九州合同法律事務所 弁護士 小林 洋二

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医療と法律問題36

 前回は、個人情報の利用制限の原則のうち、「第三者提供の制限」について述べましたが、今回は「目的外利用の制限」についてみてみましょう。

 個人情報保護法はその一五条一項で、個人事業取扱事業者に対し、その利用目的をできる限り特定すべきことを義務付けた上、一六条一項により、あらかじめ特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱うことを禁じています。また、一八条一項により、この利用目的は、あらかじめそれを公表している場合を除き、取得後すみやかに本人に通知あるいは公表することになっています。

 医療機関が患者の情報を取得する目的は、患者に対して医療を提供するためであり、それに付随する保険事務や検査の外部委託などをあらかじめ公表していれば、この規定が問題になることはほとんどありません。例外的に、「法令に基づく場合」(警察の捜査に協力を求められた場合など)、あるいは「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」(意識不明で身元が分からない患者について関係機関に照会を行うような場合)などに目的外利用が許されることは、「第三者提供の制限」の場合と同様です。

 医療機関による患者情報の「目的外利用」が問題になった事件に、福岡地方裁判所久留米支部平成26年8月8日判決があります。これは、A病院で働いていた看護師が、A病院での診療を経てB病院に紹介され、B病院での検査でHIV感染が判明、B病院は本人の承諾を得ることなくA病院にその検査結果を伝え、A病院の管理部門が当該看護師に勤務を休むよう指示したという事件です。B病院によるA病院への情報提供という局面では、本人の承諾のない第三者提供が問題になりますが、B病院は一審段階で和解に応じ、A病院との間の裁判が残りました。

 この事件について裁判所は、要旨、以下のように判示しました。

 B病院からA病院への情報伝達は、紹介先から紹介元への診療目的の情報提供であり、A病院において当該看護師の診療にあたる医療関係者の間で共有することは、診療情報の目的内利用である。しかしそれを超えて、当該看護師の就労制限に関する方針を協議するために管理部門の看護部長や事務長にHIV感染情報を伝えたことは、法一六条一項の禁ずる目的外利用に該当し、違法である。他人に知られたくない情報を本人の同意を得ないまま法に違反して取り扱った場合には、特段の事情がない限り、プライバシー侵害の不法行為が成立する。

 裁判所はまた、HIV感染を理由として勤務を休むよう指示することは、合理的な理由なく就労を妨げるものであり、不法行為であるとも判示しています。

 この判決は、福岡高裁で損害額が減額されたものの基本的な法的判断は維持され、その判決が最高裁で確定しています。

 私の契約している判例検索エンジンで、「個人情報」「目的外利用」というキーワードを入れてヒットするのはこの事件だけです。医療現場におけるプライバシー保護のあり方、およびHIV感染者の人権という二つの論点において、重要な裁判例だと思われます。

■九州合同法律事務所
福岡市東区馬出1の10の2メディカルセンタービル九大病院前6階
TEL:092-641-2007

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