独立行政法人国立病院機構 近畿中央胸部疾患センター 林 清二 院長

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国内唯一の呼吸器疾患専門病院として

【はやし・せいじ】 金沢大学教育学部附属高校卒業 1979 大阪大学医学部卒業1980 大阪府立羽曳野病院内科 1985 国立療養所近畿中央病院内科 1987アメリカ合衆国国立癌研究所 1989 大阪大学医学部附属病院第三内科2002 近畿中央胸部疾患センター内科 2010 同センター院長

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―病院の特徴は。

 当院は国内で唯一の呼吸器疾患専門病院で、肺に関する疾患すべてを診ています。世界的にみても、このような診療形態をとっている病院は非常に少ないようです。

 286床の一般病床と60床の結核病床があります。一般病床の入院患者さんの約半数が肺がんの内科と外科症例、残り半数がそれ以外の呼吸器疾患です。

 肺がん以外の呼吸器疾患で、これだけ多くの入院患者がいる施設は非常に少ないため、多様な疾患を短期間で集中的に診ることができます。他院では10年ほどかかる症例数を、約1年で経験できることから、研修医に人気があるようです。

 しかし、最近の研修医で呼吸器科を専門に志望する人は少なく、呼吸器学会、呼吸器外科学会全体では悩みの種ですが、幸いなことに毎年一定数の医師が当院を志望し集まってきています。

 当院の医師は40人で、そのうち内科が30人。内科医はある程度充足していますが、外科医がもう少し増えてほしいですね。

―呼吸器疾患の傾向を教えてください。

 ここ数年、肺がん罹患率は減少傾向ですが、がん死亡原因の一位です。高度成長期にたばこの価格が下落して、消費量が増えました。その頃からたばこを吸っている人たちが、高齢になるにつれて肺がんやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などを発症するケースが多く見られます。

 喫煙者数は減少傾向にあるため、将来罹患者数率も徐々に減っていくと思いますが、治療を要するCOPDはまだ増える可能性があります。

 もう一つ、超高齢社会で問題になっているのが、誤嚥(ごえん)性肺炎です。誤嚥が起こる理由としては、加齢や脳梗塞による嚥下(えんげ)機能の低下があげられます。脳血管障害に併発して起こることが多いため、点滴や抗生剤で改善したとしても、再発の可能性はなくなりません。高齢者の増加に比例して確実に増えています。誤嚥性肺炎は加齢と密接に関係することから、治癒は困難で、しばしば致命的になるため、すべての症例を呼吸器内科で対応することは不可能です。総合病院の呼吸器科では、そのために若手の医師が疲弊していることもあるようです。

 今後の対応として、早い段階から耳鼻科の医師、栄養士、ST(言語聴覚士)、歯科医などがチームとなって診療に介入し、発症予防、重症化予防に努める必要があります。

 呼吸器の専門性を生かして、誤嚥性肺炎に今後どのようにかかわっていくかは当院の課題であると考えます。

 2002年に当院に来て14年、院長に就任して6年になります。その間、疾患治療の大きな変化を感じています。がんでもがん以外の疾患でも、入院治療から外来治療へ移行する傾向にあるのです。

 少し前まで、肺がんの化学療法は、1クールに約1カ月の入院が必要でしたが、薬や治療法が進化したことから、短期間で入退院を繰り返して治療するスタイルに変わってきています。

 また、最近では、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」など、新しい薬が出てきました。治療開始当初は入院が必要ですが、多くが経口薬なので外来治療が可能です。

 がん以外の疾患、例えば間質性肺炎なども、従来は副腎皮質ホルモン治療が主体だったのですが、ここ数年で新しい薬が出てきました。がん治療ほどではありませんが、今後は外来での治療に移行していくと思われます。

 患者さんは外来診療の方が喜ばれますし、国は医療費を抑えることができるというメリットがあることは言うまでもないことです。しかし、病院としては、こうした治療法の激変に対応して、病院をどう維持していくかを真剣に考えなければなりません。

 在宅医療への転換が求められる状況の中で、治療法の変化と国の政策の両面で運用方針が変わるため、かじ取りが難しい問題です。

―新病棟への建て替え計画がすすんでいます。

 現在使用していない古い病棟一つを取り壊し、跡地に7階建ての病棟を建てます。

 まもなく一期目の建設工事が始まり、順調にいけば2018年夏に完成予定です。1床当たりの面積や、廊下を今より広く確保し、診療内容、病床数は一般300床、結核40床となります。

 結核は、当院の核となる診療でもあります。新病院では、一フロアを結核専用病棟にして、一般の患者さんと感染症の患者さんの動線を完全に分けられる設計にしています。

 近年、結核患者は減少傾向にあるとはいえ、今の日本の罹患率は人口10万人あたり14.4人(2015年)で、先進諸国の中では、罹患率が高い方です。特に都市部に多く、ここ大阪府は23.5人、大阪市が34.4人と日本の中では飛びぬけて高いです。国は2020年の東京オリンピックまでに罹患率を低蔓延国化(人口10万人あたり10人以下)にしようと取り組んでいます。われわれも専門病院として貢献できるよう努力したいと思います。

―今後の展望は。

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新病院のイメージパース

 併設している臨床研究センターの使命として、感染症、がん、希少疾患の研究と情報発信があります。

 このセンター内の感染症研究部は、結核、非結核性抗酸菌症、肺真菌症を中心とした呼吸器感染症の基礎研究と臨床研究を担っています。現在取り組んでいるのは、世界的に大きな需要が見込まれる、結核のDNAワクチンの開発です。

 また、呼吸不全難治性呼吸疾患研修部は、国内の患者数が数百人という「肺胞蛋白症」「リンパ脈管筋腫症」の病体解明と治療薬の開発にも携わっています。

 呼吸器が専門の医師は国内に多くはないものの、当院を選んで来てくれる医師は、研究マインドがあって、真面目で優秀な人が多い。彼らに研究のおもしろさを伝え、育てていくこともわれわれの大切な役割です。

 若い医師や患者さんに集まってきてもらえるのは、専門性に特化した診療・研究形態にあります。これからも呼吸器分野において、常に新しいものを取り入れ、専門性をさらに明確に打ち出していきたいと思います。

独立行政法人国立病院機構 近畿中央胸部疾患センター
大阪府堺市北区長曽根町1180
TEL:072-252-3021
http://www.hosp.go.jp/~kch


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