WOWエマルションで医療ツーリズム誘致へ
メディカルシティ東部病院の東病院長は、前回、2013年5月号で、都城市郡医師会病院の医師たちが「理想の病院」を実現するために立ち上がった経緯を語った。理想とする東南アジア最大級の私立病院、タイ・バンコクのバムルンラード・インターナショナル病院は、年間100万人の患者の4割を外国人が占める。肝臓がんの抗がん剤特許を持つ病院長は、その強味をいかした医療ツーリズムを視野に入れる。
3年前のインタビューでは、メディカルシティ構想について語っていただきました。
あの当時は、この病院の中に町をつくるというイメージに留まっていましたが、6年目に入って違う構想が膨らんできました。JR都城駅からここまで東西に走る幹線道路の沿線をメディカルシティと位置付けるべきではないかと考えています。この病院もその一環ですが、シティの中にはさまざまな病院も並んでいます。それらをひとつのグループとして位置づけて患者さんが行き来する。シティの東にある東部病院と意味づけたほうがわかりやすい。
だから、他の病院との連携に非常に力を入れています。シティに循環バスを走らせて、総合病院として機能しても面白いですよね。
ほかに明確になってきたのは、この病院が地域で果たす役割です。各疾患ごとの専門性では、例えば、肝がん、消化器がん、肺がん、心不全などは当院でのみカバーしています。
がん化学療法センターも地域唯一の専門施設ですし、乳がんでは宮崎市のブレストピア宮崎病院とタイアップする予定ですので、都城の乳がんセンターとして機能すると思います。
肝臓がんに関しては、宮崎県工業技術センターと共同開発した、WOWエマルション(ファモルビシンを含んだリピオドールの粒子を肝臓に注入/左ページに詳細)と呼んでいる治療以外に、明治薬科大学(東京)と共同で中性子線療法の準備を進めています。
WOWエマルションについては、症例をさらに増やしたい。将来的には国内だけでなく中国本土や台湾の患者さんを招いて治療する構想があります。いわゆる医療ツーリズムの形をとると思いますが、問題は中国語が話せる看護師をどう確保するかですね。各地で医療ツーリズムが行き詰まっているのは、この部分だと思います。現実的には、中国人で日本語が堪能な看護師に添乗員という形で付き添ってもらうのが良いでしょう。
国内だけを対象にするのではなく、技術があるのなら国外にうって出るほうが展望を持てる時代になったと思います。
今日も救急を担当されていますね。
老けこみたくないから大学にいたときよりも患者さんを持っていて、今日は18人担当しました。
手術できる医師が減っていることも、私のような年寄りがフル稼働しなければならない原因のひとつです。腹腔鏡手術は教わっても、お腹を大きく開ける手術のトレーニングが十分にできていない。だから、病状が進行した患者さんや大きな外傷の処置ができる若い医師が少なくなりました。
外科の志望者が減っているのと同時に、外科がつまらない科になってきたのもその一因ですね。手術の選択肢が驚くほど狭くなった。腹腔鏡手術ではフォーマットがそろっているので応用的技術は不要で、決まりきった手術しかしない。
本来の外科の魅力は自力で手術を組み立てる喜びだったんだけど、そういう意味では夢がなくなったのかな。子どもがナイフひとつで工作するような環境もありませんし、これからはこじんまりしたことしかできないのかもしれない。
医療訴訟がこわいという人もいるが、腕がないからこわいんですよ。自分で「手術を作る」ことができる人はこわがりません。作れるから患者さんへの説明が説得力を持つし、ご家族も納得して手術を受けさせるんです。受け売りの技術論や物言いは患者さんもわかりますよ。
インフォームドコンセントが形骸化してお役所的になっているから患者さんに医師の信念が伝わらない。医師が患者さんに惚(ほ)れられるかどうか、「こいつなら失敗してもしょうがない」と思われて命を預けられるかどうか、そこに尽きると思います。
