地域に求められる医療を提供
―2014年の開院と同時に院長就任でした。
ゼロからのスタートでしたし、病院の機能をフルに使い徳洲会グループの一員としての使命を果たすことの大変さを実感しています。
徳洲会の創始者である徳田虎雄は、1965(昭和40)年大阪大学を卒業、1973(昭和48)年に大阪府松原市に徳田病院を開院し、その翌々年に医療法人徳洲会を設立しました。その後、大阪南部エリアにはいくつか病院をつくりましたが、北部エリアにはありませんでした。そこで、ぜひきちんとした病院をつくりたいと当院開設を計画したのです。
このあたりには大規模病院がたくさんあります。開設にあたっては医師会や住民の方々からの反対もあり、承認を得るための話し合いに10年ほどかかったと聞いています。
開院当初は医師会からの要望もあり、救急医療をしない方針でした。一日に1台、一週間に2、3台の救急車から始めて、薬物・アルコール中毒、頭部外傷、誤嚥(ごえん)性肺炎など、他院では受け入れにくい救急患者を受け入れることから始めました。徳洲会の基本理念は、「生命(いのち)だけは平等だ」の精神のもと「いつでもどこでもだれでもが安心して受けられる医療」「ことわらない医療」の実践です。常に誠実な対応を心がけてきたことで、今では幅広い疾患の救急患者の受け入れが増加しています。
これまで徳洲会グループは、循環器医療と救急医療の2本柱で病院を運営してきましたが、今後はさらに三つめの柱としてがん治療にも本腰を入れていきたいと思っています。
現在、がん診療のための最新機器と優秀なスタッフをそろえ、手術・化学療法・放射線治療、この三つが一つの病院の中で完結できる体制を整えているところです。
最近は乳がんについて取り上げるメディアが多いためか、乳腺外来を訪れる患者数も増えてきました。
より正確に診断するために、最新式のマンモグラフィー装置、超音波装置、3テスラのMRI装置に加え、石灰化病変を生検するステレオガイド下マンモトーム生検装置も導入しています。
乳腺外科部長の藤本泰久先生は、超音波を使った乳がん診断における国内のエキスパートです。ネパールでも超音波による乳がん検診の発展に尽力されていて、年一回程度、検査機器を持ってネパールへ行き、使い方や診断方法などを現地の医療者に指導しています。
また、がんカテーテル治療センターでは、局所化学療法(抗がん剤併用ピンポイント塞栓療法)を導入しています。これは、カテーテルから、患者さん一人ひとりに合った種類と量の「抗がん剤」や「ビーズ(新規塞栓材料)」を患部にピンポイントで注入し、がん細胞を弱らせる、新しいタイプのがん治療で、さまざまながん腫、臓器に適用しています。
関明彦センター長は、ビーズを用いて終末期のがん患者の痛みを緩和する治療に定評があり、全国から患者さんが集まって来られます。
今年4月にオープンした11階の緩和ケア病棟(24床)は、当初、医局にする予定でした。しかし、たいへん眺望が良いので、終末期のがん患者さんに少しでも心やすらぐ時間を過ごしてもらいたいという思いから、無理をお願いして設計変更したのです。
当院がある吹田市には緩和ケア病棟のある病院がありませんでしたので、患者さんやご家族はもちろん、在宅医療をされている先生方にも喜ばれています。
―今後の展望を聞かせてください。
数年前、この近くに関西最大級規模の分譲マンション(1284戸)が建ったことから、若いファミリー層が増えました。吹田市立千里丘北小学校が新しくでき、同校に登校する子どもが毎年約100人ずつ増えているとも聞きます。こうした地域性を考えると小児科も必要です。現在は外来診療しか受け入れていませんが、患者さんの数が爆発的に増えています。この病院のモットーは、地域で求められる医療の提供です。将来的には、入院に対応できる小児病棟もつくりたいと考えています。今年4月、ようやくすべての病棟をオープンさせることができましたが、まだ看護スタッフの人員は十分ではなく、募集を続けなければならない状況です。
当院では女性スタッフが働きやすい環境づくりの一環として、院内に「にこにこ保育園」を開設しました。24時間保育で日勤はもちろん、夜勤の際も看護職員をサポートしていますので、安心して働いてもらえると思います。
また、吹田市内にはこれまで病児保育施設が3カ所しかありませんでしたので、市からの要請を受けて2015年秋、7階に「エキスポキッズ」を開設しました。当院の医師の中には、息子夫婦が共働きのため、お孫さんが急に熱を出したときなど、病児保育を利用して働いている年配医師もいますよ。
私は大阪大学医学部の第一外科の心臓血管外科グループにいましたので、心臓血管外科グループとは協力体制ができています。大阪大学医学部附属病院で手術を受けた後、リハビリが必要な患者さんを当院で受け入れたり、当院では難しい人工心臓の手術が必要な患者さんを受け入れてもらったりしています。
大阪大学医学部附属病院から若い先生が手術にきてくれるようになり、私は昨年の春にメスを置きました。これからは高齢者医療に尽力していきたいと考えています。
「吹田徳洲会病院は急性期の高機能の病院」というイメージを持たれる方も多いと思いますが、当院には療養病棟100床があり、介護老人保健施設「吹田徳洲苑」を併設しています。この二つを活用して、地域の高齢患者さんのお役に立つことが、この病院の新しい役割だと思います。
病院経営だけを考えると、急性期医療に比重を置く方が運営は安定するのかもしれません。しかし、当院は周辺地域の住民の方や開業医の先生方に喜ばれる病院でありたい。
これからも地域に求められる医療を実践しながら病院を成長させていきたいと思います。
医療法人沖縄徳洲会 吹田徳洲会病院
大阪府吹田市千里丘西21-1
TEL:06-6878-1110
https://www.suita.tokushukai.or.jp