心技一体の技術と先進の設備であたたかい医療を目指す
「すべては患者さんのために」
ー臨床面の特徴は。
福岡大学病院の理念は「あたたかい医療」です。当科では、その理念のもと患者さんにやさしい高度な先進的医療を提供できるように努力しています。
小児から高齢者に及ぶ幅広い年齢において、また先天奇形から悪性腫瘍に及ぶさまざまな泌尿器疾患に対して、内視鏡を用いた患者さんに負担が少ない低侵襲治療を行っています。
特に、前立腺がんに対しては2003年から腹腔鏡手術を導入して、2005年には高度先進医療の認定を得ており、10年を超える経験を有しています。
昨年8月からは最新モデルの第四世代の手術支援ロボット「ダビンチXi」を用いて、ロボット支援下前立腺全摘除術を開始しました。ダビンチXiは従来のダビンチSiに比べて、ロボットアームの細径化、内視鏡の小型化などコンパクトな構造になっています。
ロボットアーム同士の干渉を低減することが可能となり、欧米人に比べて小柄な日本人の患者さんに対して、よりストレスの少ない手術ができるようになりました。
ー前立腺がんの患者さんは増えていますか。
はい。高齢化、食生活の欧米化、PSA(前立腺特異抗原検査)の普及などに伴い、前立腺がんの患者数は増加しています。
当院ではロボット手術、腹腔鏡手術、放射線治療などで対応しています。ロボット手術は保険収載され、テレビなどでも取り上げられ、一般の人にも徐々に認知されてきました。ロボット手術を希望し、紹介される患者さんは増えています。
ー開腹手術と比べて予後や尿失禁に違いがありますか。
予後に関してはほぼ同等だと言われています。術直後に程度の差はありますが、必ず尿失禁が起こります。次第に回復していくのですが、ロボット手術だと回復が早いですね。
ー腹腔鏡手術とロボット手術。難易度に違いはありますか。
前立腺がんに対する腹腔鏡手術は難易度が高く、当医局でも私を含めて2人しか執刀の経験がありません。それに比べ、ロボット手術は比較的容易にマスターすることが可能ではないでしょうか。
私は腹腔鏡手術の経験がありましたので、ロボット手術に慣れるのにそれほど時間はかからなかった気がします。腹腔鏡手術とロボット手術の大きな違いの一つは、腹腔鏡手術では鉗子の動きが制限されていますが、ロボット手術では鉗子が人間の手首のように自由自在に動くことです。最初はその動きに少し戸惑いました。しかし、その鉗子の動きに慣れるとロボット手術のすばらしさを実感できました。
医局のホームページにロボット手術の動画を載せています。事前にその動画を見てこられる患者さんもおられます。
ー臨床・研究・教育のバランスはどう取っていますか。
基礎研究では、尿路性器感染症の分野において、分子生物学的手法を用いた細菌の薬剤耐性獲得メカニズムの解明や耐性菌の拡散状況に関する分子疫学などをテーマとして研究を継続しています。
当医局は開業医のお子さんが多く、将来、開業を希望される人の割合が国立大学の医局と比べると高いと思います。そのため基礎研究や臨床研究に打ち込んでいても、家庭の事情などで急に研究を継続することが困難になり、研究が途中で途切れることが時にあります。
最近、基礎研究に興味を持つ、若い医師が少ない気がします。基礎研究で培った知識と経験は、必ず臨床に生かせると思うので、基礎研究に興味を持ってくれる人が増えることを願っています。
ー泌尿器科の魅力とは何でしょう。
私自身は専門性が高い外科系の科を、と考え、泌尿器科を選びました。泌尿器科は幅広い領域の疾患の診断と治療をする科です。
実臨床においては、手術をする外科であると同時に内科的な疾患管理も行っています。
ダビンチなど最先端のテクノロジーを駆使して手術をするのも魅力ですね。現時点でダビンチでのロボット手術が保険で認められているのは、前立腺全摘除術と小径腎臓がんに対する腎部分切除術のみです。国内のロボット手術の多くは泌尿
ー今後の展望を聞かせてください。
私は3年後に定年を迎えます。残りの期間、自分に何ができるだろうかを考えています。昨年、福岡大学病院に最新のダビンチが導入されました。ロボット手術をマスターした一人でも多くの腹腔鏡手術認定医を育てるため、そして、患者さんをコンスタントに紹介していただけるように、尽力しなければならないと思っています。