医師の頭の中にあるものをすべて見せる
尊厳死協会の宮崎県理事に就任しました。
正直に言うと、尊厳死について考えたことはあまりなかったんです。しかし、高齢社会において、終末期の過ごし方がクローズアップされるのはよくわかります。
私自身は、例えば患者さんには、「どうせ1回は死ぬんだよ。死んで仏壇や神棚に入ったときに、ご家族が『やるだけのことはやった』と手を合わせてほしいよね」というような話をすることがあります。残念な死だった、ああしていたらよかったという後悔が残るのは避けたい。そういう環境を亡くなるまでに作ってあげるというのが私が思う尊厳死なんです。そのためには100%の告知が前提となります。告知を受け入れてもらったうえで、すべてを理解していただく。
私たち医師の務めは、患者さんが医療情報を誤解しないように、手を変え、品を変えて私たち医師の頭にあるものと同じものを見せてあげること。医師ができることなんてそれだけですよ。
告知を受けた方でも勘違いしている方がけっこういるんですよ。ホスピスから逃げて来たという人もいますが、本質的には理解していなかった。そこは医師の怠慢なんだろうと思います。生命を延ばすことができないのであれば、「納得」させてあげる。
人間って、よく理解できないから不安で悩むのであって、理解できればあまり悩まないんですね。結局、情報をいかに正確にお伝えするかに尽きる。
都城医師会病院では、中心になって民間初のDMATを創設しました。
医師会病院と同じことをしていても、医師会病院なら3億円の補助金が出るのに対して、ここでの収入はゼロですから、ボランティアになってしまうんです。
医局会でも話し合った結果、余裕があるときは受け入れるという結論に達しました。少なくとも夜の7、8時以降は医師会の救急センターへ同行して送ろうと。退却したわけではなく、身の丈に合わせて時間帯の定義を明確にした。そのことで、地域に貢献できる度合がより強まります。
市民の皆さんはあまりご存じないと思うが、救急は専門性が低いと認識されていますので、新専門医制度では救急医療が窮地に陥ると危惧されています。救急医の身分保障を適切に行わないと、そのうち誰も救急をやる余裕がなくなるのではないでしょうか。
東 院長と宮崎県工業技術センターによる肝癌治療製剤(WOW エマルション)の共同研究
県工業技術センターは、1990 年代に発見した「膜乳化」という現象を「技術」にまで高め、県産業に寄与すべく研究を進めていた。膜乳化は、物質を多孔質(たくさんの小さな穴)ガラス膜の均一な孔に通すことによって、これまで作れなかった精密 な乳化物(油と水の混合物)を生み出す方法。偶然、膜乳化現象を知った東病院長は新しい肝臓がん治療製剤の開発を提案。宮崎県内に原発性肝細胞がんの発生患者が多いこともあって、センターは共同開発を決定した。
東病院長のアイデアは、多くの抗がん剤を油性造影剤の液体カプセルに閉じ込めて精密な乳化製剤を作り、それを動脈注射でがん組織に到達させてがん組織だけを死滅させるというもの。慣れない異分野研究であることや動物実験まで行う初めての経験を乗り越え、1997 年に肝臓がん治療製剤(下左写真)が完成した。現在は本格的な臨床投与に移行し、メディカルシティ東部病院は肝がん治療 センターを設けて県内外の肝臓がん患者を引き受けている。
乳化製剤を用いた肝臓がん治療のメリットは、①乳化製剤を構成する油性造影剤は肝臓がんに集積する性質があるため、がん組織を集中的に攻撃できる。さらに、がん組織が縮小する様 子を X 線 CT で観察できる。 ②治療効果が高く、とくに多発性肝細胞がんなど難しい症例に有効である。③2000 例を超える治療実績があるが、重篤な副作用がない 比較的安全な治療法である。④一定の間隔を空ければ何度でも投与が可能である、ことなど。
メディカルシティ東部病院
宮崎県都城市
立野町3633番地1号
☎0986・22・2240(代表)
http://www.medicalcity.jp/