島根県立中央病院 山森 祐治 救命救急診療部長

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情報統括システムこそ、災害時医療の中心

福井県立藤島高校卒業 1985 島根医科大学卒業 1985 福井医科大学医学部付属病院第2外科研修 1987 島根医科大学医学部付属病院医員 1996 医学博士(島根医科大学) 2002 国立病院呉医療センター麻酔科医長 2003 島根県立中央病院救命救急科部長2014 島根県立中央病院救命救急診療部長 2016 島根県立中央病院医療局次長

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◎救命救急センターの特長

 地方の救命救急センターなので、軽症から重症まですべてを診ることが県民から求められています。実際、救急外来には搬送が絶えず、治療の対応が必要であれば入院対応などで24時間稼働しています。

 センターにはスタッフを9人置いていますが、県内では他にない充実度だと思います。もともとは麻酔科出身の先生が2人で始めて、当院で研修した先生がそのまま残ってくれたことがうまくいっているのでしょう。

 県内には救命救急センターが四つあり、中央病院は県西部と出雲市を中心に県内を管轄しています。県立の病院として全県下の救急に対応することになりますが、松江に限っては、他にも病院がありますのでほとんど搬送されて来ることはありません。

◎災害支援

 DMATを病院内で2チーム編成していますが、メンバーが23人いますので必要であればチームを増やすことも可能です。今年の熊本地震でも3次隊まで派遣し、医療救護班も合わせると5チーム派遣しています。

 東日本大震災でも現場に入りましたが、かなりの被害だったにも関わらずそれほどすることがなかったという苦い経験がありました。反省をふまえて、DMATから救護班にスムーズにつなげることが必要だという話をしていたところで、まだ体制が整っていないまま熊本地震が発生しました。

 5年間で県内のDMAT数も増えたため、初めての試みでしたが、熊本地震では島根県の依頼を受けて県内DMATチーム調整本部を中央病院内に作りました。

 結局、大きな病院でないと複数のDMATを出すことはできません。

 2次隊、3次隊と連続して出すことができず、加えて、残った人間が後方支援できるかというとそれも難しい。後方支援については、事前のシミュレーションが実際の災害時に役に立つかなかなかわからないんです。

 宿の手配をどうするのか、帰りの手配はどうするのか、2 次隊、3次隊にどうつなげてるのか。とにかくチームを出そうという雰囲気になると混乱します。

 ほとんどのチームは1隊だけ出して、とりあえず行ってみよう、自分たちができることをしようというスタンスです。私たちは東日本の経験から、それではだめだということがわかっていたので、必要な動きをするために調整本部を作って、実際の熊本のニーズを調べて、どの地域に行くべきかも考えて動きました。

 現場で指揮する熊本県庁もかなり混乱しているはずで、なかなか受け入れの要望もわからないだろうということで、派遣した人間から2次隊以降を出す必要があるかどうかの情報をもらうなどしました。結局、島根県で2次隊まで出したのは3チーム、3次隊まで出したのが2チームでした。そのあと救護班につなげることもできたので、5年前の経験が生かされたと思います。

◎災害時に必要な統括システム

 調整本部が県内のDMATをもっと有機的につなげることができなかったのが、今回の熊本地震に関して見えてきた課題ですね。

 他県で災害が発生したときに島根県として送り出す側のルールはまだきちんと決まっていません。いまだ縦割りで動く部分もあって、たとえばDMATなら医療政策課、保健師は健康推進課から出るとか、横の連携がとりにくいんですね。今後は島根県としてDMATだけではなく、他の医療班の派遣調整や情報共有を行う体制を構築していくことが必要だと考えています。

 災害時に必要なのは、縦割りを越えてさまざまな人、さまざまな組織と交流できるシステムだと思います。それがないと、災害の現場で起きている事案にそれぞれが独立の対応をしてしまって、さらに混乱することになる。

 現場の情報を吸い上げて、情報を整理したうえでオーダーできるシステムと、それを受けて、たとえばDMATを統括して送る側のシステムですね。これがあって初めて十分な活動ができると思うんです。

 現場には全国からたくさんの救援チームが入っていますが、それぞれが勝手に動くとまったく統制がとれませんし、効率のいい活動ができません。熊本地震では、熊本県の災害対策本部をトップに、それをサポートするために災害医療センター(東京都立川市)が応援に入っています。

 今回、われわれは南阿蘇に入りました。役場に対策本部を立ち上げていましたが、そこを指揮する本部長は熊本市内の事情に通じた地元の開業医でした。このような現場をサポートすることがさらに必要だと感じました。

◎原子力災害時の医療体制をどうするか

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 原子力発電所の立地県としては、被ばく医療はかなり綿密に考えておかなければならない問題だと思います。島根原子力発電所がある限り、常に危険はあるわけで、さらに再稼働されるとその危険性は高まってきます。島根原子力発電所2号機は、1、2年のうちに再稼働されるとみていますが、それに対する体制は必ずしも十分ではないと感じています。

 私は何回か原発に見学に行きましたが、原子力災害、とくに福島原子力発電所事故のような複合災害に対しては、あまり認識されていないように思っています。

 被ばく医療については、松江赤十字病院はこれまで労災関係の患者が発生した場合は診るという連絡体制があったけれども、それはあくまで大規模な被ばく事故が起きないという前提での話です。当院は原子力災害拠点病院になりましたが、島根県として被ばく医療に真剣に取り組んでいるかといえば、はたしてどうなのか。特に、東日本大震災における福島の原発事故以降、県では国の方針が定まらないので対応できないという。しかし、それではなにかあった時の対応が遅れてしまいます。

 原発事故の際は、まず自分を守ることが最優先されます。実際に福島の事故で出たオーダーは「まず逃げなさい」というものでした。しかし、島根原発の5km圏内には何万人も暮らしていますので、実際には逃げられない人も多いでしょう。

 再稼働させるのであれば国の指示を待つのではなく、それなりの覚悟をもって県としての対策を決める時期に来たのではないでしょうか。

島根県立中央病院
島根県出雲市姫原4丁目1番地1
TEL:0853-22-5111(代表)http://www.spch.izumo.shimane.jp/


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