幸せな最期を迎えるお手伝い / 在宅での看取りを支える地域医療
医療法人互生会(本部=高知県宿毛市)の源流は、1916(大正5)年までさかのぼる。
貧しい農家に生まれた初代・筒井勝太郎はアメリカ移住計画のとん挫や徴兵を経て、1日14時間の猛勉強のすえ独学で医師免許を取得。高知県高岡郡に筒井醫院を開業した。
2代目・兄八郎は軍医として満州に赴任し、戦後は地域住民の健康のために日夜往診に走りまわった。
3代目の大八氏は1988年に医療法人互生会と社会福祉法人愛生福祉会を設立し、初代理事長に就任する。その後、互生会は高齢者医療・福祉に大きく舵を切り、現在は首都圏でも複数の施設を運営している。
ー今年4月に「去りゆく人に寄り添う看取りの心得」(現代書林)を出版されました。
1990年から四半世紀にわたって、われわれ互生会と社会福祉法人が展開してきた医療・介護福祉事業を振り返りつつ、在宅医療や施設介護の現場で「看取り」に迷ったときの指針として考えをまとめたものです。
ここまで介護福祉事業に深く関わることになったきっかけは、厚生省(当時)が1989年に制定した「高齢者保健福祉推進10カ年戦略」(ゴールドプラン)です。
医療法人互生会と社会福祉法人愛生福祉会は1990年から、ゴールドプランに沿って老人保健施設や特別養護老人ホーム、在宅介護支援センター、訪問看護ステーションなどを設立しており、地域における高齢者福祉の中心になっています。
ー現在、互生会と愛生福祉会は東京や横浜・埼玉・千葉など関東方面に進出し、複数の老健や福祉施設を運営されています。
地域の人口減や高齢化など、先代の父から受け継いだ病院の運営について限界を感じて悩んでいたころにゴールドプランを知り、関連した事業を開始しました。
その後10年ほどして介護保険が始まったため、次は事業を維持するため、あるいはさらに良いものにしていくためにどうすればよいのか、悶々と悩むようになりました。
そんななか、2005年に「介護療養病床の廃止」(2018年度以降)という報道を目にしました。介護療養病床は介護保険とともに創設された新しい介護施設でしたので、多くの関係者は信じられない思いだったでしょう。
創設して5年もたたないうちに廃止するというのに、厚労省は「利用コストがかかる」という理由しか示しません。行政に対する不信と、今後どうやって生き残るのかという混乱のなか、あるコンサルタントを通して「首都圏で老健や特養が不足している」という実情を知りました。驚きましたが、同時に20年近い経験があるわれわれが入り込む場所があるようにも思えました。
足元を固めるために、やがて廃止されると予想されていた介護療養病床を回復期リハビリにする方針をたてました。
そのうえで、まずは埼玉県越谷市で宙に浮いていた老人保健施設の整備枠を入手しました。その後、首都圏では横浜市緑区で特養と東京都西多摩郡と府中市で老健を運営し、本年は千葉県木更津市で回復期リハビリを中心とした病院開設を予定しています。
ー在宅医療のパイオニア的存在であり、医師として2000人以上を看取ってきた経験をお持ちです。
1991年から4年間で189例の看取りを行った際のデータが残っています(図参照)
病院で亡くなった方は110人で58.2%、在宅死は77人で40.7%でした。在宅で亡くなった方のうち、16人は病状の急変や救急搬送が間に合わなかったなど、意に沿わない亡くなり方でしたが、61人( 32.3%)の方はご自分もご家族も納得されて在宅死された方です。
2001年から4年間(197例)を記録したデータでは、在宅での死亡が極端に少なくなったことがわかります。この傾向は介護保険以降に顕著になりました。理由のひとつに当時の訪問看護制度が衰退したことがあげられますが、これは介護保険に主な原因があります。
介護保険制度の施行前の訪問看護は医療保険で手当てされていました。介護保険が優先されることで介護や生活支援に優先して予算が使われることになり、ケアプランから訪問看護がはずされてしまったのです。
そのため、終末期が近くなったり医療が必要になると入院へ誘導するケアマネジャーが増加するようになりました。訪問看護を医療保険に戻さないと在宅死を実現させることは難しいと感じています。
ー著作には、「最近のデータでは在宅死が増えている」ともあります。
病院で看取ることに代わって、特養や老健、有料老人ホームなどが看取りの場になる例が増えてきました。「死なせる施設は悪い施設」という価値観が見直されたことが大きいですね。2005年ごろには、特養で看取り加算が算定できるようにもなりました。
現在では、とくに高齢者を病院で看取る割合は50%以下になっています。老健での看取りが増えるのにつれて在宅死が増加しているのも特徴です。
厚労省は地域医療の充実というテーマを掲げていますが、私にとってはこれまでと同じことを実践していくだけです。
夜中に起こされて往診に出かけて行った軍隊上がりの父親の後ろ姿が目に焼き付いています。子どものころは「こんな職業にだけは就きたくない」と思ったものですが(笑)、あれこそが究極の地域医療だったと改めて思い返すこともあるのです。
地域に生まれ、育った方が安心して地域で看取られる、それがこれからの地域医療であり、互生会が守っていきたいものです。
医療法人 互生会 筒井病院
高知県宿毛市平田町戸内1802番
TEL:0880-66-0013(代表)
http://goseikai.jp/tsutsui-h.html