専門医を養成し、県の糖尿病医療のさらなる充実を
広島大学病院内分泌・糖尿病内科は広島県全域の内分泌疾患や糖尿病患者の診断と治療とともに内分泌学および糖尿病の臨床、基礎研究などにも力を入れている。
米田真康診療科長に広島県の糖尿病医療の現状などを聞いた。
◎広島県の糖尿病医療の現況
広島県は東西に長く、また瀬戸内海の島々や中国山地の山間部にもたくさんの糖尿病患者がいます。しかし、広島県では糖尿病専門医数が絶対的に不足しており、そのため広島市中心部は大丈夫であっても、周辺には糖尿病専門医の存在しない地域が散在し、県民人口に対する糖尿病専門医の分布に不均衡が生じています。
県内唯一の医学部附属の病院である広島大学病院の責務は、糖尿病内科医を養成し、県内七つの医療圏の糖尿病診療の拠点となる専門病院に派遣することです。この拠点病院とそれぞれの地域の開業医とで病診連携し、軽症から重症まで、初期教育から合併症精査まで「各医療圏内で完結型」の糖尿病診療を目指しています。
一つの例を挙げると、県北部の備北医療圏には、糖尿病内科医が常勤する病院が市立三次中央病院しかなく、隣の庄原市には糖尿病内科医の在籍する病院が存在しません。
数年前までは大学から大学院生を庄原赤十字病院へ非常勤医師として週1回派遣していました。しかし、医師は移動距離がとても長く大変で、患者は受診できるのが決められた曜日だけであり、また入院する際にも不便を生じておりました。
そこで、三次中央病院の糖尿病内科の常勤医を2人から3人に増員し、そこから庄原赤十字病院に週に2回外来診療に行ってもらうようにしています。大学からに比べると移動距離は格段に短く、また入院医療は三次中央病院で行い、退院したら庄原に戻るという、三次市と庄原市の備北医療圏内で完結できる、現時点では最も効率的な体制だと考えています。
◎中国地方初 肥満外科手術
一昨年から当院の消化器外科が始めたのが高度肥満症の人に対する減量手術(バリアトリックサージャリー)と呼ばれる胃の切除手術です。この手術は、肥満の多い欧米では盛んに行われていますが、日本ではまだ一般的ではなく、中国地方では当院が最初にこの手術を始めました。
もちろん欧米に比べ日本では胃を切除しなければならないほどの肥満患者の割合はごくわずかですが、減量手術を始めて間もない当院でもこれまでにすでに9人の方が手術を受けていますし、今後はもっと増えることが予想されます。消化器外科や消化器内科、栄養士、理学療法士とチームを作り、密に連携を取り対応していくことが重要だと考えています。
◎糖尿病内科医は話し好きで聞き上手?
ひと口に糖尿病と言っても、インスリンの分泌が少ない人、インスリンの働きが悪い人などさまざまな患者がいます。さらにおのおのの生活習慣や生活背景も異なっており、誰一人同様の人なんておりません。
ですから糖尿病診療においては、患者との対話を重視し、病気だけでなく、その人の仕事内容や家族構成、趣味、物事の考え方や性格など、事細かに聞き出すことが大変重要です。
私は臨床実習に来た医学生たちに入院患者さんのベッドサイドで毎日頻回に訪れ、話を聞くよう指導しています。今まで教科書や講義でしか勉強してこなかった医学生たちが、初めて患者と直に接することで、コミュニケーションの取り方を学び、ときにはその難しさを痛感し、医師になるための階段を登っていくのだと信じています。
◎糖尿病内科医になったきっかけ
私自身、どちらかと言うと地味な糖尿病内科になろうと決めたのは、循環器内科で研修をしていた時の症例カンファレンスの女性の糖尿病患者がきっかけです。今でもその患者さんの顔と名前は覚えています。心臓血管カテーテル治療でそのときが4回目の入院でした。入院中は血糖値もまずまずなのですが、せっかく心臓を治療してもらっても、家に帰ると間食がやめられず、ヘモグロビンA1cの値はいつも8〜9%以上であり、またどこか違う血管が詰まってしまうということの繰り返しでした。
この患者に対して根本的な解決をするには、危険因子である糖尿病の制御しかないと思いました。研修医をしていた当時は、次々に新しい糖尿病の治療薬が臨床の場に登場し、血糖値を下げるための選択肢が増えてきた時代でもありました。
私がこれから進むべき道は、患者さんの詰まった血管を治す側ではなく、血管が詰まらないよう、糖尿病合併症を予防する側になろうと決め、糖尿病内科を選択しました。それと、人と話すのが好きであったことも、その理由だと思います。
◎広島県の糖尿病医療の未来のために
広島県では糖尿病専門医が絶対的に少なく、偏在していることから、各医療圏の糖尿病地域医療は今がぎりぎりであり、一部の地域では崩壊寸前の状態です。
この危機を救うには、まずは糖尿病内科医の数を増やすために、女性医師の産休、育休後の復職が重要だと思います。研修医を終え、臨床現場に一人前の医師となって勤務する頃、結婚し、そして子供を産んで育てることが多い時期でもあります。本当はすべての女性医師の方に産休、育休後には臨床の現場に戻って来てほしいのですが、実際は決して多くはないんです。ですから、勤務を外来診療に限定するとか、午前中や時短勤務にするとか、ある曜日だけの非常勤とか、各病院が勤務体系を工夫して、女性医師の復職しやすい環境を整備しなければならないと思います。
それから、どうしても糖尿病内科医・専門医が不足する場合、地域医療の在り方を工夫しなければいけません。将来的にはICT(情報通信技術)を駆使した糖尿病の連携ネットワークを構築できたらと考えています。
その地域に糖尿病専門医がいない場合、一般開業医の先生から、紹介状をもらって遠方の大学病院を受診するのではなく、パソコン上でリアルタイムに患者の情報を共有し、必要な検査、薬の変更やインスリン投与量の調節などを直接指示できます。また、入院が必要な場合は、どこの拠点病院に紹介あるいは搬送すればよいかといった指示も可能となり、効率的な糖尿病診療ができるようになると思うのです。
今年、監督とコーチ、選手、そしてファンが一体となって、25年ぶりにリーグ優勝を果たした広島東洋カープのように、当院だけでなく各拠点病院、広島県、県医師会の糖尿病対策推進会議が一つになって、県の糖尿病医療の現状を打破し、さらなる充実を目指していくことが重要です。
自前の医師をしっかり育て、当院が広島県民にとってなくてはならない存在になれるよう、これからも地域の先生方や県の職員の方と力を合わせていきたいと思っています。
広島大学病院
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