『時の響きて』という詩がある。作者の鶴ケ岡裕一さんは、鹿児島県鹿屋市にある国立ハンセン病療養所・星塚敬愛園を何度も訪れて、入所者から聞き取った思いを文字にした。曲がつけられて歌にもなった詩を、抜粋して引用する。
親類・身内に差別迫害がおよぶのを恐れ、偽名で過ごさねばならなかったこの生涯/死ぬときも偽名なのです。仲間が死んで、それを仲間の手によって火葬され、遺骨になっても故郷へは帰れません/我らは業病に非ず。あなたと同じ「心」を持つ人なのです。
遺骨になっても故郷に帰れない。それはいまも同じで、ほとんどの親族は遺骨の受け取りを拒否するという。
7月号に掲載した駿河療養所では入所者が妊娠した際は中絶され、胎児は標本にされて長い間放置されていた歴史を知った。「人」と思わなければ、人間はどんな残酷なことでもできる。
親族が遺骨の受け取りを拒否する理由のひとつに、世間体という社会のまなざしの存在がある。まなざしを変えるには実体を正しく伝え、根拠のない恐怖心と偏見を払拭するほかない。
全国の療養所では、ハンセン病の歴史や入所者の現状を知ってもらうために、見学を受け入れている(予約が必要)。夏休みなどを利用して、ぜひ足を運んでいただきたい。