IVRと陽子線で低侵襲がん治療
―岡山大学の放射線科は中四国地方で一番歴史があるそうですね。
この教室は、1946(昭和21)年に初代教授の武田俊光先生が開講されました。当時は、放射線医学という学問自体が新しかったころでした。
現在は、診断・治療・IVR(画像誘導治療)において、放射線科医の総合的な人材育成に努めています。
兵庫、岡山、広島、山口、愛媛、香川の関連病院に、約150人の放射線科医を派遣している状況を見ても、中国・四国地区の放射線医学の中心的な役割を担っていると自負しています。
とりわけ、IVRに関しては、全国的に見てもトップレベルで、国立大学の附属病院としては日本でもっとも症例数が多いことが特徴です。IVRに興味のある若い医師たちが全国から集まって来ていて、非常に活気がありますよ。
―IVRについて教えてください。
IVRは、さまざまな画像を見ながら術者がカテーテルや針を用いて病変に到達して治療や検査をするものです。私たちの教室で多いIVRは、肝臓、腎臓、肺などのがんに対するラジオ波治療や凍結治療のほか、生検(生体組織診断)や膿瘍(のうよう)に対するドレナージ、神経ブロックや術前マーカー留置などです。いずれも、針の刺入のみでできる低侵襲な治療法です。
従来のIVRのがん治療は、血管に詰め物をしてがん細胞への栄養を断つ「塞栓術」や、血管に直接抗がん剤を注入する「動注治療」などが主体でした。しかし最近では、CTなどでガイドをしながら病変に針を刺して、患部を焼き切る「ラジオ波治療」、病変を凍結させる「凍結治療」などが増えてきました。
当科では、腎臓がんの経皮的凍結治療、肺がんのCTガイド下ラジオ波治療に取り組んでいて、いずれも国内最多の実績を誇っています。
この十数年、他施設では件数があまり多くないIVRによる生検に力を入れてきたことがベースとなり、治療における技術も向上したのだと思います。
特に力を入れている腎臓がんの経皮的凍結治療は、国内で年間約300実施される症例のうち、約60例を実施しています。凍結治療は腎臓がんに効果が出やすく、2014年に保険適用になったことで、この治療法を希望される患者さんが増えました。しかし、装置と技術の両方を兼ね備えた病院が極めて少ないのが現状です。
―1991年の赴任当時はご苦労もあったそうですね。
今では、IVRがさかんになりましたが、赴任当初、当科が直接担当するIVRは1件もありませんでした。すべて外科や内科の先生方がされていて、放射線科医の仕事は、どちらかというと外科・内科の「お手伝い」のような印象を受けました。
「岡山大学の放射線科でIVRを始めたい」という、平木祥夫前教授からの熱い手紙に心を打たれて、アメリカ留学から戻って来たものの、本来の目的だったはずの仕事がなかったんです。
それからは、各科のカンファレンスに積極的に参加するようにしました。各科の先生方と話をしていくうちに、放射線科にIVRを紹介してくれるようになった。約3年かかりました。
「石の上にも三年」と言いますが、あきらめないで一生懸命やれば必ず花が咲く。そのことを実感しました。もし失敗したとしても、行動せずに失敗するより、挑戦して失敗した方が次につながる。もがいて、あがいてやることが大事なのです。
―若い医師にメッセージをお願いします。
医者にもっとも必要とされるのは技術力、次に人間力です。すべての医療が医師だけではできないこの時代において、レベルの高いチーム医療の実践が求められています。チーム医療の現場で何か問題が起きたとき、すべての責任を取るのは医師である、ということ。それを忘れてはいけません。たとえ卒業したばかりで経験の浅い研修医であっても同様です。
それから、医師は「職人」とよく言われますが、職人であると同時に「科学者」でもあります。常に新しいことに興味を持って受け入れることが大事です。いつまでも自分の技術や方法に固執してはいけない。職人と科学者、その二つの精神を医師は死ぬまで持ち続けるべきだと思います。
―放射線医学の今後について。
現在、医工連携事業の一環で、手術支援ロボット「ダビンチ」と同じように遠隔操作でIVRができるロボットの開発を進めています。これは教室の平木隆夫准教授が工学部と一緒に商品化に向けて開発中のものです。AMED(日本医療研究開発機構)から約1億円の資金を獲得しました。
ロボット医療がすべて良いというわけではありませんが、術者の被ばく量を減らしたり、より正確に針を刺したり、進めたりできるなど、IVRの可能性を広げることができるものです。
診断については、関連病院も多いこともあり、CT、MRIともに検査数が増えています。症例数が豊富にありますので、たくさん経験を積んで、さらに質の高い放射線診断医が育ってくれることを期待しています。
放射線治療に関しては、陽子線・重粒子線に注目しています。放射線の特性から言うと、X線より陽子線・重粒子線の方がはるかに治療に適している。コスト的な問題はありますが、将来的にはこれらの治療へ移行していくのではないかと思います。
今年1月、岡山大学病院に陽子線治療外来を開設し、同4月には、岡山大学・津山中央病院が共同運用するがん陽子線治療センター(岡山県津山市)も診療を開始しました。まだ始まったばかりで運営上の課題もありますが、この最先端医療を、ぜひ若い先生たちに勉強してもらいたいですね。
現在、中国・四国地区で陽子線治療を受けられるのは、このがん陽子線治療センターだけです。岡山大学病院としては、関連施設との連携を生かして、これからはさらに、低侵襲のがん医療の拠点として地域に貢献していきたいと思います。