社会医療法人 近森会 近森病院 近森正幸 理事長・院長

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2018 年、療養病棟の廃止に病院はどう生き残るか

土佐高校出身。大阪医科大学卒業/37歳で医療法人近森会理事長・近森病院院長に就任。1989年、近森リハビリテーション病院開設。2003年、NSTを設立。10年、社会医療法人に認定。11年、近森病院が救命救急センターの指定を受ける。

高齢化率は全国2位(2014)、人口あたりの病院数や入院医療費はトップにもかかわらず、県内GDPでは下位に沈む高知県。近森正幸院長は「高知県は日本の医療の問題児」と語る。県内のみならず全国的にも経営手腕が注目されるフロントランナーに真意を聞く。

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日本の医療の問題児

 私は、高知県のことを「日本の医療の問題児」と呼ぶことがあります。べつに自虐的に言っているわけではなく、客観的なデータに基づいた結果です。

 高知は全国でもトップクラスの貧乏県であるとともに、高齢県でもあり、全国平均の倍のベッド数と3・5倍の療養病床が県内にあります。しかも在院日数が長いので、ひとりあたりの入院医療費が全国一高額です。日本の医療の3大課題を抱えながら、有効な対策を打てないでいる。もっとも、同じようなことは2025年以降、全国的にみられるようになるとは思います。しかし、こういった課題はまだ序の口で、2年後にはもっと大きな衝撃が高知を襲います。

 2018年4月には医療療養病棟2と介護療養病棟が制度廃止されます。これが何を意味するかというと、高知県で4200床が消えるということです。たいへんな事態のわりに他の病院関係者やマスコミが騒いでいないのが不思議でなりません。

 ベッドが無くなれば4200人の患者さんが地域に放り出される可能性もあります。国としては医療費と介護療養費の抑制が狙いなのでしょう。療養病床の医療区分を高めて、現在の「生活の場」ではなく重度の患者さんの「看取りの場」にするという思惑があるのかもしれません。

 経営の側からみれば、4200人分の診療報酬が18年4月から振り込まれないという現実があります。私も病院を経営しているからわかりますが、経営者はどこかで「病院がつぶれそうになったら自治体が救ってくれる」という根拠のない自信を持っています。ある意味、インフラや銀行と同じような存在だと思って現状にあぐらをかいている。今後、病院が医療の質を向上させる明確な方針を持たなかったり、経営面でも長期的展望に基づいた改善努力を怠っていれば、普通の企業と同じように淘汰(とうた)されていきます。

 これは公開されているDPC(診断群分類)データですが、たとえば循環器でみると、急性期の患者さんの94%が高知大学と高知赤十字病院、高知医療センター、幡多けんみん病院と当院の5病院に来ていることがわかります。要するに、寡占化が急速に進んでいます。

 ほかの数字でも、中小の多くの病院がここ4〜5年で平均在院日数を減らしています。これは軽症の患者さんの入院が増えていることを示しています。それとともに、入院患者数も減少し、稼働率が低下している。データをきちんと読んで解決策を打てるかどうかで10年後の病院の姿が決まってきます。数字は嘘をつきません。廃院になる病院もあるでしょうし、施設化する病院も出てくるかもしれません。

病院は二極分化します。24時間365日心臓カテーテルができる病院にしか急性期の患者さんは来ません。

病院としてあり続ける

 父が近森外科を開設してから70年目を迎えました。私が跡を継いでからの32年は、まさに道なき道を行くというか、険しい崖をよじ登っているような感覚でした。

 私の心に常にあったのは、「病院らしい病院としてあり続けたい」という強い思いです。病院は生活の場ではありません。

 病院であり続けようとしたら医療情勢に対応して変わり続けなければならないし、投資も必要です。人件費を抑えてスタッフを増やさず、専門性も追求しなければ、それは「施設」への道です。

