ベッドサイドから学べること
■若い力を起爆剤に
1980年に岡山大学麻酔科に入局し、1992年に当院に着任、副院長を経て、今年4月に院長に就任しました。当院は手術も多く、毎日手術室で過ごしていたような状態でした。管理職に就いてから、ようやく病院全体を俯瞰して見られるようになった気がします。
今後、力を入れなければならないことは経営の改善です。そのためには、まず医師の確保をしなければなりません。当院は救急医療を担っています。しかし、救急の現場では人員が充足していないと現場が疲弊してしまいます。
現在、内科系と外科系の2人のドクターで当直をしています。しかし、内科系の医師が不足していて週に2日、内科系医師が当直できない日があるのです。
外科系医師一人で、すべての患者を診なければならない状態で、医師確保は急務です。
最も多いときで50人の常勤医師がいましたが、現在は40人弱。そのために患者数が減少しています。当院では医師不足解消の一環として研修医を集めることに力を入れています。
もちろん私ひとりの力でできることではありません。院長になった時、副院長を5人体制にしました。大枝忠史先生、川真田修先生、宇田征史先生、水戸川剛秀先生、上谷紀子看護部長の5人にそれぞれ役割を受け持っていただいています。
みなさんとても優秀で、研修医の獲得についても積極的に取り組んでくれています。その甲斐あってでしょうか、当院の研修医枠は2人なのですが、来年はフルマッチです。いい循環になりつつあります。
若い人が増えると病院が活気づきます。医師不足解消の起爆剤になってくれることを期待しています。
現在在籍中の各診療科はそれぞれ高い専門性を発揮していますが、外科、脳外科、整形外科、泌尿器科は、特に高度な医療を提供していて、充実した研修を受けられる環境だと思います。岡山大学の医局とも交流が盛んで、後期研修医も定期的に送ってもらっています。
■顔の見える連携
尾道の地域医療連携は「尾道方式」と呼ばれています。医療と介護の連携が非常にうまくいっている地域で、全国から尾道方式を参考にしようと多くの人が見学に来られます。 尾道の開業医の先生が約200人、勤務医も約200人。お互いに顔の見える連携を取り合っています。毎月20日には「廿日会」という会合を開いています。毎回100人前後の開業医、勤務医らが参加し、おいしい料理とお酒を飲みながら腹を割った話をしています。
後日、改めて正式な会議を開きますが、すでに廿日会で、ある程度のことが決まっているので、会議の進行がとてもスムーズです。廿日会の存在も尾道方式成功の一因かもしれませんね。
■きめ細かい指導体制
看護師の定着率が、非常に高いことが自慢です。入職1年目の看護師の離職者ゼロが、ここ数年続いているのです。それは各個人に合わせた、きめ細かい教育を提供できる体制が整っているからだと思います。
精神的に落ち込んでしまう人もいますが、そういうときにも周囲の職員たちみんなで励まします。明るく、前向きに働くことができる風土が醸成されていると思いますね。べテランの職員たちが、若い人の指導を熱心してくれているおかげでしょう。
当院では、ある年にたくさんの人を採用する、といったことをしません。年代のバランスを考えて、毎年、計画的に新人を採用しています。それにより職員の年代層はバランスが取れたものとなっています。
■医師を志したきっかけ
私は尾道市原田町の出身です。地元の高校を卒業後、岡山大学に進学。その後、各地の病院で勤務し、尾道に帰ってきたのが1992年です。故郷に戻ってから24年の月日が経とうとしています。
私が育ったのは山間部で、医師が少ない地域でした。町には診療所が一つしかなく、そこには高齢の女医さんがいらっしゃいました。その先生は常々「誰か医師になってくれればありがたい」と話していました。そのことも頭の片隅にあったのかもしれません。
最終的に医師を志そうと決めたのは高校3年生のとき。担任の先生に医学の道を勧められたことがきっかけです。先生が懇意にしている開業医の先生と引き合わせてもらったりもして「医学部に行きたい」と思うようになったのです。
私が医学部を卒業した当時は、まだ臨床研修制度がなく、すぐに医局に入局しなければなりませんでした。内科系を目指そうかなと思った時期もありました。でも、その決心もすぐにはつかずに悩んでいました。
麻酔科は2年間指導医のもとで働けば、麻酔科医を標榜できます。その後、改めて行きたい科を選択することも可能でした。モラトリアムのつもりと、岡山大学の麻酔科故・小坂二度見教授が国内初のICUを作ると言われたこともきっかけでした。集中治療ではどのような医療が行われようとしているのかということにも興味を持って麻酔科に進んだわけです。とりあえず2年間のつもりが、周術期の麻酔管理のみならず、集中治療、ペインクリニック、救急医療、緩和ケアなど広範囲に活躍できる麻酔科の面白さに目覚めて今に至っている感じですね。
全身管理をするうえで麻酔科のテクニックは必須です。気管挿管を実施し、人工呼吸器を最適な条件に設定する。中心静脈にカテーテルを挿入し、CHDF(持続的血液ろ過透析)等を利用し、体液・栄養管理する。循環系作動薬を選択して循環管理をするなど、required minimum (必要最小限)と言われる研修医には絶対に必要な手技が日常臨床で学ぶことができる診療科なので、意欲的に学んでほしいですね。
■熱意を持ってほしい
若い方には、熱意をもって患者さんを診てほしいと思います。電話で、患者さんがどんな状態かを聞けば、ある程度の指示は出せるでしょう。しかし、私はそんなことをしたくありません。
患者さんが何か困っていたら、ベッドサイドに駆けつけて患者さんの実際の状態を把握し、自分の出した指示が有効だったかどうかを診る熱意が医師には必要だと思います。
私自身、ベッドサイドで患者さんから多くのことを教わりました。本よりもベッドサイドで学ぶことの方が圧倒的に多いのです。
- 【尾道方式とは】
- 尾道市では1990年代初めから市医師会が中心となって医療と福祉の多職種連携に力を入れ、「尾道方式」として知られている。患者に関わる医療や福祉のスタッフ、患者や家族、時には民生委員までもが一堂に会して情報交換する「ケア会議」が象徴的。
尾道市立総合医療センター尾道市立市民病院
広島県尾道市新高山3丁目1170番地177号
TEL:0848・47・1155(代表)
http://www.onomichi-hospital.jp/