"健都"の核となる新病院を
大阪府吹田市は人口約36万人。国勢調査の最新の結果によると、人口増加率5.36%と大阪府内トップとなった。市の中核病院となる吹田市民病院は、2018年度、新病院に生まれ変わる。衣田誠克総長に話を聞いた。
―吹田市民病院の特徴を教えてください。
当院の基本理念は、「市民とともに心ある医療を」です。市民に頼りにされる病院であることが求められています。中でも、最も望まれ重要なのは救急医療で、2次救急病院として24時間、救急患者を受け入れています。現状では、吹田市内の救急患者の約4割を当院で引き受けています。がん治療に対しても、大阪府がん診療連携拠点病院として積極的に取り組んでおります。
吹田市は政策として健康、福祉に力を入れており、市内にある病院に勤務する医師の数は大阪市に次いで2番目となっています。大阪府内には、大阪大医学部、大阪医大、関西医科大、大阪市立大医学部、近畿大医学部などの大学病院があります。また吹田市内には大阪府済生会吹田病院や、済生会千里病院、吹田徳洲会病院、協和会病院、大和病院など多くの病院がありますので、大変な激戦区と言えます。このような環境においても公立病院としての役割をしっかり果たしていかねばなりません。
患者さまがわれわれの病院の良さを認めてくれなければ病院には来ていただけませんし、生き残れないという厳しい状況です。一方で、この厳しさの中で、病院同士は、いい意味で切磋琢磨(せっさたくま)をしていると思います。
―2018年度、新病院を開設する計画が進んでいます。
建物の老朽化が進んだことから新築移転の計画を進めてきましたが、このほど、大阪と京都を結ぶJR京都線のJR岸辺駅前に移転することになりました。吹田市では、行政を中心にプロジェクト「北大阪健康医療都市」、通称"健都"が進められています。当院の移転は、その一環で、JRの操車場跡地約22㌶の土地に、病院、商業施設、企業などの研究施設、高齢者向けマンションなどを建設し、国際級の「医療クラスター(※)」を目指すというものです。病院としては、当院と「国立循環器病研究センター(通称:国循)」の2病院の、同地への移転が決まっています。当院は、今年10月から工事を開始し、2018年5月末に竣工(しゅんこう)予定、開院は同年秋頃になる予定です。
ナショナルセンターである国循と市立病院が隣接して建設される事例は全国的にもめずらしいと聞いています。しかも、駅を降りて2〜3分のところに建設されますので、患者さまは岸辺駅から雨にぬれることなく来院できます。当院と国循の間も、商業施設を通り抜ければ互いに行き来できるようになります。
―具体的な計画は。
新病院は8階建てで431床です。駅近くということもあり、患者数もより増加することになると思います。移転計画が決まってからは、近くなる国循と当院で、業務上の連携ができないかという話し合いを十数回重ねてきました。国循の患者さんが当院に紹介で来院された場合、電子カルテで必要なデータを当院でも見られるような、そういうソフト面での連携も検討したいですね。
ほかにも、両院の看護師が共同利用できるような保育所ができないか、という案も出ており、これからさまざまな連携が考えられそうです。
当院としてはがんや整形外科的疾患、白内障などの眼科疾患など、高齢化に伴う疾患も増えることも予想されています。このため、高齢者がスムーズに在宅に戻れるようにするために、リハビリテーションがより必要になると思われます。
新病院では、一般病床45床を回復期リハ病棟に転換し、約1000平方m規模の広さを持つリハビリテーション室も新たに設ける予定です。
また、救急専用の病床も新たにつくる計画です。現病院は、救急で入院された患者さまの対応を病棟当直医に任せるなど、あまりスムーズではない面もあったのですが、新病院では、救急医がそのまま管理できるようにもなります。
「新品ぴかぴかの病院」ということで、研修医をはじめとして多くの方々にも興味を持ってもらえるのではと、期待もしています。
―開院に向け、みなさん大変になりますね。
各部門ともに準備の会議を開いて検討してくれました。大変な時間をかけて頑張ってくれました。スポーツ選手が高みを目指して練習をしているときは、辛くてもしんどくても多分「これが当たり前や」と考えてやっていると思います。そうして、メダリストになってから「あの時は大変だったな」と振り返り、報われるのだと思います。開院した後、職員みんなで今の大変さを振り返り、笑顔で話すことができればうれしいですね。
仕事にやりがいを感じ、誰かに「ありがとう」と言われれば頑張れるものです。陰日なたなく一生懸命にやっている人に気が付いたら「ご苦労さん」と声かけをし、目配りをすることが、われわれ管理職にできることでしょうね。
- ※医療クラスター
- クラスターとは、「(ブドウなどの)房」「群れ」などの意味で医療関連企業や研究機関、病院などが地理的に集中し、競争や協力をしながら技術革新を産み出す場所。