 病院は早く患者さんを治してできるだけ早期に家に帰す機能を持つことが本来の姿です。だとすれば、急性期医療を充実させることが重要になりますし、高齢者が増えるのであれば、早期退院のために栄養サポートやリハビリテーションの必要性も増します。ひいては、多職種連携のチーム医療を充実させる必要も出てくる。

 ややもすれば、病院はゆっくりと長く療養してから退院するという方向に流れがちですが、これからはそんな悠長なことが制度的に許されない時代に入ります。

 団塊の世代が後期高齢者になる将来を見据えて、前回と今回の診療報酬改定、さらに2018年の改定、この3回の改定で日本の医療は大きく変わります。急性期病院はより急性期らしく患者さんを早く治すという機能に特化せざるをえないということで、そのプレッシャーは平均在院日数と在宅復帰率のしばりや25%ルール(※)に如実に表れてきました。

 今後は、障害が残れば急性期から回復期の回復期リハ病棟や地域包括ケア病棟に送り、在宅・地域に返すというアウトカムを要求されています。介護施設ですら要介護度の高い患者さんだけを入所させるようになっています。要介護度も高くない、医療もそれほど必要のない患者さんは自宅で暮らすか、自分でお金を出して有料老人ホームやサービス付高齢者住宅に入ってもらう。団塊の世代の高齢化は確かに脅威ですが、それを病床数を増やすことで乗り切ってしまうと、その波が去った後に逆にものすごい数が余ってしまいます。国としては病院機能を絞り込まざるをえないということでしょう。

※厚労省は、診療報酬改定における議論のなかで、7対1入院基本料の算定要件のうち「平均在院日数」「在宅復帰率」「重症度、医療・看護必要度」の3点を厳格化する方針を示している。今年4月の診療報酬改定では、重症患者割合について原則15%から25%に引き上げることで決着した。

30年間、血を流しながら崖をはい上がった者にしか見えない景色もあるんです。

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上写真=JR 高知駅から徒歩5分。江ノ口川を挟み5カ年計画で整備された近代的な病棟群が地域医療を担っている。
※写真を一部加工しています。

医療の質とは何か

 2014年12月に5カ年計画が終わり、全面的増改築が完了し、近森病院は一般急性期病院から高度急性期病院に大きく変身しています。あわせて、外来は外来センターに集中して完全紹介・予約外来制に移行しました。地域医療連携の徹底を目指しています。後方連携も、転院患者さんの47%を近森オルソリハ病院と近森リハ病院が受け持ちますが、あとの53%を近森会以外の病院にお願いしています。これからは、今まで以上に個別具体的で密接な「アライアンス連携」を推進する時代になると思います。

 病棟では、高規格の重症病棟と一般病棟との「病棟連携」を進めるとともに、多職種による「病棟常駐型チーム医療」を組み合わせ、重症で手間のかかる高齢患者さんに対応しています。

 出来高払いからDPCによる一日包括払いに変わったことで、「患者さんを早く治して家に帰す」という付加価値を売るようになりました。そのためにはアウトカムを出すことが必要で、必要な業務を適切に提供しなければなりません。

 業務量とは、スタッフ数× 能力× 時間と考えることができます。時間は労働基準法で決まっていて、能力は誤差範囲ですから、業務量を増やすにはスタッフを増やすしかない。結局、専門性が高く、自分で判断して介入できるスタッフ数を増やすほど医療の質と生産性が高まります。

 高品質な医療だと患者数は増えるし、労働生産性が上がれば単価も上がります。そうすれば売り上げが増えて、多くのスタッフを雇う原資が出せます。良い病院とは100床あたりの専門性の高いスタッフ数が多い病院なのです。

 「付加価値を売る」だとか生産性という言葉を使うからといって医療の本分からはずれているわけではありません。われわれは高知県の救命救急医療の中心を担っているという自負があります。

 病院が生き残るには、医療で人を救い、社会に貢献しなければならない。そのためにすべての戦略があります。「選択と集中」で目的を達成することができると、そう信じています。

社会医療法人 近森会 近森病院
高知市大川筋1丁目1番地16号
☎088・822・5231(代表)
http://www.chikamori.com/


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