海辺の杜ホスピタル 岡田 和史 院長

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ノーマライズされた精神科医療を

1988 和歌山県立医科大学卒業。その後、高知医大(現高知大学医学部)神経科精神科に入局。土佐病院、東京武蔵野病院、三重県立小児心療センターあすなろ学園、高知医大付属病院、朝倉病院に勤務。2002 ~金城学院大学人間科学部心理学科(現 多元心理学科)の教員として臨床心理士や精神保健福祉士の養成に10 年間携わる。2012 海辺の杜ホスピタル副院長 2016 同院長

 海辺の杜ホスピタルは1929(昭和4)年開業と、高知県で最も歴史のある精神科病院。4月に院長に就任した岡田和史氏に今後の抱負などを聞いた。

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■在院日数の短縮

 開院以来、あらゆる精神疾患のユーザー(※海辺の杜ホスピタルでは医療サービスを受ける方をユーザーと呼ぶ)を受け入れるスタンスで運営してきました。

 この運営スタイルには一長一短があります。長所は、入院できないユーザーが出ないこと。短所は、多様な疾患のユーザーが病棟に混在するため、スタッフの業務が複雑になる点です。


 清水博名誉院長は16年前に院長に就任されると同時に、退院促進に力を入れてきました。

 2011年と昨年に2つの療養病棟、計120床を削減しました。平均在院日数は300日弱と1990年代初頭の約500日より大幅に短縮しています。退院促進に伴う在院日数の短縮が、療養病床削減に果たした役割は大きかったと思います。

 しかし、長期入院をされている重症ユーザーが多くいらっしゃるのも事実です。そういう方々は一生懸命治療をしても退院が困難な状態ですが、私たちは決して諦めず治療に取り組み、地域での生活を実現する努力を怠りません。

 そのためには退院してからのフォローも重要です。将来的にはACT(包括型地域生活支援プログラム)で重症の方の地域生活を支えていくことが目標ですね。

■精神科に対するイメージの変化

 できるだけ少ない在院日数で、しっかりと治療をして早期退院を促す。そうすることで、精神科の入院治療が決して特殊なものではなく、体の病気で入院するのと同様であると感じられる入院治療を成立させたいと思っています。

 精神科医療を特殊化せずにノーマライズ(障害のある人も一般の人と分け隔てなく社会生活ができることが本来の望ましい社会であるという考え方)することが必要です。私は職員に「自分の家族、友人、知人に勧められる治療ができる病院にしよう」と言っています。

 この病院に赴任する前は名古屋の金城学院大学で10年間教員として臨床心理士、PSWの養成をしていました。2012年に当院に赴任したのですが、教員をしていた10年間で世間の精神科に対するイメージが激変していて驚きました。

 特に変化が大きいのは児童思春期領域です。1990年代は、例えば学校から統合失調症が疑われる生徒の相談を受けても、それをどう親御さんに伝え、いかに受診につなげていくのか、とても気を使いました。

 以前は「子どもさんを精神科へ」と受診を勧めると拒否反応を示す親御さんが実に多かったものですが、現在は違います。本人も親御さんも精神科の受診をためらわないようになりました。

 その要因としては、うつや発達障害に対する世間の理解が深まったことがあげられます。疾患への理解が深まったことで、気軽に受診できる環境になったのでしょう

■身体合併症への対応

 精神科の入院で問題になるのは身体合併症です。特に高齢者の場合、体にさまざまな問題が生じてきます。そこに認知症がからむと余計に治療が難航する。入院したものの身体的な問題が生じ、一般病院への転院を余儀なくされる例が実に多いのです。

 また、身体的な治療で投与された薬剤により、認知症状態を呈する方もあります。薬剤性の一時的な認知症もあるので、身体科の病院とも密な連携を図り、こういったことがないようにしていきたいですね。

■精神科の奥深さ

 高校時代に高知県出身の精神科医、野田正彰先生の「狂気の起源をもとめて―パプア・ニューギニア紀行」という文化精神医学について書かれた本を読みました。

 パプア・ニューギニアで西洋文明と密に接した海辺の地域と、そうではない山間部地域とでの精神疾患症状の比較をした本でした。それが大変興味深く、「精神科は面白そう」と興味を持ち、医学部に進んだのです。

 1993年に多文化間精神医学会が設立されました。この学会は海外赴任や留学、移住などにより他文化に接したときに起こる精神疾患を研究する学会です。精神疾患は生物学的な要因のほかに文化的な問題も内包しているのです。

 また、発達障害などで若い時期から問題を抱えた人に医療が早期に介入して、その後の人生がより良いものになるようにもしなければなりません。

 昔は、発達障害の一種の自閉症スペクトラム(ASD)の人でも、症状が軽度であれば社会に適応できたのではないかと思うのです。しかし、産業構造の変化に伴い、第一次、二次産業は衰退、第三次産業は増加しました。小売業、サービス業などは人とのコミュニケーションを避けて通れません。そうすると軽度のASDの人は、適応が困難になってしまうのです。

 近年はコミュニケーション能力の重要性がしきりに言われています。しかし、それは今の社会状況だからこそ必要なだけです。社会の変化、産業構造の変化に伴い、人海辺の杜ホスピタルは1929(昭和4)年開業と、高知県で最も歴史のある精神科病院。4月に院長に就任した岡田和史氏に今後の抱負などを聞いた。ノーマライズされた精神科医療を海辺の杜ホスピタル岡田 和史 院長間に求められる能力は変わってくるのです。文化的、社会的状況によって何が問題となるかが変わってくるところも、精神科の奥深さですね。

■三つの治療をバランスよく

 AI(人工知能)やロボットの進化で、将来、人間が治療に関わることができる領域が狭くなることも予想されます。そのうちコンピューターが精神疾患の診療をする時代が来るかもしれません。でも想像してみてください。ロボットにカウンセリングされるのは嫌でしょう。

 精神科は薬物治療などの医学的治療だけでなく心理的治療、社会的な治療も必要です。どれか一つに偏らず、それぞれの分野をバランスよくフォローできる人材が、当院にはそろっています。

 私は高知大学の医局在籍時、井上新平教授から社会精神医学、生活臨床の指導を受け、ソーシャルな精神医療を学びました。心理療法は金城学院大学の教員時代に勉強する機会に恵まれました。三つの治療をバランスよくユーザーに提供していくことを目指したいと思っています。

医療法人 精華園
海辺の杜ホスピタル

高知市長浜251番地
☎088・841・2288(代表)
http://umibeno-mori.com/


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