時代とともに変わる労災病院の役割 / 救急医療とがん治療の基幹病院として
◎労災病院の使命として。
香川労災病院においては、救急医療とがん治療がこれからの二本柱になるでしょう。当然、政策医療であり労働者の健康を守るという労災病院として本来の使命はこれまでと変わらずあります。
もっとも、丸亀市において、当院は市民病院的な役割を期待されています。したがって都会の労災病院とは違った性格を持ち、丸亀市、中讃地域の基幹病院として役割を果たしていくということが今後は最大の使命になります。
当院の年間の救急車受け入れ台数は約3500台で、県内ではトップクラスです。3年前には、新しい救急棟をオープンしました。設計するにあたり、中四国のさまざまな救命センターを見学し、「いいとこどり」させてもらいました。地域のみなさんに満足していただけるものを作ったつもりです。
救急について、香川県では東讃地域に救急救命センターが2カ所あり、香川県立中央病院と大学病院があります。西讃地域では三豊総合病院に救命救急センターができました。一方、中讃地域では3次救急の拠点がないので、当院は1次から3次救急まで幅広く受け入れています。
一方のがん診療においては、中讃地域は25万人から30万人の医療圏人口を抱えますが、がん拠点病院は当院だけです。
当院の手術件数は年間4000〜4400件です。がん拠点病院ということもあり、がん患者の手術がこの規模の病院としては多いほうだと思います。
また、当院は緩和ケアにも積極的に取り組んでいます。週1回緩和ケアチームでは症例検討を行うのですが、内科・外科・放射線科・麻酔科などさまざまな診療科に加え、薬剤師・看護師など他職種が積極的に参加しています。私もチームの一員として緩和ケア研修会の開催などで尽力しています。
◎中央に比べて地方においては研修医確保でひと工夫必要です。
じつは、研修医を集めるのに苦戦しています。背景には、香川大学からは遠いし、岡山大学も海を越えなければいけないという地理的な事情があります。
そうはいっても、当院の症例は多いですし、無理な勤務を強いることはありません。これまで当院で初期研修していた先生方にはかなり気に入っていただき、8割の方が後期研修医として残っています。来ていただくという、スタート部分で苦戦しているということですね。まずは見学に来ていただきたい(笑)。
2004年の新臨床研修制度ができたときは研修医が都会に集中しました。延期された新専門医制度も、医師の偏在を防ぐねらいがあるとされていますが、実際にはまだわからない部分が多い。
偏在をなくすために、ある程度は強制力をもった研修制度も必要なのかもしれません。たとえば学術講演会などにしても、都会、とくに東京だと毎日のように開かれますが、このあたりだとなかなかそういう機会に遭遇することもできない。
最近はWEB上の講演会も開かれるようになりましたが、やはり研修医にとってはそういう勉強の場の情報が必要だと思います。症例も都会のほうが多いので研修先として魅力的なのは理解できます。
◎魅力作りのために、具体的にどのようなことに取り組んでいますか。
まず、救急も含めて当院の症例は非常に多いと思います。
ワークライフバランスを重視する学生も、増えていることもわかりますが、当院では勤務時間を超えて研修医を縛るようなプログラムは作っていません。初期臨床研修の機能評価も受けていますし、適宜改善を続けているところです。学生に人気のある講演会やワークショップを開催して学生に来てもらう、全国から研修医が集まる病院になるのが理想ですね。
最近よく話題にあがる総合診療についても、当院は総合診療を標榜こそしていませんが、高齢化を迎えて総合診療がますます重要になるということは強く意識しています。
◎救急では地域の消防との連携強化が必要です。救急功労者表彰を9月9日に受けられた。
おかげさまで、消防の方々に推薦していただいて、受賞することができました。
地域の救急については、たとえばメディカルコントロール協議会を中心に、事後検証会議を2003年から実施しています。香川県全部で九つの消防本部があります。当院が主に救急要請をうけるのは坂出、丸亀、多度津、善通寺などです。それらの消防本部とは定期的に当院で急搬送症例検討会を開催しており、活発な討論が行われています。また年に1回は懇親会を開いて、お互いが目に見える関係を築いています。
救急の充実度は地域住民の方が最も重視されることのひとつです。救急棟を新設したのは、受け入れ能力不足で丸亀市の患者さんをほかの地域へ送ることがあり、それを解消するねらいがありました。
◎ペインクリニックと緩和ケアを麻酔科のひとつの分野だとお考えです。
当院の麻酔科は手術の麻酔だけではなく集中治療、救急、ペインクリニックをすべて行います。とくに麻酔科医が9人いますのですべての手術に対応できることは大きな強みですね。
ペインクリニックについては、私ひとりで多いときには午前中で70人を診ていますし、平均でも1日約50人は見ていることになります。
私が赴任した当初はペインクリニック科を標榜していませんでしたので、患者さんが気軽にペインクリニックにかかってもらえるように、広報誌を使って宣伝することもしました。
1999年度から正式な診療科としてペインクリニックを始めました。主な疾患としては腰痛、帯状疱疹後神経痛、頚椎(けいつい)症などですが、さまざまな痛みに対応してます。がん性疼痛の患者さんも外来で通院しており、かなり幅広い領域を治療しています。
かつては椎間板ヘルニアだと手術療法が主でしたが、最近は神経障害性疼痛に関する良い薬もたくさん出てきましたので、神経ブロックと組み合わせて保存療法が可能な症例も増えてきました。
また、手術のほうが適切であろうと判断した場合は積極的にセカンドオピニオンで他科を紹介しています。
私が赴任してから、以前からあった麻酔科の研修認定施設に加え、救急学会の専門医認定施設、日本集中治療医学会の専門医認定施設、ペインクリニック学会の専門医認定施設などを取得し、若い医師が麻酔科関連のさまざまな専門医を取得できる環境を整えました。
環境を整えたからには、ぜひ研修医のみなさんに来ていただきたい。香川労災病院で研修を積むことを希望する、意欲ある若い医師をお待ちしています。
独立行政法人 労働者健康安全機構香川労災病院
香川県丸亀市城東町3丁目3番1号
TEL:0877-23-3111(代表)
https://www.kagawah.johas.go.jp/