地域医療を"ひと"が支える
愛媛県宇摩医療圏の地域医療を担うHITO(ひと)病院。2013年に、病院名を改め、加えて新病院を建設するという一大プロジェクトを実施。その中心となったのは創業者で前理事長の長女、石川賀代理事長・病院長だ。今年10月、開設から40周年を迎えた今の思いや課題について聞いた。
◎HITOに込められた思い
県の地域医療再生計画に基づき、県立三島病院が当院を含めた二病院に病床の民間移譲を実施。当院は150床あまりの旧病院から104床を増床、257床の新病院として生まれ変わりました。新病院となって4年目ですが、ようやく落ち着いてきたなと感じています。
新病院立ち上げに当たっては、父の「患者さんを最期まで見捨てずに診る」という思いを引き継ぎながら、"いきるを支える"病院というコンセプトを核に、これからの病院のブランディングを描き、具体的な計画を進めました。このため、病院の施設の空間デザイン、コミュニケーションツールなど一つひとつにメッセージを込めています。
あまり悩まないタイプですが、病院名を決めるのにはすごく勇気がいりました。HITOには、Humanity(患者を家族のように想い、温かく接する)、Interaction(患者との対話を尊重し、相互理解に努める)Trust (技術と地域の研鑽に努め、信頼される医療を目指す)、Openness(心を開き、患者と公平に向き合う)という意味が込められていますが、同時に職員の行動規範にもなっています。
候補は数百ありましたが、最終的に病院名と病院の目指す方向性が一致しているものに決定しました。患者さんにとってわかりやすく、スタッフが名前の意味を説明しやすく、また、言いやすく飽きがこないと思います。
◎地域に求められる医療を提供 情報発信の重要性
四国中央市の高齢化は約29%。愛媛県の中ではそこまで高くはありませんが、独居や老々介護も増えています。当院の急性期の入院患者さんの約6割が、75歳以上です。
このため、新病院では、従来からある急性期だけでなく回復期病棟、地域包括ケア病棟の機能を加えました。地域の高齢者を支えるためには、生活を見据えたリハビリを行うなど、在宅復帰を支えることが大事だと考えます。
救急の強化のために、旧病院にはなかったHCU(ハイケアユニット)を設けました。当初は、8床でしたが現状は10床に増床しています。
また、これまで地域にはなかった緩和ケアにも取り組んでいます。がんの患者さんの終末期を支えることも重要な役割となっています。
しかし、地域医療を支えるためには、地域の医療機関との連携も重要です。そのためにも、私たちの病院やグループ施設が今、どのような医療を提供できるのか、どのような機能を持っているのかなどを理解していただくための情報発信には力を入れています。
このため昨年は、医療従事者や病院向けの広報誌「NEXT TO」の制作をスタート。今年は2号目を制作し、当院のセンター機能の役割について詳細に伝えました。臨床研修医の方にも、当院に興味を持ってもらえるきっかけになってほしいですね。
もちろん、患者さん向けの情報発信も大切です。媒体も、情報誌だけでなくスマートフォンなども含めると多様化していますが、内向きにも外向きにも、新しい病院を根付かせて、自分たちがやっていることをきちんとわかっていただきたいと考えています。
◎父親と対等な立場で
医師になろうと思ったのは、中学生の頃だったと思います。父は、私が小学校3年生の時に開業しましたので、その後は忙しく、なかなか会話をする時間もありませんでした。そのためか、いずれ医学という同じ土俵で対等に話をしたいと思っていました。
ただ、私は大学でウイルスの研究をしており、病院を継ぐことは当初あまり考えていませんでした。
14年前に内科医長として戻りましたが、医療安全やクリニカルパスといった活動の文化がなく、まずそこから取り組みました。
多職種で一から立ち上げるのは大変でしたが、一緒に取り組むことは楽しく、勉強になりましたし、職員が成長するのを見られたのが良かったですね。
院長になり、立場は大きく変わりましたが、今でも、現場の感覚を大切にしています。報告を聞くだけではわからないことは多々あって、これを補うのがコミュニケーションです。
また、患者さんに来院して頂けることや、スタッフが働いてくれて病院の運営ができますが、それが当たり前だとは思えなくなりました。
日々、患者さんや職員への感謝の気持ちを持ちながら過ごしています。
◎女性の医師として
以前に比べると、女性医師が、結婚や出産、育児をしながらでも、キャリアを積み重ねていくことが可能な環境になってきたのではないでしょうか。当院でも、非常勤で、子育てをしながら勤務される方もいます。ただ、同僚や家族といった周囲の理解は重要です。家庭と両立しながら働く女性医師を理解し協力をする男性医師も増えているので、女性を後押ししているのでしょう。
当院には、看護師をはじめ、女性スタッフが多いので附属保育所"HITO KIDS"を造り、子育てをサポート。夏休みなどの短期間だけの活用もできます。また、お弁当を持参しなくてもよいので、忙しいお母さんには大変好評です。
女性に限らず、組織の中にいろいろな立場の方がいることは、多様な視点が取り入れられ、さまざまな文化を受け入れる力になると思います。その力が、組織の大きな進化につながっていくのではないでしょうか。
社会医療法人 石川記念会 HITO(ひと)病院
愛媛県四国中央市上分町788-1
TEL:0896-58-2222(代表)
http://hito-medical.jp