「永遠の進歩」を支えて
大阪市内唯一の医学部である大阪市立大学医学部。2003年より泌尿器病態学の第4代教授を務める仲谷達也教授に講座の特徴や、学会長を務める「日本泌尿器内視鏡学会」(大阪市、11月17日〜19日)について聞いた。
ー講座の特徴は。
大学附属病院と、市立総合医療センターを中心に、府下の衛星都市にある21の関連病院に、当講座の110人の医局員が勤務しています。
大阪府や大阪市内という限られたエリアで展開しているのが特徴ですがエリアが狭いため連携がしやすく、関連病院群内で医師が行き来して手術にあたることもありますし、患者さんを紹介し合うことなどもあります。そうすることで泌尿器のほとんどの疾患の診療を大学附属病院、市立総合医療センター、関連病院で網羅できます。
また、本学には都市型の医学部として、全国各地の大学で学んだ医師が集まっています。当講座も、現在20の大学の出身者でチームが構成されていますが、このように多様な大学出身者で構成されている講座もなかなか珍しいと思います。
またもう一つの特徴は、腎不全の医療全般を一貫して行っていることです。大学病院などの場合、移植はするけれども、透析はしない、というようなところが多いと思いますが、当講座では透析の導入から移植まで、トータルでしています。
関連病院でも同様に実施しており、スタッフのほとんどが泌尿器の専門医であると同時に透析の専門医でもあります。高齢化に伴い、透析患者は、全国で32万人を超えています。また、透析予備軍とされる慢性腎臓病の患者も1300万人と言われています。
今後、透析患者の更なる増加が予想されるなか、腎臓だけでなく原疾患となる、糖尿病や動脈硬化など、トータルで診ることができる総合病院の役割はますます重要になると思います。
ー「日本泌尿器内視鏡学会」の学会長を務めます。
今回の学会は第30回目の記念すべき大会となります。そのような学会の学会長を務めることは大変光栄なことです。
この学会は、もともと体外衝撃波結石破砕術(ESWL)が結石の治療として導入されたことを機に始まった学会でもあり同時に最新のテクノロジーを学べる学会でもあります。
今学会は、記念学会として、テーマを「永遠の進歩」としています。温故知新を大切に、泌尿器だけではなく、消化器などの先生と共に、腹腔鏡手術の黎明(れいめい)期を振り返り、また現在の最新技術についても考えます。
泌尿器の手術の様相は この数十年で、180度変化しました。ダビンチをはじめとしたロボット支援手術の拡大など、泌尿器領域ほど革新的な進歩を遂げた領域はなく、当講座でも、現在は前立腺がんの開腹手術はほとんどなくなりました。それらをトータルで考える興味深い学会になると思います。
また、医療界以外からの講師を迎える文化講演では、谷川浩司永世名人にお話を伺います。私は将棋が趣味で、今回座長を務めさせていただきますので個人的にも大変楽しみです。
将棋と医学は、一見関係のない世界のようですが、実は多くの共通点があると感じています。どちらも、それをうまく進めていくためには、細心の注意が必要です。若いころ、先輩に「先を読め」「後手に回るな」とよく言われたものです。治療にあたっては、常にどんな可能性があるのかを予測し、不安の芽を摘んで予防策を予見することが大事な点です。
今後も泌尿器の治療では、さまざまな技術革新が起こると思います。その科学の進歩に私たちはどう対応していけばいいのか。未来を考えるヒントとなる話を伺えるのではないかと期待しています。
ー腎移植についての活動もされています。
当講座では、透析に負けず劣らず腎臓移植にも力を入れています。総合医療センターとで、年間40〜50例、月に4、5件行っています。
国内では、年間1500例の腎臓移植の実績がありますが、9割は生体間移植。亡くなられた方からの移植は150〜200例と大変少なく、これは先進国のなかでも大変低いというのが現状です。
すべての方とは言いませんが亡くなった方からの臓器提供が、もう少し普及してもいいのではと考えています。臓器提供が広がっていくためには、学校教育での学びも大事ですが一人ひとりが、家族と話し合うことも重要なポイントだと思います。
あまり知られていないかもしれませんが、成人が脳死状態になった場合、書面で示されていなくとも、普段から本人が臓器提供を希望していたということがわかれば、臓器を提供していただくことが可能です。そういう意味でも、家族間で率直に、臓器提供に対して、互いの考えを語り合うことは、意義のあることだと考えます。
移植が受けられれば、患者さんの生活の質は格段に上がります。現在、移植を受けたいという方が、国内には常に1万人はいますので、この方たちに臓器を提供できるような環境作りを目指しています。腎臓移植は、患者さんにとって一筋の光だと思います。
ー医師へのきっかけは。
私は、本学のある阿倍野区で生まれ、そのまま人生の大半を、この周辺で過ごしました。小さいころ母を病気で亡くしたのですが、そのことがあったからでしょうか、医学に興味を持ち、本学に入学しました。
地域に育ててもらったという意識が強く、その恩返しに地域に役立ちたいという思いも強く持っています。
泌尿器科を選んだのは、診断学が明確なこと、他の領域とは違って、技術集団であり、診断から治療、ケアまでを一つの診療科で完結できることを魅力的に感じたからです。
医者として大切にしていることは、患者さんを第一(ペイシェントファースト)に考えること。医療行為を通して、社会貢献をすることです。
私は、学生に「なぜ医者は患者さんに感謝されるのか」と質問することがあります。そして、その答えとして、「病気という悩みが、人間にとって大変深刻なもので、医師は、治療の経過も含めてその悩みに応え、患者さんとそのご家族に安心してもらうことができるからだ」と伝えます。そして、そのことによって、やりがいを感じることができるのです。
研修医には、医者のやりがいがなかなか伝わらないこともありますが、そこに気づけば医師として、素晴らしい人生を送ることができると思います。
大阪市立大学医学部附属病院
大阪市阿倍野区旭町1丁目5番地7
TEL:06-6645-2121(代表)
http://www.med.osaka-cu.ac.jp/urology/ (泌尿器科学教室)