患者さんやご家族、地域や社会に必要とされ頼られる病院へ
◎ストレスケアセンター
私の父親である先代理事長が「自分の家族に入ってもらいたいと思えるような施設を」という理念に基づいてつくったのが当院です。
1983年に精神科・神経科・内科を標榜して103床でスタートし、岐阜県で最初のデイケアを開設したり、カフェテリア式の食堂を始めるなど、患者さんのアメニティーを重視した先進的な取り組みを進めてきました。
その一環として、2005年にストレスケアセンターを建てました。うつ病など気分障害の方が入院できる、個室を中心にした病棟です。
症状が軽めの方にも休息入院できる環境を提供したいというコンセプトで、光や風を取り入れた「癒やし」の空間をつくり、当時はほとんどなかった全室個室を実現しました。ストレスケアといってもゆっくり休む場所というだけではなく、建物は精神科救急の受け入れが可能な構造になっています。この病棟が、養南病院のいわばフラッグシップのような存在です。
176床という小さな病院ですので、たとえば認知症や身体合併症治療にまですそ野を広げることは難しい。それならば得意な分野をつくろうということで、①急性期・救急、②ストレスケア、③リハビリテーションの三つを病院運営の柱としています。
その3本柱を融合させて、救急を積極的に受け入れる―社会復帰を進めるためにリハビリに力を入れる―病床を空けて急性期治療に力を入れる、という流れを作ることができました。
救急と時間外診療では年間400人程度を受け入れています。社会医療法人に認定される条件でもありますので、できる限り24時間、救急は断りません。
◎復職を助け、支える
新型うつ病などの気分障害が増えていますので、職場復帰(リワーク)プログラムに力を入れています。都会だと事務職向けのプログラムが多いのでしょうが、このあたりは現業系といわれるような工場で働く方が多いので、当院のプログラムでは体力作りやスポーツも重視しています。
プログラムは「職場に、戻ろう、アシスト、プログラム」の頭文字をとってSMAPと呼んでいます。新型うつなどは服薬だけでは改善しませんので、集団に入ることによって復職への第一歩を踏み出していただこうと、多くの疾患を対象にしました。うつ病のほかに躁うつ病やアルコール依存の既往の方、発達障害を伴う方なども対象です。対象をあまり厳密に絞ってしまうと都会のように数が集まらなくて集団でやる意味がなくなりますので、意図的に門戸を広げています。
年齢層は30代から40代が中心で7〜8割が男性です。フォローアップセミナーでは、プログラムを経て復職した方が戻ってきて悩みを打ち明けたりします。病院が患者さんから頼りにされ、あるいは患者さんが困ったときに、灯台のように航路を照らしてあげることができたらいいですね。
◎まず、知ってもらう
広報活動には力を入れており、広報紙を800部印刷して医療関係のさまざまな施設に送っています。
精神科の単科病院特有の悩みとして、差別や偏見を避けて通れないということがあります。まだまだ精神科病院と地域社会の間には高い壁があります。
その壁をなくすのも病院の使命であり、そのためには広報宣伝が非常に大事になります。まずは病院のことを知ってもらう必要があるわけで、「なんか楽しそうにやっているな」と思っていただくだけでもかなり違います。だから、まず手にとって読んでもらえることを目指して紙面はかなりきわどいところまで踏み込んでいます。
「みかルん」というゆるキャラも夏祭りなどに登場させて、特に子どもに向けてアピールしています。とにかく怖いところではないことをわかっていただきたい。私自身が悪ノリしすぎて職員から叱られることもありますが(笑)。
◎次のステージへ
2011年に支援アパート「ネクステージ」を作りました。背景には長期入院患者さんの受け皿がほとんどないという社会的事情があります。 患者さんが高齢になると、ご両親が受け入れることはできません。しかし、いきなり民間のアパートに入居してもすぐには生活できないんですね。最初はリハビリしながらグループホームで生活訓練をして、次にネクステージで2〜3年1人で生活してみて、そのあと民間のアパートに入居して作業所などに通うといった手順が必要だと思います。
囲い込みのように言われることもありますが、退院しても、社会には受け皿が不足しています。次のステージ(next stage)に出ていくための準備の場として必要なのだということをわかっていただきたいですね。