超高齢社会を支える呼吸器内科医
―6年半ぶりに教授として戻られて、学内の雰囲気はいかがですか。
病院の改修工事がずいぶん進んでいて、医局がある棟も新しくなりました。以前は内科の医局別に、部屋やカンファレンスルームがありました。しかし、現在は内科全体で2つの大きな部屋があり、若い先生方はみんなそこに集まっています。
また、内科系の教授や准教授の個室もまとまってあり、医局間の壁がなくなりました。私が知る限り、これはあまり他の大学にはないスタイルだと思います。
約10年前から行われた内科再編成により、現在の第二内科は呼吸器・腎臓の2つのグループに分かれました。さらに呼吸器グループは、感染症・呼吸管理・肺がんの3つのグループがありますが、それぞれのグループが、隔たりのない状態で仕事をしています。
カンファレンスの際に部屋を予約しなければならないなどの不便さを除けば、これは非常に良い試みだと思います。
一番のメリットは他の内科の先生や医局のメンバー同士が一緒の空間にいることで、連携がとりやすくなったことです。
私が学生の頃は、卒業後、医局に入るとずっと医局の中だけで生活していくという感じでしたが、横のつながりができることでいろんな領域の情報が入る。それも大きなメリットだと思います。
医局間の風通しがいいことは、良い診療につながります。患者さんにとってもいいことではないでしょうか。
―呼吸器疾患の現状について教えてください。
超高齢社会の日本では、呼吸器疾患で亡くなる方が増えています。「肺炎」は死亡原因の第3位。また「悪性腫瘍」が第1位ですが、その中で「肺がん」が第1位です。その他にも、喫煙が原因とされる「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」、「間質性肺炎」なども今後増えていくと考えられていて、呼吸器内科はますます重要な領域になっていきます。
一方で、循環器内科や消化器内科と比較すると、受け持つ患者数はほぼ同じにもかかわらず、呼吸器内科の専門医の数は2分の1〜3分の1程度しかいません。全国的に呼吸器内科医が不足している状態が続いているのです。
専門医を増やすためには、研修医や学生に呼吸器疾患に興味を持ってもらえるような教育をする必要があります。
そこで、九州エリアの呼吸器内科専門の先生方と協力して、年に1回程度、呼吸器分野の面白さを伝える講習会を各地で開いています。内容は、胸部レントゲンの読み方や、手技のやり方などの講義です。
また、これまで学生たちはそばで聞いているだけだった回診やカンファレンスのやり方も変えました。学生の隣に医師が座り、医師同士の会話に出てくる専門用語を説明したり、その場で学生の質問に答えたりできる体制にしたことで、さらに学びやすい環境が整いました。
大学病院というのは、地域診療の最後のとりでだともいえます。教育面の努力の一方で、提供する医療レベルを維持していくことも不可欠です。治験や臨床研究など、新しいことにチャレンジしながら、地域医療をリードできる人材を育成していきたいと思います。
―どうして呼吸器内科医を選ばれたのですか。
子どもの頃から「お医者さんっていいな」と思っていました。その気持ちがいまだに続いています。小児ぜんそくだったので、時々小児科の先生のところに行っていたことも影響しているかもしれませんね。
私が入局した頃の第二内科には呼吸器・消化器・腎臓・循環器の4つのグループがあり、毎年20〜30人程度の入局者がいるような医局でした。研修医の期間中に呼吸器内科の面白さを知り、専門に選びました。
呼吸器は内科の中でも特に「推理が重要な領域」だと思います。
レントゲンを撮って異常な影が見つかった場合、採血をしても原因が分からないとなると、さらにCTを撮る。いろいろな病気の可能性を探り、その陰影の正体を推理していきます。気管支鏡を使う検査方法もあるのですが、限界があり、すべてを見通せるわけではありません。気管にカメラを通すので、患者さんがせきなどで苦しんでいるときには簡単にできない検査でもあり、なかなか大変です。
自分の持っている知識を使い、頭の中で想像を働かせながら、チームで話し合いを重ねて、答えを見つけるところが、呼吸器内科学の醍醐味(だいごみ)だと思います。
さらに、呼吸器は、感染症、アレルギー、がん、睡眠時無呼吸症候群、COPD、じん肺など、非常に多くの病気を扱わなければなりません。さまざまな領域の勉強をしながら、専門性を高めることができるところも大きな魅力です。
―医師を志す人にメッセージをお願いします。
医師は非常にやりがいがある職業です。恐らくどの領域に進んでも後悔することはないと思います。ただ、やりがいがある分、責任も重い。一生懸命取り組まなければ一人前にはなれません。しかし、医師を志したからには、自信と誇りを持って進んでほしいですね。
長崎大学病院
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