災害拠点として病院を再編南海トラフ巨大地震を想定ー徳島県海部郡
■今年2月に新病院が完成し、3月に外来受付を開始しました。旧・日和佐高校跡地には「美波町医療保健センター」が建設中です。同時期に移転工事が続く理由は。
海部郡の直面する問題は少子高齢化で、しかも人口減がセットになった深刻なものですが、もうひとつ、海辺に面した町として南海トラフ地震による津波の脅威にもさらされています。
将来的には来るといわれる巨大地震ですが、由岐病院と日和佐病院の町立2病院はこれまで海から500㍍以内と近かったんですね。両院とも築35〜45年の建物でしたから耐震・免震性があるはずもなく、地震の際には12分以内に3㍍から10㍍程度の津波に襲われるという予測もありました。
そこで、国の地域医療再生基金を使って山側へ移転して地域の地震対策も兼ねた病院を建てることになったんです。年限の区切られた補助金ですので、当院を含む2院を同時期に移すということになりました。このあたりは標高23㍍ですので津波被害の心配もなく、建物自体も免震構造を採用して震度7クラスでも壊れない強度のものにしました。
■地震対策以外にも病院機能を充実させました。
せっかくの機会ですから、高齢者が多いことを鑑みて在宅復帰率の向上や生活機能維持のために理学療法士を2人採用して1階にリハビリ室を作りました。これまでの病院機能からすれば大きな一歩です。電子カルテも導入してIT化しましたが、最初は職員が慣れないためにご迷惑をおかけしました。
診察室も、旧・由岐病院では1つだったものが、内科が3室、外科も処置室をいれて3室選べるようになりました。さまざまな方のご尽力もあって、脳神経外科の先生に月に2日来てもらうことができ、脳外科も標榜(ひょうぼう)しています。
■地域の病院で医師不足は避けて通れません。
11年間、ずっと悩まされてきました。現在の常勤医師は外科と内科で1人ずつと、私の3人体制です。町長が動いてくださって、非常勤の先生がだいぶ増えました。
訪問診療も行っていて、施設へ行ったり在宅の高齢者など虚弱な方たちを診てまわったりしています。在宅診療は「在宅、ときどき入院」が常ですから、ベッドもないとだめなんですよ。そういう意味での病床機能も当院は担っていますね。
急性で心臓や脳の血管がつまったりしたら、すぐに徳島赤十字病院や阿南共栄病院などに運んで連携を取りますが、施設から「高熱が出た」と連絡が来た時や慢性期疾患までをやっていたら急性期病院がパンクしますので、できるだけここで対応するという連携の形にしていきたい。
県知事の主導で、海部郡と隣接する那賀郡を合わせた「海部・那賀よし(なかよし)モデル」が提唱されています。昨年、日本医師会の赤ひげ大賞に選ばれた鬼頭秀樹医師は那賀町立病院の院長ですが、この地域の5つの医療機関が人事交流や勉強会を開催して病院群として地域医療を守ろうという試みです。医師不足解消の一手になるかはまだ未知数ですね。
公立病院は学校と同じで規制が多く、自由に動けない部分も多いのです。この病院はできる限り自由度を高くして患者さんが過ごしやすい病院にしたいと思います。
いまの高齢者は戦後の混乱期を生き抜いてきた方々ですので、みとりは大事な要素です。延命ありきではなく人生の最期をどう過ごしたいのか、気さくに相談にのりながら一緒に考えてみたいですね。医学にとって死は敗北ですが、ここではそうではないんです。
美波町国民健康保険 美波病院
徳島県海部郡美波町
田井105 番地1 号
☎0884・78・1373(代表)
http://kaifu-med.or.jp/medical-minami/minami/