医療の質を担保するために / 山間地医療の現在と未来を考える
徳島県西部圏域は県内で最大の面積を持つ山間地域であり、高齢化と人口減少が地域の抱える課題です。
この地で県立病院である当院が担うべき地域医療の枠組みは、ある程度決まっています。地域医療の「最後の砦(とりで)」と呼ばれてきたことが多いのですが、最近、開設者である県知事は「四国中央部の要(かなめ)になってほしい」という考えを持っているようです。
背景には、当院が要として機能しないとこの医療圏域が成り立たないという切迫した事情があります。つまり、当院の機能がまだ十分ではないので、当院からさまざまな病院へ紹介するというドレナージ(排出作用)的な現象が起こっているということです。当院が機能強化して住民の方に戻ってもらわないと地域自体が消滅してしまいます。
知事の構想について、最初はほとんどの方が信じていなかったようです。地域医療の要になるには、急性期医療を提供しなければならないし、手術と化学療法と放射線治療のフルセットのがん治療設備も備えなければなりません。これについては、放射線機器を導入していただきましたので、緩和病棟も含めてすべてがそろいました。県知事の英断だったと思います。
ほかには平時から災害時までのシームレスな救急医療体制が必要です。昨年、日本航空医療学会の施設認定をいただきましたので、救急搬送の迅速化・広域化を進めています。
さらに、地域医療を担う人材育成についても、この夏に各医局をまわって医師の派遣をお願いしてきました。「医療人を派遣してください」とただお願いするだけではなく、ここで育てる、あるいは育てた方がいろんなキャリアを経てここに帰ってくる、そういう構想を立てています。
初期臨床研修医を採用していなかったのですが、来年から開始する予定です。病院としての魅力や特色をもっと出していく必要がありますね。
魅力ある医療施設とは。
専門医志向の医師には来てもらえないでしょう。むしろ、ここに来るべきではない。では当院で提供するのはどんな医療なのか。よくプライマリ・ケア(総合的医療)という言い方がされますが、私は「地域医療」という表現を好みます。
地域医療とはなにかという定義についてはさまざまな議論があるでしょう。たとえば、このあたりだと「次は2週間後に病院に来てください」と言っても、山の上で暮らしているのでそう簡単に来られない、雪が降ったら車がないと動けないなど、それぞれの方がさまざまな事情を抱えています。その事情をくんだうえで、なにができるのか考えるのが地域医療です。
住民が安心して暮らすためにはなんでもする、と。
なんでもする、わけではないんです。その考え方は素晴らしいと思います。たとえば諏訪中央病院の鎌田實先生などはそういう考え方をお持ちですが、当院のような県立病院がすべてこなしてしまうと、地域の病院のやることがなくなってしまいます。おそらくつぶれる病院もでてくるでしょう。だから、県立としてやるべきことをやる、民間ではできないことをやるということが、役割分担になると思います。
たとえば、これから認知症がどんどん増えていきます。院内デイケアをやっているのは、職員が経験を積むことで認知症の対応に強くなり、地域に出て連携しようという先のことまで考えた計画があるからです。
今後は、もうひとつ進めた医療連携をやりたいという思いもあります。
高齢化でいえば認知症に加えて摂食嚥下(えんげ)障害が課題になります。現在、脳卒中と誤嚥性肺炎が入院患者さんの1割以上を占めていますが、2割までは増えるでしょう。
しかし、肝心のリハビリ施設は西部圏域内にほとんど存在しなかったんです。これまでは外部の病院に紹介していましたが、現在はリハビリ職員や言語聴覚士(ST)を雇用しています。将来的にはリハビリセンターを置く計画もありますが、地域で住民を守る体制をどう作るかは、リハビリを含めて考えるべきです。
通常は余るはずの高度急性期と急性期の病床すら、ここでは足りない状況でした。じつは、今年の3月に7対1看護体制を敷きました。在院日数の短縮などは苦労しましたが、急性期病院を基本方針としたうえで、職員に対しては常々「やさしい病院をつくる」と宣言しています。
朝のプチミーティングでは「地域に信頼される病院づくり、断らない、いますぐ、笑顔で」というキーワードを共有しています。明日のために必要なのは「夢」であり、患者さんに必要なのは「希望」です。そして患者さんにとってたったいま必要な「やさしさ」にあふれる魅力的な病院をつくりたいんです。
地方においては、今後病院の統合や合併が進むという予測もあります。
あと数年のうちに西部医療圏を立て直さないと、このあたりの住民はいなくなってしまうだろうと予測しています。とてもじゃないが、2025年までもたないでしょう。
立て直しというのはつまり「医師不足の解消」です。ロボット手術が当たり前になってきている時代に、このあたりだけひと昔まえの医療に戻ることはできません。
最低限の医療として救急医療がありますが、救急医療の医師たちは昼は他の診療科で働くわけですから、両方を備える病院が地域あたりに最低ひとつは必要です。
西部圏域では当院がその病院にあたりますので、病院統合も視野に入るかもしれません。医療の質を保証するためには「質を維持するためにはこれだけの医師が必要だ」という視点を持つべきです。どんな小さな学校でもピアノは置いてありますよね、あの発想と同じなんです。
都会の人間が考える理屈で、このあたりの医療のあり方について判断するようなことはそもそも間違いであり、すべきではないと思います。
徳島県立三好病院
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