し、5年以内に「内臓脂肪型肥満」「糖代謝異常」「脂質異常症」「高血圧」といった、メタボの構成因子の数が増える可能性が高いことがわかりました。

 この検査は人間ドックや健診などの血液検査に組み込むことができるので、早期発見が可能になり、病気の発症を防ぐ機会を提供することになります。希望すれば徳島県内の一部の検診機関で今年11月から受けることができるようになりました。今のところ検査料は約5000円ですが、普及していけば費用を抑えることが可能です。

 検査に使う試薬そのものは以前からあったのですが、数値の判定基準とそれに基づく指導内容が定着していなかったため、この検査をオプション項目として設けている施設は全国でもわずか23カ所。徳島県にはまったくなかったので、まずは徳島で普及させ、全国へ広めていきたいと考えています。

 アディポネクチンの検査によって、メタボ予備軍の方に注意喚起できるようになりましたが、ただ「気をつけてくださいね」という指導だけでは不十分です。

 「炭水化物や脂質を控えた方がいい」などの報告はされてきましたが、実際の食事は、多種類の食品が組み合わさってできています。特定の食品の摂取を意識的に減らしたり、増やしたりすると、それにつられて他の食品の摂取量も変化してしまうのです。

 そこで、もっと具体的な食事方法の提案をしようと現在研究を進めているのが、「食事パターンスコア」です。コホート研究の中では食事の内容も詳細に調べています。その結果をもとに、メタボの予防・改善に効果的な食事パターンをスコア化し、スコアに基づくより実践的な食事指導につなげる狙いです。

 類似の研究として「地中海食スコア」があります。豆、魚、野菜などの食材ごとに摂取量に応じた点数の基準が決まっていて、合計点が高いほど糖尿病、がん、心疾患のリスクが低くなるとするものです。

 地中海地域では、オリーブオイル、チーズ、パスタといった脂質や糖質を制限することなく食べているのに、メタボや動脈硬化になりにくく、心臓病などの発症が少ないと言われています。ただ、日本人の食生活にそのまま当てはめることは難しい。そこで、われわれが日常的に使用している食品群を対象にし、日本人の食生活に即したメタボや動脈硬化になりにくい食事を明らかにしようとしています。

 これまでのデータを解析した結果、メタボとの関連が強い食事パターンか否かを判定する指標を、男性用のみですが作ることができました。17の食品群の摂取量と摂取頻度を調べたデータを、ある関数に入れると、その人の食生活がメタボとの縁が深いかどうかがわかります。

 女性用は、研究対象者の男女比、年齢構成比の関係で、完成までまだ時間がかかりそうなため、他地域におけるコホート研究と連携して進めています。

 糖尿病における生活習慣の改善は短期間で効果が出て卒業できるものではありません。患者さんのモチベーションを保ち、良い生活習慣を維持させるために、生活習慣改善指導のカウンセリングにEQ(心の知能指数)トレーニングを取り入れた研究も企業と共同で始めました。

 自己の感情を知覚し、またそれをコントロールする能力を高めることで糖尿病治療に対する姿勢がより前向きになれるのではないかと考えています。これからも、糖尿病対策に貢献できるよう、研究を継続していきたいですね。

徳島大学病院
徳島市蔵本町2-50-1
TEL:088-631-3111(案内)
http://www.tokushima-hosp.jp


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