永井康徳[ 著]たんぽぽ企画/四六判
高齢化がひと段落して人口減時代を迎えた人影まばらな町、医師が大量に離職し、電気代節約のために照明をおとしたほの暗い病院のロビー、そんな光景を目にすることがある。
未来を描きにくい現実を前に、そんな地域医療を「守る」とはどういうことなのか。正面から向き合い、理想とする地域医療を地道に、しかし着実に積み上げてきた医師がいる。
本書は、愛媛県松山市で在宅医療の専門診療所たんぽぽクリニックを運営する永井医師が、2011年に出版した同名書の改訂版。
劣等感ゆえに選択したへき地医療の道の途上で永井医師は地域住民の生活実態に触れ、人を救うことの意味を真剣に考え始める。たどり着いたのは、医療とは「必要とされること」という原点だ。
高齢化が進む地域にとって医療とはすなわち「看取り」であることも少なくないが、本書につづられる在宅医療現場のエピソードは温かさと豊かさにあふれている。生きること、生かすことが目的になった医療ではなく、書名そのままに人生を楽しむために生きる、それを手助けするための医療。
原点回帰は時代の要請だったのか、クリニック開設から2年後には医療法人ゆうの森を設立し、訪問看護と介護支援をスタート。今年2月にはクリニック内に病床をオープンした。たった4人で始めた24時間対応の在宅医療は、外来対応が可能な「自宅替わりの」クリニックへ進化をとげた。
全国から視察が相次ぐというたんぽぽクリニックの挑戦は、現代における医療の役割とはなにか、真剣に見つめ直すきっかけになるだろう。
(大山=本紙副編集長)
問い合わせ◎たんぽぽ企画株式会社〈愛媛県松山市〉☎089・911・6333