産学協同で環境アレルギー対策
―7月に「日本職業・環境アレルギー学会総会・学術大会」を開催されました。
この学会は、「職業アレルギー研究会」として1970(昭和45)年に発足し、今年で47回目になります。
職業アレルギーとは、職業に関係した特定の物質によって起こる喘息(ぜんそく)や鼻炎などの疾患です。そば職人に起こる「そば喘息」、こんにゃくの製粉従事者に起こる「こんにゃく喘息」などがありますが、患者数はずいぶん減りました。職場環境に関する規制が厳しくなったため、改善されたのだと思います。
しかし、排ガス・黄砂などによる大気汚染や、化学物質・ダニなどによる室内環境汚染が原因で発症するアレルギー疾患には、まだ十分な対応ができていません。
そこで、2002年に、「日本職業・環境アレルギー学会」と名称を変更しました。
この先、環境アレルギーの予防・根治に向けた取り組みの強化は、医療関係者だけでやっていても広がりがありません。
今回の学会では、ダスキン(清掃)、デンソー(空気清浄機)、帝人フロンティア(繊維)といった民間企業の担当者を招き、パネルディスカッションを試みました。
たとえば、プロと一般の人の清掃では、部屋に残るダニの量にどれだけ差が出るのか。データを元にダスキンの担当者に発表してもらったのです。データの作成には、小児喘息の患者さん30人にご協力いただきました。家の掃除にプロが介入するグループとそうでないグループに分けて、3カ月間の実験を実施。結果は明らかで、プロが介入したグループには喘息の発作が出ませんでした。
寝具に潜むダニの除去は、掃除機では限界があります。これについては、帝人フロンティアが、動画を使って発表しました。そもそも、寝具に侵入させなければダニは増えませんから、「防ダニシーツ」などを使用することもアレルギーの予防につながります。
PM2.5や花粉については、外気の流れを遮断するエアカーテンや、車載用プラズマクラスターイオン発生機などの効果に関して、デンソー担当者からも発表がありました。
さらに、本学の岩前篤・建築学部長に、「建築学の立場からみた健康な住環境」をテーマに講演してもらいました。建材や室温などが体に及ぼす影響、その改善方法など、医学会では聞けないような話も多く、非常に興味深い内容でした。
また、予防医学としての環境アレルギーに対する産学共同の取り組みをテーマに市民公開講座も開いたところ、200人が参加されました。大変好評でしたし、今後も続けていきたいですね。
環境アレルギーの増加は、住環境の変化に加えて、食生活の欧米化も大きな要因だと思います。
核家族化、共働きの家庭の増加などにより、手作りの食事よりも、加工食品が食卓に並ぶことの方が多くなりました。それらに含まれる食品添加物が、アレルゲンとなっているケースも多いのです。ライフスタイルに関わる問題なので、改善することは容易ではありませんが、食育を徹底するなど改善に向けた取り組みが必要です。
当学会は、規模が小さく、会員も高齢化しています。組織の新陳代謝を図る意味もあり、今後は常任理事会をつくって、定年制を敷くことにしました。若い人に興味をもってもらえる学会にしていきたいですね。
―今後の展望は。
アレルギー疾患に対する薬はいろいろ出ていますが高額ですし、完全治癒に至るものはまだない。完全治癒を目指すには、免疫力を高めることが重要です。「減感作療法(舌下免疫療法)」などがありますが、毎日継続することは難しい現状です。
現在、当科と本学の農学部、大阪大学医学部と共同で「花粉症緩和米」を開発中です。これは、花粉アレルギーを誘発するエピトープ(抗体が認識する抗原)の一部を配合して育てた米です。
通常の「減感作療法」の場合、薬剤の中に抗原が全量入っているため、アナフィラキシー(急性の重度なⅠ型アレルギー反応)を引き起こす場合もあります。一方、「花粉症緩和米」には、一部しか入っていないため、その心配はありませんし、米なので毎日の食事で無理なく摂取することができます。
米そのものはできたので、これから臨床治験に入るところです。技術面、コスト面でクリアすべき課題はありますが、完成すれば、医師が薬ではなく米を処方することになる。とても夢のある話です。
―若い医療人にメッセージをお願いします。
この先10年で、65歳以上の高齢者は約3500万人になるといわれています。高度先進医療をうたっている急性期病院は今ほど必要ではなくなる。代わりに、慢性期病院、介護老人保健施設が増えていくでしょう。
そうなると、反対に医師の需要は減っていきます。これからは、医師も生き残りをかけて、さらに必死で勉強しないといけない。学生たちには常に厳しく言っています。
医師はその気になればどの領域にも進むことができる。だから自分に何が向いているか、何に興味を持つかわからず、悩むことも多いものです。
私はもともとがん治療に興味があり、外科医を志していましたが、結果的に呼吸器・アレルギー内科医になりました。京都大学の山中伸弥教授も、最初は整形外科医でしたが、今ではiPS細胞研究の第一人者です。目の前にあるものは何でもやってみること、もっと世界に目を向けて、一流のものに触れることが大事です。人生は運とタイミングでどう変わるかわからないのですから。