厚労省が3年ごとに実施する患者調査によると、精神疾患で医療機関に通っている患者数は2005年に300万人を超え、11年には320万人に達した。集団生活や学校生活に困難を抱える発達障害児も1クラスに2人程度いるとされ、就学期から就労期まで一貫した医療と支援が必要とされている。大阪南部の精神科基幹病院としてリワークプログラムや児童精神科専門病棟を展開する阪南病院・黒田院長に話を聞いた。
●こころの病は増えていますか。
患者数自体の詳細な分析はともかく、精神科に行くことに抵抗はなくなりましたよね。ひとつの要因として、いわゆる駅前クリニック的なものがたくさんできましたね。クリニックなら「眠れない」などの悩みを気軽に相談できますから。
●クリニックではすぐに診断書を出す、という批判もあります。
診断書を出してしまえば、職場としては休むなとは言えません。ただ、私は思うのですが、そういうときのために産業医がいるわけでしょ。診断書が適正かどうか、産業医がきちんと判断すべきで、「精神科医は1カ月休ませろと言っているが、2週間でよい」という診断が出てもいいんですよ。風邪をひいて「2カ月休みます」って言われたらおかしいってなるでしょ。そのへんの統一感があったほうがいいと思いますね。
あとは、誰でもそうでしょうが長期間休むと復帰しにくいものなので、3カ月休むのであれば、その期間内にリワーク(復職支援)プログラム(下図)をやりなさい、といった積極的な提案もすべきです。精神疾患はたしかに難しい面もあって、風邪なら寝込んでしまうのに、新型うつ病は、病気であるにもかかわらず友達と遊んだり旅行には行けるんですよ。これは誤解を生みやすいので、休職させるにしても、その期間をどう過ごさせるか考える必要があります。
ところで、例えばAというクリニックが診断書を出してくれなかったとすると、患者さんは電車に乗って評判の良い隣町のBクリニックに行けるわけです。フリーアクセスは日本の医療の良い面ではありますが、私から見てもあまりにも気軽にクリニックに行き過ぎるような気がします。
医療費を抑制したいというわりにはそういった患者さんの行動は批判されず、医者が薬を出しすぎだと批判される。なんでやねん、と(笑)
成長するために、あちこちぶつかってもがくんです。
●児童精神科の専門病棟を持っています。
急性期医療を提供しますといってもとくに特色がなかったので、今の副院長が児童精神科を専門にしていたこともあってスタートさせました。
クリニックではないので、外来だけやっていても意味はないと思っていました。病院は入院施設を持って初めて機能を発揮できます。当院として幸運だったのは、大阪府立羽曳野支援学校が協力してくださったことです。最初は教師の方に訪問教育をしてもらってたんですが、20人近く入院していますので、校長先生が「ほうっとけない」ということで分教室ができました。民間病院に公立学校が入っているのは全国的にも珍しい。おそらくここだけです。
学校があるとできることに厚みが増します。まず不登校が解消されますので、児童精神特有の悩みである、治療はできるけど教育ができないということがなくなった。
病気の特性にもよりますが、統合失調症が12、13歳から発症すれば長期間のケアが必要ですし、一時的に心が揺れ動いて衝動的になっているのであれば「成長」することが一番の治療です。だから、まわりは見守るだけでいい。
みんな成長を妨げてるんですよ。「あれやっちゃだめ、これもだめ」って、おとなの目で判断している。彼らが成長するためにあちこちにぶつかってもがいているという視点が必要ですね。
ただ、ここで育って卒業して、地域に戻ったけれどうまく適応できないという子も多いです。ここは中学生までで、支援学校も中学までしか見ることができない。高校教育は障害を持っている子どもにとってきついんです。ただね、言ってしまえば学校だけが人生じゃないでしょ。中卒だけどうまいこと社会と折り合いつけながら生きている子はいくらでもいますから。逆に、なんの挫折もなく順調にきたエリートが犯罪を犯すことも往々にしてあるわけで。面白いものですね。
▶リワークプログラム= 医師、薬剤師、臨床心理士、看護師、管理栄養士、精神保健福祉士が連携し、①生活リズムの確保や基礎体力や活動性の向上、②病気を理解するための疾病教育、③気分の安定や体調管理のためのセルフケア、④セルフコントロールの知識や技術の獲得、⑤対人交流や集団プログラムを実施し病気の回復や再発の予防に取り組む。
医療法人杏和会 阪南病院大阪府堺市中区
八田南之町277番地
☎072・278・0381(代表)
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