福岡市の産婦人科医「真実を知り、繰り返さないで」
第二次世界大戦が終わる間際の1945年、旧九州帝国大学(現九州大学)医学部で起きた、米軍捕虜に対する「生体解剖事件」。当時同大医学生で、解剖に立ち会った産婦人科医、東野利夫氏(福岡市)の講演会が7月3日、福岡市のアクロス福岡で開かれた。
事件があったのは東野氏が医学部に入学した年の5月。アメリカの爆撃機、B29が日本軍の攻撃で墜落し、落下傘で降下した11人の米軍捕虜のうち8人が九帝大の解剖学教室に運び込まれた。
東野さんは補助として、解剖教室に呼ばれ、立ち会うことに。「初めはけがの治療だろうと思っていましたが、しばらくするとただならぬ雰囲気を感じました」。軍の監視下で、医師が捕虜の1人の片肺を切除して生存可能か確認したり、海水が代用血液になるか血液を抜いて実験をしたりする様子を、慄然(りつぜん)としながら、見つめていたという。
終戦後、関係者としてGHQの厳しい尋問を受け、思わず博多弁で「そげなこと言んしゃっても、わたしゃ、なんも知りましぇん」と叫んだこと、裁判で検事側の証人として法廷に立ったものの「形式的かつ一方的なもの」だと感じたこと、40歳になると事件によるPTSDで不眠や強い動悸などで体調を壊したことなども語った東野氏。
1980年には、墜落したB29の元機長で、東京に移送されたため唯一 生存したワトキンズ氏をアメリカに訪ね、ワトキンズ氏が用意してくれた 日本酒をくみかわしたと いうエピソードも紹介。 ワトキンズ氏と面会した ことで「戦争は敵も味方 も関係なく、人間の心と体を傷つけるということが分かった」と述べ、「戦 争は悲惨な思い出しか残 さないものだ」と会場を埋めた聴衆に訴えた。
この講演会当日までの1週間、アクロス福岡では「福岡大空襲体験記/九大B29捕虜実験手術の真相」展が開かれ、東野氏が集めた多くの資料やパネルが展示された。