神戸大学大学院 医学研究科 外科系講座 耳鼻咽喉科頭頸部外科学分野 丹生健一 教授

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複数の診療科が連携するチーム医療でがんの根治とQOLの両立を目指す

灘高校卒業 1986 東京大学医学部医学科卒業 同附属病院耳鼻咽喉科医員(研修医) 1990 癌研究会附属病院頭頸科有給嘱託研修医 1993東京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科助手 1996 ジェファーソン医科大学耳鼻咽喉科・癌研究所客員研究員 2000 東京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科・聴覚音声外科講師 2001 神戸大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野教授 2004 同附属病院卒後臨床研修センター長 2005 同副病院長 2008 同大学院医学研究科耳鼻咽喉科頭頸部外科学分野教授 2011 同副研究科長 2016 同副研究科長

 「平等医療、平等介護」の理念の下、52年に渡って地域医療を続けてきた医療法人伯鳳会。M&A(企業の合併買収)によってグループを拡大し、現在は、8つの病院を中心として、診療所、介護老人保健施設、医療専門学校など、60を超える事業所を運営している。古城資久理事長に話を聞いた。

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「子どもの頃の自分が、がっかりした顔でこっちをみてるゆめ」とつぶやくアランジアロンゾのキャラクターの胸には、〈はなぐみ・けんいち〉の名札が。灘高校では精神科医の和田秀樹さんやコラムニストの勝谷誠彦さんと同級生。東京大学理科Ⅲ類の同期90人のうち、21人が灘高校出身だったという

◎入れ歯による刺激も

 頭頸部がんは首から上で頭より下のさまざまな部位にできるがんの総称です。大きく分けると、口のがん、咽頭のがん、喉頭のがん、鼻のがんなどですね。そのほかに耳下腺や甲状腺にがんができることがあります。

 頭頸部がんの主な原因は、咽頭がんだと飲酒や喫煙が最も大きなリスクファクターです。口のがんでは、合わない入れ歯による刺激なども原因になります。最近では子宮頸がんの原因になるHPV(ヒト乳頭腫ウイルス)

による中咽頭がんが増えています。

 唾液腺や甲状腺のがんにはとくにリスクファクターがありませんが、ごくまれに、甲状腺髄様がんの中には遺伝的なものがあることがわかっています。

 自覚症状としては、たとえば声がかれてくるとか、呼吸が苦しい、飲み込みにくい、むせやすいというものがサインになりますね。のどの痛みなどが長く続く場合にもぜひ受診してほしいです。

 頸部の腫れも重要なサインで、特に、痛みのない腫れのほうが深刻な場合があります。痛みがないと安心される方も多いのですが、リンパ節転移では痛みがあることのほうが少ないのです。

◎声を取り戻す

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喉頭がんや食道がんなどで喉頭を摘出すると声帯が失われるが、気管と食道をシャント(連絡路)でつなぎボイスプロテーゼ(人工喉頭)を留置することで、シャント発声が可能になる

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気管と食道の間にあけたシャント(連絡路)にボイスプロテーゼ(人工喉頭)を留置し、指で喉元の永久気管孔をふさいで肺からの空気をボイスプロテーゼを通して食道に送り、食道の粘膜を振動させて音(声)を出す(写真はプロヴォックス)
画像提供:株式会社アトスメディカルジャパン

 手術と放射線治療、抗がん剤治療がスタンダードな治療方法です。患部の場所が首から上ですので、食べる、しゃべる、呼吸するなどさまざまな機能がありますし、外見上もできるだけ変化させたくありませんので、患者さんにとって最良の治療を模索します。がんの根治だけでなく術後の機能維持と外見を考慮に入れて、QOLを最大化するための治療を探すのが頭頸部がん治療の特徴ともいえるでしょう。

 2014年に、音楽プロデューサーのつんく♂さんが喉頭がんで声帯を摘出したことが話題になりましたが、声を失うことで社会生活が大きく変わる可能性があるのが頭頸部がんの怖さですね。

 最近では、可能な限り声を残す、臓器を温存する、機能を温存するための試みが増えました。放射線治療と抗がん剤を組み合わせて、手術も大きく切るのではなく経口的に低侵襲な手術が多くなっています。

 残念ながら声を失う患者さんもいますが、たとえばプロヴォックスなどの器具を気管と食道の間に埋め込むことでかなり通常の音声に近い声を出せるようになりました。与謝野馨さん(元財務大臣)は咽頭がんで咽頭を部分切除し、喉頭を失っています。しかし、政治家を引退してからは気管食道シャント発声法を使うことで、非常に聞き取りやすい「声」を取り戻しています。

 つんく♂さんが練習しているのは声帯の代わりに食道の粘膜を振動させる食道発声という方法です。いわゆるリハビリで獲得する声で、食道に空気を飲み込んでそれをゲップで出して喉の粘膜を震わせて音(声)を出すという要領ですね。若くて体力のある方に有効な発声法です。

◎低侵襲手術の効用

 放射線治療や抗がん剤治療は切らずに治す優しい治療だと思われていますが、実は頭頸部がんに関しては、放射線や抗がん剤で治療した方の20%が口から食べることができなくなっているという臨床研究のデータがあります。

 のどが狭くなったとか、呼吸ができなくなって気管切開したという報告もあります。たしかにがんは治った、あるいは臓器を温存できたかもしれませんが、長期的にみると機能を温存できていないという事実は重く受け止めるべきです。

 もう一つは、最近増加してきた重複がんの問題です。たとえば、咽頭がんの2〜3割の方が食道がんを合併します。1回目の治療で放射線と手術を使ってしまうと、2回目のがんで切れるカードが少なくなってしまうでしょう。最近は、進行がんだけに放射線治療や抗がん剤を使って、早期がんであればなるべく低侵襲手術で治すというのが主流になっています。

◎三つの視点

 頭頸部がんは根治とQOLの両立が求められるのが特徴ですので、他の科との連携が重要です。手術でいえば、切除したあとの再建外科が欠かすことができません。たとえば歯科口腔外科と合同でがんの切除をして、その後に形成外科が再建する、などはごく普通の連携です。

 ほかにも、放射線科・消化器内科と合同の頭頸部腫瘍カンファレンスでは、毎週患者さんの治療方針を検討しています。従来はすべてを自分たちでやっていましたが、いまは主治医としての立場、治療をコーディネートする立場、外科医としての立場の三つの視点が求められるようになりました。

 がん治療においては、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの選択肢も増えましたね。2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなると言われる時代です。もっと言うと、おそらく4人に1人の方は複数のがんになります。

 今後は標準治療はあくまでもガイドラインとして、一人ひとりに合った個別化治療が進みます。医師がコーディネーターの役割を果たす場はますます増えるでしょう。複数の治療法の情報提供であったり、あるいは専門家として自信をもって「あたにはこの治療が良い」とお勧めできるように、医師は常に学び続けなければなりません。

神戸大学医学部附属病院
神戸市中央区楠町7丁目5 番2 号
TEL:078-382-5111(代表)
http://www.hosp.kobe-u.ac.jp/

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