地方だからこそできること
■ドクターヘリの基地病院に
当院は山陰で最多の病床697床を備え、山陰地域の拠点病院の役割を担っています。ヘリポートを2014年に設置し、救急医療の最後の砦(とりで)としての機能も担っていかなければなりません。
2018年には当院が鳥取県のドクターヘリの基地病院になります。基地病院になるということは、さらにフライトドクターが必要になるということです。現在、4人のフライトドクターがいますが、これを7人にまで増員していかなければなりません。
今後は、より一層の病病連携、病診連携など病院間の役割分担が求められます。患者さんを地域の病院から当院へ、さらに当院から関西、広島、岡山などに向けて送るハブ機能を持つ病院になることも可能です。
■質の高い医療を提供
低侵襲外科センターはロボット手術を核とした横断的組織で、外科系診療科の壁を越えて、低侵襲外科手術の技術向上と発展に寄与しています。
当院では2010年に手術支援ロボット「ダビンチ」を導入しました。着実に症例を重ね、全国の国立大学で二番目に早く手術症例数が500例に達しました。
保険適用される泌尿器科だけでなく、外科系診療科全体でダビンチを共有することで、前立腺がん、腎臓がん、肺がんなどの患者さんを全国から受け入れています。
昨年は、山陰で初めて大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル的大動脈弁植え込み術(TAVI)を実施しました。
さらに2014年の褥瘡発生率が全国の大学病院中、最も低いという結果も出すことが出来ました。当院では褥瘡ケアなどをする皮膚・排泄ケア認定看護師が入院患者さんに対して適切なケアをしています。また多職種からなる褥瘡対策チームを設置し、NST(栄養サポートチーム)など、ほかの医療チームとも連携しながら、組織横断的に治療と予防ケアに取り組んでいます。その成果が表れたと思っています。
私たちは急性期病院ですが、その後の慢性期、在宅への移行がスムーズでなければなりません。
当院では訪問看護師の育成支援事業や重症心身障害児の在宅医療推進の取り組みにも力を入れています。
■鳥取から世界へ
2012年に設置した次世代高度医療推進センターでは医薬品・医療機器の開発をしています。学内・院内の研究者と「再生医療部門」「医療機器部門」「ゲノム医療部門」「産業化臨床研究部門」「臨床研究支援部門」の5部門が連携して研究開発をし、鳥取大学発の医薬品・医療機器を世界中の患者さんへ提供していけたらと考えています。
■山陰のメディカルセンターとして
私たちは県を越えた山陰のメディカルセンターとして機能していきたいと考えてます。たくさんの患者さんに来ていただける体制を構築し、救急や最先端医療、研究などにも、より一層力を入れていくつもりです。
地方であっても大都市の病院と同等かそれ以上の体制を整えていかなければなりません。「地方だからできない」ではなく、「地方だからこそできる」ということを示し続けていきたいですね。
■ワークライフバランス向上のために
当院のワークライフバランス支援センターでは、優秀な人材を確保し質の高い医療サービスを提供、働きやすさトップクラスを実現するための活動をしています。
昨年の9月からは「小1の壁突破プロジェクト」を立ち上げました。子どもさんが小学校にあがる際に多くの働く親が直面することとなる「小1の壁」。その解決のために院内保育所で夜間のお泊まり保育を1月より実施しています。全国の国立大学病院で初めての取り組みです。
当院のワークライフバランス支援が注目され、テレビ東京の「ガイアの夜明け」でも取り上げられました。
昨年、看護師を募集したところ、定員70人に対して100人の応募がありました。当院の取り組みが認められた結果ではないでしょうか。離職率の低さも全国の大学病院でトップクラスです。
人を集めるだけでなく、辞める人を減らすことも重要で、この面においても全国をリードしていると感じています。
■診療科の垣根を越えて
診療科の垣根をなくした横断的な診療を心がけています。科によって人員の充足度は異なりますが、当院では科を超えた診療支援システムがあるのです。
人員が不足する科に人員に余裕のある科の先生がサポートに入ります。各診療科単位で人員不足を解決するのではなく、病院機能を高めるために、病院全体で補い合わなければなりません。
そのためには自分の専門しか診られないのではなく、幅広い診療ができる総合診療マインドが求められます。
■人口減社会の到来
鳥取県の人口はおよそ57万人(7月1日現在)。それが2035年には45万人に減少すると推計されています。人口減の時代を迎えるなかで当院がどのような医療を展開していくか。地域を越えて医療を提供する。育成した人材が都市部に行き、都市部の患者さんに当院に来ていただくというような努力をしなければなりません。
人口減少社会のなかでは医療連携、医療再編がますます重要になってきます。当院が生き残っていくために今の段階から人材確保、人材育成に力を入れていかなければなりません。
■基礎研究の重要性
医師は一生のうちの何年かは基礎研究に打ち込むべきだと思います。総合診療も大事ですし、専門診療も大事ですが、もう一つ大事なのは基礎研究ではないでしょうか。研究をやると医療の本質を理解できるし、病気に対する取り組みが変わってくると思うのです。
研究マインドを持ちつつ、それを診療へとつなげていくような医師を育てるのが大学病院の使命だと感じています。